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ただの共同統治者同士となって一月。パトリシアのやることは変わらない。

ミアの出産はまだ先の為、誰の子かは判明していない。

そんな事など、もうどうでもい。誰の子でも、王族にはなれないのだし、単にパトリシアが『夫婦』と言うものから逃れるために利用しただけなのだから。


王子である子供達は、何かを感じているのか父であるラウルにはあまり懐かず、母であるパトリシア大好きっ子になっていた。

アントニーやルーナ、子供には懐かれそうもないグレンにまで懐きまくっている。

子供達の容姿も、ラウルに似る事がなく何故かライト家に寄っていた。

長男はパトリシアに似て幼いながらも美しく、次男は容姿性格共に、何故かルーナにそっくり。

そして三男に至っては、容姿はルーナ、瞳はアントニーという、ライト伯爵夫妻にとって歓喜しかない奇跡のような容姿をしていた。

三人揃えば「なんなんだ、これは・・・」と、誰もが思うほどある意味不思議な、そして幸せな光景だった。



理解ある周りの人達の助けもあり、穏やかに過ごす事ができていたパトリシアは一日休みを貰い、あの時以来初めて森の家へと足を向けた。

空けていたのは約三年ほどではあったが、もう何十年も前の事のように錯覚してしまう位、とても懐かしかった。

家そのものには浄化魔法と劣化防止魔法をかけていたので、外観は朽ちる事無くあの時のまま。

だが、その周りの様子に違和感を覚えた。


あの結界は誰も破れないはず・・・・

私の魔力を乗せて、父の魔道具で強化したのだから。


本来であれば、外には何の魔法も掛けていないので雑草が伸び放題のはずなのだ。

しかし、家の周りは住んでいた頃と変わらず整えられ、花壇には花が咲き乱れ、その奥に小さな畑が新たに作られているのが見られた。


―――まさか・・・


と思うが、あり得ないと否定する。でも・・・と、同じ事を何度も巡らせる。

家へと向かう足取りは早くあっという間に扉の前に着くが、なかなか扉を開ける事ができない。

心の中では期待していた。あの人がもしかして・・・・と。

だが、全く知らない人が偶然迷い込んで生活しているのかも・・・と、そちらも捨てきれずにいる。


まぁ、襲い掛かられてもやり返すけれど・・・・


大きく深呼吸し覚悟を決めて、扉を開いたのだった。


結果的に、中には誰もいなかった。

拍子抜けしたものの、すぐに気を引き締め室内を見回す。

誰かが生活していた・・・いや、もしかしたら現在進行形で生活しているのかもしれない痕跡が見て取れる。

それが誰なのかが明確に判断はできないが、もしかして・・・と捨てきれない期待が胸の中で膨れ上がっていく。

それは、台所に置かれている見慣れたカップだったり、ソファーの背もたれに無造作に掛けられている、ちょっとくたびれた見慣れたジャケットだったり、暖炉の上に飾られているかのように置かれた、あの時飲んだとっておきのお酒の瓶だったり。

周りを見渡し、その痕跡を一つ一つ確かめ大きく息を吸い込む。

そして、震えそうな手を胸元で握りしめる。いや、手だけではない。全身が震えて今にも膝から崩れ落ちそうなのを、懸命に堪えた。

すると突然、勢いよく扉が開いたかと思うと、誰かが駆け込んできた。

焦ったような表情で周りを見渡し、パトリシアを見つけるとまるで呆けたように立ち尽くした。


「・・・・ヴィンス?」

「トリシャ・・・・?」


まるで夢でも見ているかのように、お互い驚きに満ちた表情で見つめ合う事、数秒。

先に動いたのはヴィンスだった。

パトリシアの前までゆっくりと歩み寄り、こわごわと手を伸ばしその頬を、まるで壊れ物にでも触れるかのように慎重に滑らせた。

「本物?」

じわじわと感じる指先の温もりに、夢ではないのだと確信すると、ギュっと抱きしめられた。

「夢じゃないよな?本物?これが偽物とかだったら、俺死ぬかもしれない」

「っ・・・ヴィンス・・・会いたかったわ、ヴィンス・・・」

力いっぱい抱きしめあった後、彼の胸を押し互いの顔を見合わせる位・・・少しだけ離れる。

「聞きたい事、話したい事が沢山あるけど・・・その前に言わせて?」

そして、泣き笑いの様な、だけれど眩しそうな笑顔でヴィンスを見上げた。

「ただいま」

「っ!あぁ・・・おかえり」


そう言いながら二人はそっと口づけを交わしたのだった。

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