六道を司る鬼
イリヤと別れたイツキたちは、ようやく扉を見つけることができた。扉を開けると道が広がっていく。背後から爆音が轟く森の部屋を尻目に前に進む。そして走り出す。きっとイリヤは俺たちと合流すると信じて前を進む。途中でトラップが発動するがそれを突破する。暫く進むと漸く扉が見えた。それを開けるとそこは街が広がっていた。
イース王国よりも遥かに豊かに栄えていた。
「そう…。これがこの光景は滅ぼされる前の私たちの国であった。人間を私は決して許さない。」
見渡すイツキの上から鬼人が降りてきた。
「お母さん……。」
「やはり……あいつは見ているな。やりにくそうな相手を差し向けてるな?」
「いいんだぞシェリカ……俺がやっても。」
「やる……」
「そうか……無理はするなよ。」
シェリカが前に出ると母であるエリカ・ダークの前世『リース』がイツキらに邪魔をさせまいと結界を張る。
「シェリカ……」
「見てて……私の戦いを。」
「あぁ見ている。」
決心したシェリカはリースの前に立つ。
「見ていろ。お前らはこの娘が死ぬ様を。」
「簡単には…死なない…」
「堕ちろそして廻れ。」
六つの球が回転し、赤色に変わり、武器である幻槍を用いて地面を突く。大地は崩れ街はくらい闇に落ちる。崩れた瓦礫の上に立つリースと落ちていくイツキたち。
「落ちる!皆ー!」
「なにやってんだよフレイ。」
リカがフレイを殴ると正気に戻る。崩れた街は直っていた。フレイたちは幻覚を見せられていた。幻覚に耐性のないフレイは耐えられないだろう。
「シェリカは!」
「落ち着け……シェリカは見破っている。」
「ほう耐えますか。」
「幻覚の見破りは……何度も……やっている。この程度。」
「お遊び程度に喜んでは戦場で生きてられないぞ。」
六つの黒い球が回転し、緑に変わる。
デメリスが使っていた氷魔法で攻撃を行う。
《獄氷魔法》…【氷天罰雨】
氷が雨のように粒となってシェリカを襲う。シェリカは鞄がオプションワークスから札を取り出す。札を空に向けばら蒔く。そして呪文を唱える。
【オン・ビシビシ・カラカラ・マコウ・ソワカ】
六芒星が浮かび、氷攻撃を弾く。シェリカはクナイを増殖させ、呪文を唱える。
「あれ教えたのお前か。」
「隠密を得意とするなら天音流の陰陽道を学ばせる必要があったからな…その成果がでてる。」
「シェリカの特訓の相手ってまさか。」
「そうだ。呼び出したのは、平安の世より最強の陰陽師にして天音流開祖『安倍晴明』だ。」
【ノウマク・サラバタタギャテイビャク・サラバボッケイビャク・サラバタタラタ・ ウービャクシソウ・センダマカロシャダ・ケンギャキギャキ・サラバビギナン・ウンタラタ・カンマン・クラソワカ】
増殖したクナイに闇と土の混合属性……消却属性にしてリースに攻撃を開始する。リースは紫色に変色した球が召喚獣を呼び寄せ、その魔法を塞ぐように守る。黄色に変色すると幻槍を構えて、シェリカに接近戦で勝負を挑む。シェリカはオプションバックから小刀を取りだし、その攻撃を防ぐ。赤色に変色し、幻覚を見せる。リースは霧となって消え幻槍だけが残る。反応を辿ると上空から4つの剣を携え、シェリカに向け急降下してくる。魔武器のクナイを魔力を纏わせてその攻撃を防は回避するが、力及ばず吹き飛ばされ建物に衝突し瓦礫に埋もれる。かすり傷だが瓦礫から出てきたシェリカはクナイに違和感を感じ視線を落とすと皹が入っていた。
「!?」
シェリカは驚いた幾度の戦闘をこなしてきたクナイが先ほどの攻撃で皹が入ることに。
「どうした。その魔武器は使い物にならんぞ。」
「いらない。」
シェリカはクナイを収納空間に納める。武器を失っては勝機はリースにある。
「魔武器を捨てたか……勝気は私にある。」
「いらない。そんな武器はね。」
シェリカは札をばら蒔き呪文を唱える。
ー天符ー
【南無大天魔小天獣十二天狗有摩那天狗数万騎天狗、先ず白虎には、愛宕山郎坊、玄武次郎坊、鞍馬正坊、比叡法性坊、横川海坊、富士陀羅尼坊、ブエノスアイレス山、東山坊、羽黒の金光坊、朱雀坊印、タウロス前坊、大原に住吉剣坊―総じて、十二万五千五百、所々の天狗来臨影向、悪魔退散諸願成就、悉地円満随念擁護、怨敵降伏一切成就の加持、音羅山闇展開三巻か、踊れ喚けん、柄のうそわか!】
