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混乱と鬼

 ウザイル・ギルバート率いる王国軍は森の中に逃げ込んだ小鬼ゴブリン達を倒していった。威勢よく進んでいく。

 小鬼ゴブリン達は逃げるだけだ。槍に突かれ、弓矢を放たれ、剣撃で背中を切り裂かれ数を減らしていく、馬の蹄が地面を蹴る音と悲鳴が森林の中で響き渡る。

 血の匂いと兵士の威勢いせいのいい声が森の奥深くに流れていった。


 ウザイルは馬上から順調に敵を攻めていた、もうかなりの数を殺している。

 巧みに馬を操り小鬼ゴブリン達の横に馬を近づけて槍から剣に切り替えて斬っていく。

「一気に畳み掛けろ!一匹たりとも逃がすなよ!!!」

 自分の部下達にげきを飛ばした。

 鎧の上からでは分からないが声は高揚こうようした声でずいぶんと楽しそうな感じだった、戦闘で気持ちが昂たかぶっているのだろう、周りの兵士も同じ様に声を上げていた。


そう…全ては順調に運んでいた。


「だいぶ森の奥まで来ました。引き返して冒険者と合流しませんか?」

 馬車に乗りながらウザイルの後ろからそう老人の声がする。

「じぃ、何を弱気な事を言っているんだ!それでも元騎士か!このままや奴らを全滅させるんだ。我がギルバート家の家名に掛けてだ!」

「しかし若、この先の森は急勾配があり、何より木々が邪魔をして馬が走るには奥は狭くなります。ここは一端引いて戻るべきでは?嫌な予感がします。」

「馬鹿者が! 恥を知れ! このまま全滅させるんだ! 冒険者共に騎士の栄誉と力を見せつけるのだ!」

 ウザイルもの凄い剣幕で怒る、じぃと呼ばれる老人騎士に怒鳴りつけた。

 その威圧感にその老人騎士も黙ってしまった。


「おい、あそこにゴブリンの群れだ!」

 他の兵士の声がする!森の奥に何十匹かの小鬼ゴブリン達の集団が逃げていた。


「そのまま追いかけろ!」

 ウザイルは指示を出す。


そして王国兵士達は森の奥へと進んでいった。

 しばらく追いかけたが小鬼達の姿は消えていた。


「どこに行った! クソ!」

 と、貴族とは思えない悪態あくたいを吐きながらウザイルは馬を進める、森の奥は木の根や急勾配の細かい崖などが増えていきなかなか馬を全力で進められないでいた、それに木の枝が張り出し行く手を塞ぐ。

 更に進むと崖の隙間とも言うべき大きな岩の隙間に小鬼達が逃げ込んでいるのが見えた。

ウザイルは進路を変えて急いで突撃していく。

 辺りは道幅みちはばが狭くなり、ウザイル達は長蛇の陣形で進んでいくと視界が開けた場所に出る。

 そこは周りを4~5程の段差に囲まれた崖のような場所だった、すり鉢状にほぼ円形の場所にウザイル達は到着する。いや誘い込まれていた。

 その崖の上には辺り一面に小鬼達が待ち構えていた。

 全員ニヤニヤ笑っている様子だった。


「ギャ、ギャァアア!ゲギィウ!」

 1匹の大型な小鬼が現れて奇声を発しながら命令を下す。


「全軍反転逃げるぞ!」

 ウザイルはすぐさま命令を下す、余りに悪い地形と待ち伏せされていた事に気がついたからだ。鮨詰め状態のこの状況にも気づいていない。


が……全ては遅かった。


 小鬼達は石を投げてきた。どこにでもあるこぶし大程の大きさの石を“四方八方前後左右”と言葉の意味が重複する程の石の雨が降りだす。

 甲冑かっちゅうを装備している者にとって致命傷ちめいしょうにはならないが馬は違う。

 突然の石による攻撃に恐慌パニック状態になり、乗っている兵士達を跳ね上げ振り落とし始めた。

 地面に転がり落ちる兵士が多数出る、それでも止まない石の雨。1人の兵士の兜を貫き絶命した。もう1人は片目を失う状況ができてしまった。状況は最悪の方向へと向かっていく。


「落ち着け、皆、落ち着くんだ! 逃げるぞ!」

 必死に声を上げるウザイルだが兵士達はそれどころでは無い。

 辺り一面王国兵士の悲鳴が上がっていく。

そこに更なる恐怖が待ち受ける。


[ゴン!]と、石より岩と言った方が正確な大きな物体が兵士の頭を直撃し血飛沫が飛び交い潰れた。


「獣鬼と剣王小鬼ナイトキングだ!」

 1人の兵士が叫ぶ。


 そこには紛れも無く獣鬼トロールが20匹以上とそれを率いる剣を持った小鬼が現れた。

各武器を持った小鬼が進化するとそれに特化して産声を上げる。王種の小鬼は人前に現れることは滅多にない。皇帝小鬼との出現が王種の発破をかけることになった。


 剣王小鬼の号令のもと、獣鬼が手当たり次第に大きめの石を投げだした。高低差もある為、勢いよく投げだされた石は兵士の身体に当たるとそのまま馬から投げ出される程の衝撃しょうげきを生んだ。

