いじられキャラの力
《次は、グレン選手対モーブ・アッシュ選手の試合です。》
モブAですね、わかります。
【さて、グレン選手といえば学園の魔闘祭の一年生団体の部で圧倒的な実力で優勝を飾ったSクラスの代表メンバーですが》
《そうだね、中でもグレン選手はパワーファイターとして戦いに参加していたよ♪》
《そのパワーを活かしたダイナミックな戦闘に期待がかかるところです!》
初めて実況らしい実況をしてるところ悪いけどモブAにも触れてやってくれよ。
なんか既に涙目だから。
《対するは取り立てて特徴の無い手堅い戦闘スタイルのモーブ選手ですが。学園長はどちらが勝つと予想されますか?》
《うーん、グレン選手かな?教師と生徒という贔屓目無しにしてもグレン君のパワーは評価に値するよ。今大会の優勝候補の一人じゃないかな?》
【なるほど!学生でありながら優勝候補に上がるとはこの試合には期待高まります!』》
ネル実況と学園長がそう解説をしているとグレンと相手のモブが闘技場に向かい合った。グレンは堂々とたたずんでいる。
《では!準備が整ったようですので試合を始めます!》
「両者構えて!試合開始!!」
審判の宣言でグレンの初戦が始まった。
試合開始と同時にグレンは魔武器の天槌を構えてモブAにダッシュする。
「おっ…りゃあ!!」
そしてダッシュのスピードを上乗せした天槌を横凪ぎに振るう。
《風魔法》【ウィンドバレット】
だがモブAが下から放った風の弾丸がグレンの天槌が振り下ろされる前に上空まで勢いよく跳ねとばす。
「うおっとっと!」
急に天槌の運動の向きを変えられ、天槌と共に両腕をはねあげられ、所謂バンザイの体勢になったグレンは無防備な状態になる。
【ジェットランス】
それを見逃すほどモブAも人が良い訳もなく無防備なグレンの腹部に風の中級魔法の槍をぶつける。
「かはっ…!」
それをグレンはもろに食らい、体をくの字に曲げ吹っ飛んでいく。
《お~っと!グレン選手もろに攻撃を受けてしまった!》
《今のはモーブ選手の技術を褒めるべきだね。
無理に躱さずはねあげることによって、回避とカウンターを狙うなんて、余程の技術と度胸が無いと出来ないよ。》
確かに学園長の言う通り今の回避法はやるとなるとタイミングを取るのが相当難しい。
「取り立てて特徴の無い戦闘スタイル」と先程先輩は言っていたが、あれは特徴が無いというより経験に裏打ちされ、最適化された戦闘スタイルなんだろう。
だがそれは言うなれば教科書通りの戦法、不足の事態に弱いことも示している。
《しかしグレン選手、思い切りジェットランスを受けていましたが大丈夫でしょうか?》
《うーん、どうだろうね。まだ立ち上がらないところを見るとダメージはかなり大きいと思うけど……》
実況の二人に対し、モブAはさすがにあれを食らって立てるとは思っていないのか、魔武器の短剣を消している。
「リカは立てると思うか?」
「当たり前。誰が鍛えたと思ってるんだ?」
生憎この程度で倒れる程温く鍛えた憶えは無いな。
それに至近距離で中級魔法一発食らったくらいでやられてたらいじられキャラなんて勤まらん。
「ててて……今のは久々に効いたぜ……。」
そうぼやきながらグレンは首を鳴らし、平然とした様子で立ち上がる。モブAがグレンを化け物を見るような目で見ていたが、ある意味自然な反応で新鮮な反応でもあった。普段からグレンは皆ににしばかれてるから俺達は今更こんなことでは驚かない。
《なんとグレン選手、平然と立ち上がったぁぁぁ!!なんという耐久性!クラスの特攻隊員は伊達ではないようです!!》
《いじられキャラの耐久性は化け物かってね♪
さすがに毎日クラスメイトに揉まれてるだけあるよ♪》
《それはそれでちょっと悲しいものがありますね……》
「うるせえ!!」
グレン、往生際が悪いぞ。
「ふぅ、……さっきは油断したけど今度は締めて行くぜ!」
そう言ってグレンはまたモブAに向けて奔りだす
【ウインドバレット×10】
すると魔法名以外セリフが無いモブAが風の弾丸を数十発放つ。
「甘ぇよ!」
だがグレンは不自然に横に加速し、迫りくる弾丸を躱す。
「うりゃあ!!」
《属性変換…風》
天槌を上へ掲げると、属性の文字が浮かび上がり、風の文字に天槌を打ち付ける。
【天嵐荒荒】
「ぐぅっ!!」
モブAは咄嗟に短剣を縦に構えて体勢を低くし、先程とは段違いの風の威力に押されるがそれを乗り切り天槌とぶつかり合う。
「うおぉぉぉ!!」
だが二本の剣が拮抗したのは一瞬。グレンが天槌の方で小さな爆発を起こし加速させ、先程のお返しと言わんばかりにガードごとモブAを吹き飛ばす。
「まだまだぁぁ!!」
だがそれだけでは終わらない。グレンは連続で足下に爆発を起こし加速しながら、飛んでいくモブAを追い掛ける。
なるほど、さっきの回避もあれを使ったのか。
あれは魔闘祭でリカが使った爆脚って歩法だな。
モブAに追いついたグレンは爆脚で空中に飛び上がる。
「やられたらやり返す!倍返しだ!!食らえ!」
《属性変換…風》
【暴風瞬刃】
天槌は風の文字に振り下ろし、グレンは空中で爆脚を使い、重力加速度にさらに爆発による加速度を追加し、落下速度を上げる。
「なっ!?うわぁぁぁぁ!!!」
ズドォォォォン!!!!
そしてグレンは正しく流星のごとくモブAが身構える闘技場へと突っ込んだ。
《すっ…凄まじい!!凄まじい威力です!
グレン選手の只今の技の余波で不死結界までもがビリビリと震えています!!》
《今の技は魔闘祭では見せなかった技だね。
爆脚を器用に操っているよ。しかも余程しっかり鍛えているみたいだね。オリジナルよりも速いし、反動が来ていない様だ。魔闘祭以降も必死に鍛えたことがよくわかるよ♪》
《さて、巻き上がった土煙も晴れて参りました。モーブ選手は無事なんでしょうか?》
ネル実況がそう言った所で土煙が晴れて、闘技場の全容が見えるようになってきた。
「……勝ったぜ!!」
土煙が晴れると、そこには完全に伸びたモブAと、腕を真っ直ぐ突き上げたグレンが立っていた。
「し、勝者!グレン選手!!」
審判が慌てたようにジャッジを下し、グレンの勝利が決定した。
《決まりました!!この試合は、怒濤の攻めを展開したグレン選手に軍配が上がりました!!》
《モーブ選手もなかなか食らいついたけど、今回は若さに任せたトリッキーな戦闘をしたグレン君の勝ちだね。》
《いや~、最初はハラハラさせられましたけど一度攻撃に入ると凄まじい攻撃の数々でした!》
《そうだね、パワーファイターらしく一撃一撃が重い良い攻撃だったよ♪』
グレンは勝利をおさめた。