シェリカは修行で契約を果たした四獣神である白虎、朱雀、玄武、青龍を呼び出し、リースの魔物たちを戦わせる。そして
【乱れし水気を土気にて干さん!土克水っ。光を閉ざせ!夜よ、闇よ!暗黒の帳を降ろせっ。】
ー喼急如律令ー
【纏い縛り……風よ吹け……闇よ光と成りて討ちはらん】
リースの両腕に闇と光の腕が出現し、動きを拘束する。さらに両足を沼を造り引き込む。ばら蒔いた札が雷となりリースを感電させる。
リースの体に六芒星が浮かびその中心に鬼封陣の呪術を込めた札を押し込め封印し、戦闘は終わった。しかし…リースは最後の力で白色に変色し、『獄天道』を仕掛けシェリカを幻術の世界へと誘う。
シェリカは膝を付いたまま動かずじっとしていた。
イツキらを囲っていた魔法は解け、シェリカに近づくと瞳には光が失われていた。リカが幻覚を解こうとするがイツキに引き留められる。
「無理に解こうとすると心が壊れる。シェリカが自力で抜け出すしかない……。」
「だったら……。」
「俺がシェリカの幻想世界に行くという方法もある。」
そしてイツキがシェリカの頭に触れ、シェリカの幻想世界に意識を飛び込ませた。
その幻想世界とは……シェリカが密かに心を寄せていたイツキが死んだ世界で死んだ理由はシェリカを守ったために死んだという責められた世界を見ていた。シェリカは心が壊れる一歩手前までいったがイツキがそれを止める。
「い、イツキ。」
「俺は愚かだから言わなくちゃわからないだろ。」
「……好きだよ!」
思いを伝えたシェリカによって幻想世界は崩壊し現実世界に戻っていった。目が覚めたシェリカはいつも以上にイツキに近付いた。それを見たリカ、フレイ、マリアはニヤニヤしていた。咳払いし次に進むことにする。リカが何かを感じ取って振り向いた。
「イリヤの魔力が消えた。」
その頃…激しい戦闘を行なっていた、イリヤはザラクとの戦闘で、魔力がほとんどつきかけであった。盾の英雄の力を持ってしてもザラクには届かず、一方的に痛めつけられていた。
英雄の力を借りてもザラクに傷1つ付けやしなかった。
「まだ、です。」《英装》【アルジュナ】
〈破壊神の手翳〉
空に向かって弦を引く。放たれた魔力の矢はザラクに向かって襲う。ザラクは軽々と避けてイリヤに迫る。構えが遅れ懐に迫られ軽く左肩を殴られた。イリヤはザラクから離れる。そして左肩から嫌な音が聞こえた。それは骨を折られたからだ。左肩を押さえながら短剣を構える。
「な、なにが…。」
「お前の弱いところを突いた。それはもう使えない。」
ザラクはイリヤの顔を見ながらそう答えた。
キラースポットとは、鍛えても鍛えられない肉体の弱点を見つけることが出来る。
さらに頬や左足、右太もも、など様々な場所を殴られ身体中が悲鳴をあげ立てなくなり膝をついた。
(立ちなさい……たって……)
「終わりか……ならお前を殺してあいつらを追うか。」
意識を失いかけたイリヤに対して、興味を無くしたザラクは、イツキたちを追おうと歩き出した。イリヤは散らばる魔武器であるタロットを動かぬ手を無理やり動かして、それをつかむ。
殺気を感じ取って避けたザラク。
しかし行動するのが遅かった。無数の武具に貫かれていた。イリヤを見ると黄金の鎧を着て、空間から武具が顔を出していた。
「《雑種風情が…この英雄王たる我にけつをふかせるのか!》」
「貴様…は!」
その言葉を発すると、空間から大量の武器が射出される。ザラクは森の力で防ぐ。大量の武器によりザラクは魔力を消費しすぎた。一振りの剣を空間から取り出して、それ振るうと森が消滅した。ザラクは森の力を失いかけ、手に残りの魔力を貯めた弾をイリヤに向けて放つ。しかし弾も弾かれた。
空間から出てきた黄金の剣を取り出して振るった。
《あの小娘の真似事をするのは癪だが、すぐ終わらせてやる。》
『この灯りは星の希望、地を照らす生命の証。幾千の血を吸い尽くす絶望の剣』
【エクスカリバー】
凄まじいエネルギーがザラクを飲み込み、光が収まると倒れたザラクがいや…気を失ったクロトがいた。
英雄王の力を使用したイリヤはボロボロの体で引きずりながら門まで向かうが。
「いかなくちゃ……まだ、しね…ない。」
そしてイリヤは大木に寄りかかり一時的に魔力と血を失い、イリヤは皆の元へたどり着くことなく、倒れてしまった。