学会を追放されキノコの研究者を諦めた彼女は、ファンタジーの世界で大活躍をする
しいな ここみ様が開催されている企画、『梅雨のじめじめ企画』参加作品です。
キーワードは『雨』と『キノコ』を使用しました。
バーナーを作成された、幻邏さまのキノコが可愛かったので、キノコの研究者になりたかった主人公のお話になりました。
よろしくお願いします。(*^▽^*)
雨が降り続く、じめじめとした午後。
大きな屋敷の一室で、女性が泣いていた。
30歳を少し過ぎたばかりの彼女の名前はビアトリクス。
19世紀のイギリスの上流階級の子女に相応しい、ヴィクトリアン朝のデイドレスを着ていた。
彼女が突っ伏している書き物机の上には、学会に評価して貰えなかった論文の草案が乗っていた。
部屋の隅にある飼育小屋ではベンジャミンという名のウサギが、いつもと違う飼い主の様子を伺っていた。
彼女は自然科学の研究が好きだった。顕微鏡を覗き込み、自室で小動物を飼育し何枚もスケッチを書いた。
特に彼女の興味を引いたのは菌類、キノコだった。
今日のような雨の日は、特にわくわくした。
野山のそこかしこに、色んな種類のキノコが生えるから。
彼女は持ち前の観察力で、来る日も来る日もキノコをスケッチした。それは恐ろしいほどの精密さであった。
彼女の夢は、キノコの研究者になる事だった。
書き上げた論文を、化学者の叔父の勧めでロンドン・リンネ学会に提出した。
しかしミス・ヘレン・B・ポター名義の論文『ハラタケ属の胞子発生について』は内容の素晴らしさにかかわらず、学会で全く評価の対象とならなかった。
当時の19世紀イギリスでは、女性が自分たちの領域に入るのを好まない専門家たちが大多数だったためだ。
彼女は夢を諦めざるを得なかった。
机の上にある大量のスケッチ。彼女はそれらを手に取り、破り捨てようとした。
しかし出来なかった。スケッチの中に孤独だった彼女を慰めてくれ9年連れ添った友達、ウサギのピーターを見つけてしまったから。
彼女はそれを生まれ変わらせることにした。研究のための観察記録から、動物たちの冒険の物語へ
ヘレン・ビアトリクス・ポーターの描いた絵本 『ピーターラビットの冒険』は1901年に発行された。シリーズ累計発行部数は1億5000万部を超え、現在でも世界中で愛されている。
子どもだけでなく大人をも魅了する、躍動感に溢れる細密画のような美しい挿絵。その魅力は、出版から120年たっても全く色あせていない。
しかしそれが研究者への希望を絶たれた一人の女性の、観察記録から生まれたことを知る人は少ない。
ビアトリクスの遺灰は、彼女が最初に手に入れた土地であるヒル・トップ農場に散骨された。ただし、彼女の意向により夫にすらその場所は明らかにされなかった。
もしあなたがヒル・トップ農場を訪れ、ハラタケ(フィールド・マッシュルーム)を見つけたら立ち止まって欲しい。
もしかしたらその下には、茸を愛したビアトリクスが眠っているかもしれない。
ビアトリクス・ポーターの論文提出から100年後の1997年の4月にリンネ学会は、彼女の評価に不当な差別があったことを認め公式に謝罪した。
ピーターラビットシリーズ、内容もですが絵が美麗でとても好きです。
ただ、作者さんが元々はキノコの研究者を志していたのを知ったのは大人になってからです。
物凄く詳細に描いているなと思ってましたが、観察記録用のスケッチが元と知った時はびっくりしました。
手元に資料がなくほぼネット情報だけで書いたので、間違いに気が付いた方はご連絡いただければ幸いです。
最後になりますが、素敵な企画を主宰してくれた しいな ここみ様、ありがとうございます(*^▽^*)