アデルたちの戦い
アデルは乱戦の中、辺りを窺う。
レアの精霊魔法で小鬼達が木の葉の檻で閉じ込め、出ようとした時切り付けられるため、様子を見ているようだ。
レアも細かいステップをしながら器用に小鬼の喉元をレイピアで突き刺し倒しているようだった。
(イツキは心配はないが…あのでかい蜘蛛はなんだ?)
アデルはイツキとでかい蜘蛛を横目で見ながら思っていて気を取られていた。
「アデル!」
突然レアが声を出す。
その声に我に帰るアデルの横から2匹のゴブリンが接近していた。
《鞭魔法》
【高速鞭乱舞】
小鬼達は手に持っている武器を振りあげ攻撃する。
アデルは素早くかわすとすれ違いざまに首元に鞭で叩きつける。青黒い血が噴ふき出しそのまま2匹の小鬼は喚わめきながら絶命した。
「よそ見すんなよ大将!」
クレアは剣で小鬼を突き刺しながら注意した。
「悪い!」
ただ言葉少なめにそう返事をするアデル。
(さて、どうするか……)
奇襲に失敗したアデルは次の手を考える。現在の戦力を計りにかけ状況を再確認しながら答えを探す。
レアのお陰で戦場は混乱し一時的に防御陣のように木の根が敵を阻はばんでいる。
(撤退か……。このまま一矢報いるか)
アデルはチラリとイツキと小鬼皇帝を見る。イツキから距離を取りながら牽制している。蜘蛛同士の戦いはあまりにも一方的すぎて話にならなかった。
「…チッ、しょうがねぇ。」
吐き捨てるように独り言を言って、そのまま小鬼将軍に向かうアデル。
「ここは任せる!」
そう言ってそのまま一直線に飛びだした。
アデルはそのまま小鬼将軍を攻めるが、アデルが近づけばその分遠ざかる。鞭の間合いに入らないように慎重に戦い始める王様小鬼。
(やっぱりか……。)
アデルは外見からこの種だけは他のゴブリンと違う異様な能力であると理解する。と同時に厄介な問題に直面することになった。
将軍は気配察知も優れ、特に振動に敏感な生物がいれば反応し瞬時に殲滅する。つまりアデルの歩く振動に反応して動いていると言っていい。
「とりあえず行くぜ!」
アデルはそう言うと鞭に魔力を集める。
【暴風鞭翔鶴】
アデルは回転しながら、そのまま鞭を振り抜き幅2mの風の巨刃を飛ばす。鋭利な刃では無い風の暴風そのものを竜巻のように纏めたものが小鬼将軍目掛け一直線に向かう。
が、そのまま小鬼将軍は大鉈でそれを弾く。
と、それを予測していたかのようにアデルが投擲用の短刀を投げつけていた。
しかし、小鬼将軍は手をかざし、手のひらから電磁波を放出し、それは防御膜のように広がり、アデルの投げた短刀を巻きこんで散って行った。
「アデル、無茶しすぎだよ。」
レアが駆け寄る。
が、アデルは独り言を呟いてレアの問いかけに答えようとしない。
その間にクレア達も小鬼達を倒して徐々に後退してきた。
「作戦は失敗だよ、早く撤退の準備をしな!」
クレアは現状からそう言った。
いくらイツキが小鬼皇帝と戦っていても数の暴力には敵わない。しかし作戦は失敗している。いくらイツキが奮闘しようとも、奇襲作戦はもはや意味をなしていない。それどころか逆に数の不利で追い詰められていた。
「撤退しないの? あたしの魔法もうすぐ切れる感じがする。」
レアが小鬼を倒しクレアとアデルの所に向かって来た。
「それが、こいつが応じないんだ。」
するとレアの精霊魔法をかいくぐり一匹の獣鬼がクレア達に攻め込んできた。大きな木の昆棒を持ち、奇声を上げ振りかぶりながら攻撃をしようと大きな巨体を揺らしながら向かってきた。
