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★第2話★

コレを執筆した時、お題で出されたテーマは『真紅』でした。

『真紅』からどんな話しを思いついたか…私は変わり者です(^^;


 あたしが小学校四年生の時、家が近くて仲のよい男の子がいた。

 少し意地悪なところもあるけれど、小二の春にあたしが転校してきて友達がなかなか出来なかった時、帰り道で最初に声を掛けてくれたのが麻野慶太なのだ。

 最初に話しかけられた言葉はもう忘れてしまったけれど。

 教室の中ではあまり話しはしなかった。たぶん、他の男子がはやし立てたりするのが嫌だったのかも知れない。

 時々面と向かうとオバキュウとか言われた。

 オバキュウってオバQの事らしい。つまり、オバケのQ太郎というアニメキャラの事だ。

 あたしは今でもそうだけれど、唇がぽっちゃりとしている。パールのグロスが似合うこの唇は、今でこそ魅力のひとつだと思うけど、小学校の時にはイヤでイヤでしかたが無かった。

 そのぽっちゃりした唇が、オバQに似ていると慶太は言い出した。

 なんでそんな事言うのか判らなくて、あたしはただ困惑していた。

 だれもオバQ知らないし……それで、わざわざレンタル店でDVDとか借りてくるヤツとかいたりしてムカツクし。

 実はあたしもそのパッケージを見て、初めてQ太郎のディテールを知ったんだけど。

 まったく迷惑な話だった。

 それでいて帰りは気が付けば慶太と一緒に帰っている。妙だ……。

 小学校の頃って、近づいてくると払いのけられない事が在る。ちょっとウザったい異性の存在を、ちょっぴり意識したりもする。

 慶太もそんな存在だったのか、それとも何か特別な縁のある男の子だったのか、今では知る由もないけれど。



 この日も、小三の時から仲の良い美智と一緒に校門を出ると、後ろから走って来た慶太と一緒になった。

 三人で住宅街を歩く。

 高速湾岸線から吹く幕張の海風が、少しだけ初夏の香りを運んできた。

 この頃は住宅街の途切れにまだ空き地があったりして、今みたいに家並みはひしめき合っていなかったような気がする。

 三人でブラブラ歩いて、慶太はなんだかアホな話しをして、それにウケて笑うあたしたちを見て喜んでいた。

 男子ってガキだなぁ。なんて思いながらも、そんなガキと一緒にいて楽しいあたしもやっぱりガキだったんだなと最近思う。



 その日あたしは、午後から少し身体に違和感があった。

 下腹部が重くて、なんだか少しだるくて。それでもとりあえず普通にしていた。

 風邪気味で微熱があっても、あたしは平気で普通に過ごせる体質だったから。

 この頃はとにかくスカートが好きで、けっこう普通にミニスカートなんかを履いていて、美智はジーンズが好きだった気がする。

 この日もやっぱりスカート姿で、赤とグリーンのタータンチェックのプリーツスカートを履いていた。

 イギリスの制服にあるようなチェックのスカートとブラウスにベストを合わせるのがあたしは好きだったけれど、よく考えたら、高校に入った今の制服は、まさにそんな感じだ……色はいまいち地味だけど。

 丸木の棒っ杭が立ち並んでバラ線が張られた空き地には、タンポポの黄色い花が溢れかえっていた。

 ヒラヒラと舞うモンシロチョウが時折陽射しの加減で白く光る。

 黒い脂ぎった角材が所々に積みあがっていたのを覚えているけれど、今思えばあれは線路に使う枕木だった。

 夕方にはまだ間の在る陽射しが、背中に照り付けて少し暑い。

 身体が妙にだるかった。あたしは再び身体の異変に気付いて立ち止まった。でも、既にそれは遅かりし事態になっていた。

 内腿に奇妙な湿り気を感じたかと思ったら、生温い感触が伝う。

「おい、どうした?」

 いきなり立ち止まったあたしに、慶太は言ったけど、彼は急にうろたえた。

 あたしの太腿に伝う真っ赤な血を見て、彼の視線は凍りついたのだ。

「お、おい……お前、大丈夫か?」

 あたしは生暖かい何かが伝う自分の内腿に触れて、慶太が近づくのを拒むように後ずさりした。

 一瞬眩暈がして、息が止まりそうになった。

 美智は最初どうしていいのか判らないでいたけれど、直ぐにあたしの腕に触れてきた。彼女も先月始まったらしい。それは後から聞いた話だけれど。

「麻野、あんたはあっち行って」

 美智が小さな手を横にブンッと振る。

 あたしと慶太の間に割り込んで、彼を遠ざけようとしてくれた。

「な、何でだよ。怪我してんのか?」

「してないよ。いいからあんたはあっち行って」 

 美智は今まで見た事のないような力で、慶太を突き飛ばす。

 慶太は何がなんだか判らず後ろによろめいて、それでも血の滴るあたしの太腿に視線をクギ付けにしていた。

 あたしの肌はとりわけ白かったから、鮮血は尚鮮明に映ったに違いない。

「大丈夫だよ。はやく家帰ろう」

 しゃがみ込みそうになっているあたしの手を、美智がグイッと掴んだ。

 ポケットティッシュを取り出して、あたしの脚を伝う血液をふき取る。

「お、俺も持ってるぞ。使うか?」

 慶太は美智に向ってポケットティッシュとハンカチを投げつける。

「ありがとう。でも、この事は絶対誰にも言っちゃ駄目だからね」

 美智は慶太を睨むように言ったけど、あたしは顔面蒼白で何も言えなかった。

「なんだよ。言わねぇよ」

 彼は少し怒ったように口を尖らす。

 ゆっくりと歩き出すあたしたちを、慶太は何がなんだか判らず少し遠巻きに不安な顔で見送った。

 あたしは恥ずかしいのとショックなのとの両方で、頭は真っ白だった。だから慶太の顔はチラ見しただけであとは見ないようにして、俯いたまま歩いて振り返りもしなかった。




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