問い掛けるは我にゃーん
くぁあぁあー……。
くしくしくし。
ん、うん?
ここは何処だ?
ワタシは、そう、あの諍いの後の、問い掛けで卑怯な人間どもによって捕らえられ…… おや?
「うにゃあ……?」
どうやら場所だけでなく、時代が違う…… 文明の度合いというか、建造物に機械的均一性がある。
歴史は感じられないが、地形を克服し気候を緩和し、一般化するほどに安価な魔法でも発明されたのか。
む、大きな柱に鏡がある。
……ああ、これは、いけない。
ワタシはスフィンクス…… だったのに。
これは『猫』ではないか。
「にゃあお……」
しかしワタシの権能は残っていた。
深い意識の底に湧く『知識の泉』に触れ、現状を理解する。
この姿はここ、現在において猫の中では大型の『メインクーン』という種類だ。
まぁ、どうやらあの店員に飼育されているらしい?
他にもスタッフはいるのだろうが…… 整った環境で、庇護を受けているのだね。
でも、やれやれ、日本か、難解な言語だ。
「フィンちゃーん、お店開けるからね~」
「にゃあ」
「はう、凛々しいのにカワイイ♡ 手足大きいのにカワイイ♡ うちのこの最強……♡」
うむ、ブラッシングの腕前は中々…… メガネ女子、誉めてつかわそう。
しかし見事な鏡だな、何処にも歪みがない。
ここまで工業技術が高まっているとは…… ワタシの知る時代から五千年は経過したというのもうなずける。
「いらっしゃいませ、あっ、いつもありがとうございます。今日はどのこを指名されますか?」
……なになに、いつも、そして指名?
しかも、どうやらワタシを指差している。
かつては魔物とも言われていた、ファラオたちの守護獣であるワタシを侍らせたい、と?
穢らわしい、ワタシの像が城の入り口だけではなく神殿の要所にあるのを知らないのか?
恐れられ、畏れられ、敬われてきたのですよ。
技術は進んでも、歴史を学ぶという姿勢は足りないらしい…… こんな事では、政治、経済、宗教など、生活水準も程度が知れると……。
「はーい、オヤツですよ~」
「くんくんくん…… ぅにゃ……?」
これは、なんだ?
知っている、たまらない、におい……。
かつて、大いなるエジプトにはスフィンクスが幾柱もいた。
ワタシは、ネメスと呼ばれる頭巾を付け王の似姿とライオンの肉体を持つ、神聖なる獣、大スフィンクスと呼ばれていた。
……そんな回想シーンを思い浮かべるほどに夢中でそのゼリー状態の食べ物を舐めてしまう。
ふ、不覚…… かつて神格化したスフィンクスであるこのワタシが。
食欲に敗北とは……!
なんなんだコレは。
本当に合法なのか!?
「にゃあぁあ…… ペロペロ……」
「ふふっ、にゃあちゃん、おいちいかにゃッ?」
「お客様、そのこはフィンちゃんです。他の名前で覚えさせないでくださいね~」
「ああ、さーせん……」
ワタシのように大エジプト生まれの高貴なスフィンクスに、このような…… ペロペロ…… くうぅ、元々猫科の身体だったせいか、この人間の与えてくるモノに逆らえない……!
「この間までもっと手足がくたくたで、しっかり歩けるかすら心配だったんですけど。フィンちゃん大きくなったものね。もう後ろ足だけで伸び上がるのも得意で、胸元に抱えたエサまでねだってくるんです」
「ほほう、それは是非ともやってもらいたい……!」
これ、は!
ヘラによってピキオン山に囲われ座していた、あの時の問答に似ている……。
男色を罪とした女神の判断で、テーバイの住人を外の国々から隔離するために道を閉ざせ、という役目(ド迷惑)だったが、民を苦しめ続けていたのは事実。
しかし人は誰も捕らえていない。
川に落として対岸へと追いやっただけだ。
まぁ、数人腰を抜かしたままで流されてしまったのはあったけれど。
『朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これは何か』
あの謎に、今の会話が似ていた。
この謎は学芸の神ムーサに教わったとされているが、実のところ民話などにも残っている歌が元。
それにオイディプスに答えてもらえたので、異教の縛りを抜けられたためワタシとしては助かった。
『その答えは人間だ。人は赤ん坊の時には四足で這い回る。成長すると二足で歩く。しかし老年になると杖をつくから三足と言える』
答えてくれたオイディプスに『ワタシは退治されたと言い広めるがいい』と告げて故郷に帰れたのだから。
「フィンちゃ~ん、ち○ーるはここですよ~」
「にゃ~ん」
それが、今ではワタシがなぞなぞを体現しているなんて……!
先程までは四足。
伸び上がりち○ーるをねだる姿は、確かに二足。
いや、シッポを地につけているから三足になった。
なぞなぞの答えは『ち○ーるを求める猫』でしたぁ……。
「恥ずかしい……」
全部、ち○ーるがうまいからダメなんだ…… ペロペロ……。
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