作戦開始と罠
イツキたちは草原の丘にある防柵の前に並んでいた。斥候が小鬼の集団を発見しこちらに向かって来ているとの報告が入ったからだ。さらに報告が連絡が途絶えたことにより、現場は慌ただしくなっていた。
王国軍500名は陣の中央に綺麗に整列をしている。その前に剣突き刺して目を瞑っているコウガが立っている。
冒険者達は後方の方に追いやられ適当に陣を張っている。イツキもその中で適当に時間を潰していた。
「来たぞ―――!!!」
どこからか声がする。
丘から見ると小鬼の集団がゆったりと歩いて行進しているのが見えた。
草原の緑の草が汚いドブ色の集団に覆われていく。
身長が90~120㎝と言う小柄な魔物で、醜にくい面に長い耳、皺しわだらけの顔が特徴の異形の集団が奇声を上げながらその集団は現れた。
ざっと1万くらいいると思われるがボブゴブリンはいるが、上位種が確認されてない。
「ギャン、ギャギャ……」と、イツキ達には理解できない言語を喋りながら小鬼達は王国軍が築いた拠点に近づいてくる。
「数が多いが……上位種と皇帝がいない。」
イツキは小鬼の軍を見ながらそう思っていた。
何度か戦場を経験している者なら、接近する軍の大体の数は計れる、イツキも例外では無かった。
「そういえば…」
「見た所1万位しかいない、事前には数は不明って聞いただろ、後はどこにいるんだ?」
「そう言えば。」
イロハも首を傾げる、余りにおかしな小鬼の軍だったからだ。
それとはお構いなしに王国兵士500名は小鬼の集団を見たら即座に声を上げ士気を高めている。
「まて…明らかにおかしいぞ。」
「おや?勇者さまとあられるお方が怖気付きましたか?所詮は子供のようですね。あなたはそこで待っていなさい。出る幕はありませんよ。」
コウガが引き止めるがウザイルは聞く耳も持たず進んでいく。
そして集団の真ん中にいる、他の兵士とは装飾が違い羽飾りを多用している全身甲冑の騎士の男が声を上げる。
「名誉ある騎士諸君、この戦いに勝利し、どこかのカネの亡者どもに、騎士の誇りと忠義を見せつけようではないか! さぁ、ウザイル・ギルバートの名のもとに栄光の騎士よ、我に続け!!」
そう言って、王国兵士達はウザイルの号令後、角笛を鳴らし突撃を開始する。
鋒矢の陣形で綺麗きれいに整った形だった。
平地の草原を、装飾が施された布の生地と鉄当てで防備された馬が戦場を駆け巡っていく、[ドドドドドドド……]と、重低音の音が地面から鳴り響き、馬の鳴き声も響き渡る。
「あいつら、作戦も何も無いな……」
イツキはその光景を防衛拠点から眺めていた。
「イツキ…あの王国兵士達はなんで勇者を置いて突撃したの?」
イロハも疑問に思った事を口にする。
「そりゃ~、騎士の名誉の為だろう。ご苦労な事だな。それにコウガもあの状況の可笑しさに気付いて何か言ったんだろうが暴走してあんなことしたんだろ。」
「それより見ろよ。激突するぞ」
マリアが指をさす方向には小鬼の軍と王国兵士がそのまま衝突した。
小鬼は陣形の何も無いそのままの状態だった、防具も何も無いまま、人から奪うばったであろう農具や剣、短剣、槍などを各々が適当に装備している。
そこに鋒矢の陣形を敷いた王国軍が突っ込んだ。
綺麗に小鬼の軍を引き裂いていく。
小鬼達はなすすべも無く蹂躙され始めた。イツキの所からでも小鬼の悲鳴のような声が聴こえていた。
「おうおうやるねぇ〜。見事に引き裂いたか、口だけの若造じゃないってわけだ。」
リカは現状を見て称賛の言葉を贈る。
「リカ嬉しそうにしない。私達何もして無い。」
リカの横でイロハは不満そうにそう言った。
「……この依頼は、どんなに戦果をあげても報酬は一律だ。頑張っても変わらないなら、王国兵士に頑張って貰った方が楽だろ。俺たちはあいつらが流した奴らを倒すだけだ。」
「そうだけど、おカネ貰っている以上はやらないと。」
「そう言うなよ、周りを見ろよ、他の冒険者達は動いて無いだろ、みんな解かってるんだよこの状況の可笑しさに。」
「そうだけど……。」
イロハが辺りを見回して確認すると、他の冒険者達は静観を決め込んでいた。
すると戦場で声が上がる。
「ギャ! ギャ! ガギャ――!」と、上位小鬼らしき者が声上げると、戦場から1方向に逃げていく。近くにある森林に小鬼達は逃げたして行った。
脱兎の如き逃げ足で小鬼達は武器を投げ捨てて逃げていく。
「魔物達が逃げたぞ、追え―――!流すな!!」
ウザイルはすぐさま命令を下す。
その命令に周りの王国兵士は「オオォォォ――!」と大声を上げ追撃し始めた。
逃げる小鬼達の背後から容赦ない槍の一撃が突き刺さる。蹂躙された小鬼達は更に数を減らし森に逃げ込んでいく。
その後を追いかける王国兵士達、容赦ない攻撃で小鬼達を追い詰めていった。
※※※
「馬鹿ヤロ―――! そいつは罠だ――!」
王国兵士の戦いを見ていた冒険者の1人が声を上げる。
その声に気がつかないまま王国兵士達は森の中に消えていった……。
「奴らいいように誘き出されている。」
「へぇゴブリンにしてはやるね。それに、引っかかる騎士団はアホだな。あんな初歩的なことにもわからないとは。」
「明らかにその方向に上位種がいる。」
「なんでだ?」
「お前はバカなのかフレイ。普通、逃げるなら四方八方に分かれて逃げるだろ、それが謀ったみたいに1方向だ、冒険者用語なら“釣り”だな、アレは、それに森は騎馬の有利を潰すからな……授業で習っただろ?」
「そうだっけ?」
イツキの言葉にフレイは首を傾げていた。これだから脳筋はと思った。
こうして、王国軍は見事に罠に引っ掛かる。