 完全に形勢逆転した王国軍と小鬼軍、逃げ惑う兵士だが出口が狭く逃げ出せないままでいる、更にその崖の上にも多数の小鬼達が石を投げて狭い道にいる兵士達も同じ様子で混乱していた。

 更に、小鬼達が倒れた兵士目掛け段差から飛び降りてくる、持っている小刀や農具、槍を使い複数で群がりながら王国兵士をたたみかける。

 甲冑の隙間から剣先や槍を突き刺して攻撃を加えていく小鬼達、悲鳴を上げ絶命するのが一目でわかる程の血が甲冑から滴したたり落ちていた。

 その内に兵士の死体は甲冑をはがされ、むき出しになった肉体に武器を突く刺し、まつり上げられるように小鬼達は見せびらかしていった。


 そして、一斉に小鬼の群れが襲おそいかかった。


「逃げろ! 逃げろ!」と、言う声が響き渡るが上手く逃げたせていない。


「馬鹿者、私を先に逃がすんだ!」

 と、ウザイルは大声を上げるが、その内、頭に強い衝撃を受けて吹き飛ぶ。

 馬上から落ち、身体が意思に反してゴロゴロと何回転もして止まった。

 何とか立ち上がろうとするが、上手く立てないまま、視界に大きな影が映った。

 そこには、醜い顔と今まで見た事もない大きさと体型の小鬼がいた。

 そしてはらの底から恐怖する程の咆哮ほうこうを吐いて襲いかかってくる。

 それが、ウザイル・ギルバートが戦場で見た最後の光景かと思えたがその時、空から誰かが降ってきて小鬼たちを葬った。


《天然理心流》【燕斜剣えんしゃけん)


刀を右斜め上段に構え、小鬼に切りつけると見せかけて前を横切り、防御の困難な左側に回り込み、斬る技を放つ。


その人物は黒い軍服を見に纏い、細い刀【和泉守兼定】を用いて斬っていく。

コウガがカグツチに眠る魂【土方歳三】を憑依して現れた。

そしてウザイルに元へとコウガが歩み寄る。そして逃げ出そうとするウザイルに向けて刀を向ける。


「逃げるなよ。背を向ければ斬る。」

「な、なんだと!俺を誰だと…。」

「知るか。騎士(武士)なら斬られる覚悟をもって死ね。」

「へぇ?」

「こんな態度でへこたれるようなら士道不覚悟で切腹しろ。やる気があるものは俺に続け!」


 ウザイルは戦闘能力を無くし、コウガは刀身を小鬼に向けて士気を上げる。形勢も悪いまま王国兵士は獣鬼の数を減らしていく。

逃げ場無く逃げようとするウザイルは滑稽こっけいおろかだった。

 もしこれが無能の指揮官の元の兵士達の光景だとすると哀れと言っていい程の大敗のまま、生き残った王国兵士達は馬に乗って逃げる者、そのまま走って逃げ出す者様々だったと言えるだろう。

 そのまま小鬼は四方八方にその場から逃げ出していた。


 小鬼達を追いかけ始める1人の鬼(光河)がいた。

 その光景は逃げ出した小鬼からすれば悪魔に追いかけられるのと一緒だった。

しかし逃げ出す小鬼を斬り殺す剣王小鬼がコウガの前に現れた。コウガは笑みを浮かべ


平晴眼(ひらせいがん)】の構えを取る。

これは天然理心流の基本の構え。

天然理心流を修得する者は最初にこの剣技を修得しなければならない。左の肩を引き右足を前に半身に開いた平青眼の構え。刀を右に開き、刃を内側に向ける。


剣王小鬼は大ぶりで剣を振る。木をも薙ぎ倒しながらコウガへと向かってくる。


《天然理心流》【奏者(そうしゃ)


この技は相手が攻撃をして来た時に身を守る為に繰り出す技であり、攻撃は行わなず、相手を抑えるのみに止まる。技は多彩であり、刀で相手の攻撃を受け、刺す構えを取る「柄返」や、素手で相手の鍔元を抑え、投げ技で押さえ込む「繰落」等、様々な状況に転用できる技である。


剣の軌道を晒して隙が出来た剣王小鬼に続けて技を繰り出す。


《天然理心流》【刀抜様之事(かたなぬきざまのこと)


相手の胸元を這い上がるように迫って喉元を襲い、回避が難しい。二撃目は切っ先を相手の鼻先に付けたまま反転し、剣王小鬼の手首と脚を切って戦闘能力を失わせる。そして倒れる剣王小鬼の首を刎ねる。


「大将は倒した。残りを片付けるぞ!」


その言葉に士気が上がり小鬼たちを追っていく。顔に小鬼の血を浴びながら迫る気迫に小鬼たちは刈り込まれて行った。



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