復讐の首領
ゆっくりと降りてきた長い道ローブの青年は死んでいるデメリスに近づいて手を置いた。デメリスの死体から魔力が抽出させ球体を作り出した。
「君の力は僕があげたものだからね。返してもらうよ。」
「!?」
《雷符》【放電する盾】
《鉄壁武装》【水銀の檻】
抽出させた魔力を自分の体内に取り込んだ。その男の背後に氷槍が出現しイツキらに放たれる。イツキは雷盾を放出し、リカは防御のオプションワークスで咄嗟に防ぐ。しかしその氷槍は雷盾とオプションワークスをも貫いた。リカはデメリス戦で消耗はしていない。が先ほどより威力が上がっていた。デメリスよりも扱いが上手く魔力が桁違いであるからゆえ、防御膜を突破したのだ。
「リカ……」
「わかってる。」
「何をしようとも僕を倒すことはできないよ。僕は目的を達成したので帰らして貰う。」
「やすやすと帰すと思うか!」
イツキは長ローブの背後に回り込んで妖力で纏わせた拳で殴り付ける。しかし氷壁が一瞬にして出来上がり、防がれてしまった。その壁から刺が幾つも現れイツキはそれを間一髪にて避ける。が目の前に現れた長ローブが氷拳にてイツキを殴り付ける。イツキは咄嗟に腕に妖力を流し防ぐが、その衝撃波で家の壁を突き破って吹き飛ばされた。リカは油断などしてなかったが目の前に迫ってきたのを確認すると羅刹にて斬りかかる。羅刹を素手で受け取められ、腹部を強化魔法にて蹴られ吹き飛ばされ、レンガの家に衝突し瓦礫に埋もれた。
「おや…軽い運動だったんだけど強すぎたかな?」
瓦礫を吹き飛ばし掠り傷を負ったリカと雷を全身に帯電するイツキが姿を見せた。
「そうだ自己紹介がまだだったね。僕は【夜明の魔剣】首領ニルス・グリモワールだよ。」
「!?」
夜桜のマスターであるクリスから聞いたことがある。謎に包まれた反王国組織がいることを。
自ら首領がこの騒動に出てくるとは思いもしなかった。しかも謎に包まれた人物が表舞台に姿を表したということは何か裏があるという概念に陥ったイツキとリカ。
ニルスは何を考えているのか読み取れなかった。
イツキは雷速でニルスに接近を試みる。しかしニルスは光魔法でイツキの進路を防ぐ。そしてリカは影魔法にてニルスの影から奇襲を行う。槍型のオプションワークスにてニルスの頬を斬りつける。ニルスは一旦後ろに下がった。
「やっぱり首は無理か……。」
「首じゃなく傷を負わせたが…。」
頬から流れる血を拭き取り不気味に笑う。
槍型のオプションワークス『侵槍』の特殊能力が現れる。傷口に呪いを侵入させ麻痺に追い込む効果が発動した。ニルスは片ひざをつき苦しみだす。
纏【ガシャ髑髏の無重力】
イツキは妖怪を呼び出して纏わせる。一帯を無重力へと変換する。
しかしそこにはニルスの姿は無かった。しかもイツキの横にいた。体勢を整えようとしたとき
《光魔法》【無情の裁き】
極光の柱がイツキを押し潰し圧縮される。細胞が崩壊する音が聞こえる気がする。イツキは髑髏の能力を使い、光の柱を押し退けるが徐々に押し負かされ潰された。光が消えると巨大なクレーターが出来上がった。その中に纏が解除され大量に血が飛び散り返答がないイツキが倒れていた。
リカは刀型オプションワークス『修羅』を鞘からゆっくり抜きニルスに構える。返事のないイツキを無視して息を整える。静寂が続き、瓦礫が地面に落ち音が聞こえたと同時に駆け出した。短剣を5本ニルスに投げる。ニルスはその5本を振り払いリカに向かってくる。ニルスは一瞬動きが止まった。確認すると足が凍りついていた。リカは短剣を投げたと同時に修羅に氷と霧の属性を付与させ動きを止めた。しかしニルスは光炎魔法にて氷を溶かす。それと同時にリカが放つ。
《天音剣術特式玖ノ型》
【神霰の柱】
この技は相手の懐に飛び込み残撃を16回ほど打ち込む奥義だ。
しかし一瞬の最中それを打ち込むのは不可能に近い。だがオプションワークスがあるからこそできる。
「がぁ。」
《光魔法》【天よりの光鞭】
リカがこの技をくらってしまい、吐血しながら吹き飛ぶ。回復魔法を行使しようとしたが、魔力を乱され発動出来なかった。リカは網膜に魔精眼を張って警戒していたが、ニルスはツボを刺激してリカの回路を乱したのだ。
「今だ!イツキ!!」
「!!」
リカがそう言った。ニルスはそこへ視線を送ると確かにそこにはイツキが倒れていた。しかしその姿は徐々に消えかけていた。妖術による有幻覚で錯覚に陥っていた。ニルスは目を見開いた。実力者でさえ錯覚させる魔法は体験したことが無いからだ。
そうリカはそのために囮となったのだ。
イツキはニルスの遥か上空に待機していた。そして妖力を大量に流し、重ね合わせて一気に落下していく。その速度は音速を越えていた。ニルスは落下してきたイツキに向けて僅かな魔力の防御壁を張った。
《光魔法》【星光たる城壁】
《天音剣術…【消天ノ太刀】》
【神要らずの抜き撃】
「はぁぁぁあ」
死ぬかもしれないという錯覚をさせるほどの剣圧が防御壁に衝突したその突きは、あっさり破りニルスに連撃となって襲いかかった。それが止むとニルスは地面に叩きつけられ、イツキはゆっくりと降りて膝を付いた。ニルスとの戦闘で妖力を大量に消費して貧血を起こしていた。
数分後やっと立ち上がったイツキはニルスも元へ歩いていく。リカはニルスの廻りに魔力を乱す装置を展開し捕縛するところだった。
「もう終わりだ。」
「その様だね……向こうも終わったようだ」
「リカ下がれ!!」
椿を突きつけたときニルスの身体中が発光した。尋常出ないほどの輝きにリカを下がらせた。そして装置が破壊され空へと上がっていく。そしてニルスは頭に角が出現し、顔には刺繍が浮かび上がっていた。さらに魔力も上昇していた。
そしてニルスの横に見覚えのある人物がいた。
「何故そこに居るんだイロハ!」
イツキの主人であるイロハ・ツムギがそこにいた。しかしイロハもニルスと同様に何かに変貌していた。
『黙れ人間……我は高貴なる鬼の一族であるぞ。』
イロハだがイロハでは無かった。鬼と名乗ったのだ。
「お久しぶりです姫。」
『うむ。ニルスか1000年ぶりだな。』
「姫も相変わらずで。」
『この娘の体に馴染めん……それ。』
イロハの放った唯の【火球】はフエベビィーラ連峰に直撃し、火柱が上がり消滅した。
「お人が悪い……その力でも足りないと?」
『そうは言っておらぬ……小娘がまだ拒んでおる。』
「では始めようか……復讐の時だ。仲間を集え!」
《転生魔法》【鬼人降誕】
ニルスは巨大な術式を展開し発動する。すると王国中からいくつもの光の柱が伸びる。