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「トリシャ、俺はトリシャを受け入れるよ。例え君と離れる時期が来ようとも、俺はトリシャだけを愛している」

自分が欲しかった言葉。何よりも欲しかった愛しい人。

もしヴィンスがパトリシアと同じ事をしようとして、それを許せるか・・・と考え、絶対に許せないと思ってしまう。

なのに自分はそれを愛しい人に許すよう求めているのだ。


なんて強欲で、浅ましい・・・・


「俺は待っている。何年かかろうと、待っているよ」

「・・・・ヴィンス・・・私は、最低・・・あなたの言葉を嬉しいと思ってしまうの」

「うん」

「私だったら嫉妬に狂いそうなのに・・・あなたには許せと言う。なんて強欲なのかと、自分が嫌になる」

「うん」

「でも、あなたを愛してる。誰よりも何よりも。手放したくないと思うほど。あなたが不幸になろうとも・・・離せないと、思ってしまう」

「うん。だからトリシャは、俺にトリシャのすべてをくれるんだろ?」

今にも泣きそうなパトリシアの頬を優しく包み込み、額を重ねた。

「パトリシア、あなたを愛している。俺の最愛になって?」

「・・・ヴィンセント、私の最愛。私のすべてを貰って?」

慈しむように唇を重ね、二人でいられるこの時間を愛おしみながら身体を重ねるのだった。




パトリシアが二十歳になれば、王太子と結婚しなくてはならない。

それまでの四年にも満たない時間を、ヴィンスとまるで夫婦の様に過ごす事を選んだ。

結婚したその後の事もヴィンスには話していた。

「子供は最低でも男児が二人必要なの。子供の性別や人数、妊娠時期は本当に神のみぞ知る状態なのだけれど、できるだけの準備はしていくつもり」

一日でも早くあの男から解放されるために、準備は万全にしなくてはいけない。

「そして、恐らく私の妊娠時期に浮気をすると思うの」

あの色ボケ王子はきっと、間違いなく女に手を出すだろう。

「できる事なら、私が後継者問題をクリアした時点で、仕掛けるつもり」

「その、ミアって女を?」

「えぇ、ミアに妊娠してもらうわ」

別に本当に妊娠しなくてもいいし、ラウルの子でなくてもいいのだ。ラウルと付き合っている時に、妊娠らしき症状が出ればいいのだから。

恐らくミアが本当に妊娠しても、生まれるまでは誰の子かもわからないのだし。

妊娠疑惑が出た時点で、ラウルとの関係を終わらせればいいのだ。

子供が生まれれば、嫌でも魔道具で誰の子か鑑定されるのだから。

そう、ヴィンスが嫌みの様に実家に置いてきた魔道具で。

「ミアの妊娠を機に、私達はただの共同統治者となる」

「そして、俺を愛人にしてくれるんだろ?」

「・・・・愛人と言う言葉は好きではないけど・・・そうよ」

どこか揶揄う様なヴィンスに、パトリシアは暗く落ち込んだように眉を寄せる。

「それも、何年後になるかもわからない・・・ねぇ、ヴィンス。待たなくてもいいのよ?あなたも幸せになるべきだと思う。この広い世界、私以外にもあなたが受け入れる事ができる女性はいるかもしれないわ」

これは付き合い始めてから何度も話してきたことだった。

だが、ヴィンスは頑なに首を縦には振らず、これ以上は聞きたくないとばかりに抱き潰すのだ。まるで、自分の想いをわからせるかのように。

ヴィンスの想いはパトリシアを癒し、救い、希望を持たせてくれる。

だから、未来に向けて準備を怠らないようにしなくてはいけない。

例え、望んだ未来が訪れなかったとしても。




愛しい未来を手に入れる為、パトリシアは形振(なりふ)り構う事無く両親でもあるアントニーとルーナ、兄のグレンにもすべてを話し、協力を求めた。

ルーナはパトリシアを抱きしめ大泣きし、この国と祖国でもある帝国への恨みつらみを呪詛の様に吐き出し続ける。

アントニーに至っては、自分の事ばかり考えずに、もっとちゃんと考えて爵位を貰っていれば、こんなことにはならなかったのではと後悔していた。

だがルーナ曰く、結果は変わらなかっただろうと言う。娘の賢さは自分たちに似てしまったのだからと泣き笑いした日を思い出す。

そしてアントニーは、静かに涙を流したかと思うとギュッと愛しい妻と子を抱きしめ、アントニーと同じ研究の虫の兄グレンもパトリシアの頭をそっと撫で、その後は二人とも急いでどこかに出かけて行った。

その後も二人はとても忙しそうにしている。

「トニー達はきっとあなたの望みを叶えるために全力を尽くしているわ。私もよ。あなたの子があのバカ王子に似る事がないよう、複雑な家庭環境を嘆く事が無いよう・・・そして、あなたが愛し尊敬されるよう、傍に置く人選をするわ。帝国に隙を見せない為にもね」

ルーナ達は可愛い娘に対し、罪悪感を持っていた。

きっと婚約を解消できたとしても、何らかの理由をつけてパトリシアは王家に取り込まれ、いいように扱われ飼殺されていただろう。

腐っても国王。最終的には従うしかないのだから。

そんな中で女王と言う地位を確約できたことは、ある意味僥倖だった。

だが、貴族としての役割とは言え、愛する人がいるにもかかわらずあのボンクラと婚姻しなくてはいけない。

この世にはパトリシアと同じ思いをしている貴族子息令嬢はごまんといる。

娘だけが可哀そうなわけではない。

だが、いたたまれない。許せない。喜んで差し出すわけではないのだから。

なら、どうするか。その役割から一日でも早く解放出来るよう親として努力する。

幸いな事に、魔道具バカな夫にはマニアックな友人が沢山いる。

あまりにコアすぎて、普通の人間は近寄らない。そんな、仲間が。


だから、大丈夫。ちょっと歪な人生になるかもだけど、パティはきっと幸せになれる。

いいえ、幸せにしてみせるから。

どんな時でも希望を捨てる事のないように・・・最後には笑えるから。きっと。


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