「レア来るよ!」
クレアは叫んで警戒させる。
それと同時にアデルがその場から飛び出し、また小鬼将軍に向かっていった。
「あの馬鹿!」
思わず叫ぶクレア。
それとは関係無しに獣鬼はそのまま距離を詰めて襲いかかるが。
寸前の所で横からナルシストが首元に槍を突き立てて一撃の元に獣鬼を倒した。
[スドン!]と獣鬼が倒れた音が地面から響く。
「大丈夫かい、恋人達。」
そう、キザなセリフと格好をしてナルシストは、クレア、レアを見る。
「ナル……ありがとぉ!」
レアは息が上がりながら感謝する。
「ナル後ろから来るよ!」
レアはすぐさま注意した。
「おっと! 下がるか。」
ナルはすぐさま槍を構えそのまま後退していく。
「で! どうするこのまま撤退かい?」
ナルは辺りを警戒しながら2人に訊きいた。
「私の魔法も切れそうだから逃げた方が良いんじゃない? と言うか逃げるべき! クレアもそう思うでしょ?」
「そうしたいけど、あれは狂っちまったのかねぇ?」
2人も辺りを警戒しながらアデルを横目に見る。
アデルは先ほどからブツブツ呟きながら、鞭に魔力を流し、中距離から攻撃しているが見事にかわされている。その行動は傍はたから見ればやけくそで攻撃しているように見える。
「このまま撤退ならオレが殿を務めるよ。」
ナルが男前の発言をする。
「カッコイイ。あなたに抱かれたい。生きて帰れたらだけど。」
レアは冗談のように言う。空元気の表情で。
「それじゃあ、わたしが相手してやるよ。」
クレアも冗談のように言い出した。
「本当かよ! こりゃ絶対生きて帰らないと。」
ナルは嬉しそうに精気を取り戻した顔をする。
槍を振り回しながら小鬼達の群れに突っ込んだ。
そう言って緊張感の無い会話をしながらクレア達は気を引き締めた。
『絶望した時こそ阿呆話が大事な時がある』――そう冒険者の金言を知っていたからだ。
ようするに前向きな話をして絶望するな、諦めんな! と、この言葉に込められていると解釈かいしゃくされている。
「このままじゃ危険だから場所を移動するよ、徐々に後退してアデルを援護する。」
クレアの命令にレアといつの間にか戻ってきたナルから「了解」と声が返る。
アデルは先ほどから鞭と投擲を繰り返し単調な攻撃を続けていた。
しかし、成果は出ていない。
(あと……少しで完成する。)
アデルは攻撃を繰り返しながら思っていた。
真剣な顔で小鬼将軍と対峙している。
小鬼将軍も細かく奇声を上げながら警戒音を鳴らしている。決して近づかないが離れもしない、一定の距離を常に保ちつづける。
目をギロギロと動かし辺りを警戒していた。すると突然動きを止める。ニタァと笑うような表情をすると、アデルがいる方とは関係ない場所に左手から糸を飛ばした。
すると背中から6本腕が出現した。全て使って踏ん張り、腕や肩周りからも筋肉が膨張しだして何かを引っ張りあげた。
――大きな倒木の一部だった。
まるで鎖のついた破壊球のように振り回す。
そしてそのまま“ソレ”をアデルめがけて振り下ろした。
「クソ!」
思わず声を上げ回避に専念するアデル。
[ドォォン!]とアデルがいた場所から鈍い音がして、葉が舞い飛ぶ。
そのまま左に飛んで転がりながら回避したアデル。すぐに起き上がり戦闘体勢を整える。
小鬼将軍も同様に糸を使って木を引っこ抜き自分の近くまで引っ張るとソレを右手3本で持ちあげた。
ニタリと笑いだす小鬼将軍は自分が有利と理解したからだ。
(ちくしょう!あともう少しなのに……)
アデルは悔しそうな顔をした。