学園の授業
イツキたちは前の依頼が完了してから数日経っていた。
現在は学園の授業で『コバルトウルフの毛皮採取』の依頼を受けていた。―― イロハ、イリヤ、マリア、フレイの即席チーム『日輪(フレイ考案)』と一緒に。チームリーダーはマリアがすることになった。
イツキは同行禁止と学園長より言われたためいない。
コバルトウルフは四足歩行の狼型の様な魔獣だった。
魔物ランクはFランクなので弱いが……その毛皮の価値が高かった。
現在市場ではその価値が値上がりしている為、ランクは低くともカネになっている。だだし、倒し方に注意が必要だった、胴体の毛皮を傷つけない様に首を一瞬で切り落とすか動きを封じて麻痺またはその他の手段で戦闘不能に追い込む事が推奨すいしょうされている依頼だった。
倒すだけでは無いのが、学園の授業であり。冒険者の依頼なのだ! そこは臨機応変に! ――と過去の冒険者たちの金言もある。
その為、依頼ランクはCランク依頼になっていた。(※依頼ランクは全ての状況を加味して決定されます)
Dランクの依頼でもいいのだがDランクチームはギルドレベルが21~40と区々(まちまち)の為下手な冒険者にでもあたったら毛皮が駄目になってしまう、それに、ブルーバットルは狩る時期が決まっている魔物だった、繁殖期と子供を育てる期間の依頼は禁止されている。
弱い魔物が相手で狩る技量のある者にとっては美味しい依頼といえる。
イロハたちはホルンの町の東の草原、『ベルバラの草原』と呼ばれている所で依頼を開始していた。
ホルンから大体、馬車で2日間進んだ草原の中に拠点を作り仕事をしている。
天気は快晴の絶好の狩り日和と言えた。
草原にある木の陰でマリアは近くにるフレイに合図を送るフレイもマリアのハンドサインに頷く。
事前に教えたがなかなか覚えてくれなく苦労した。
「イリヤ、イロハ…風炎の矢…5弾位あの集団に撃ってくれ。頭を狙えよ。」
マリアは近くにいるイロハたちに頼んだ。
「いいの?20弾はいけるけど。」
イロハも小声でマリアに返す。
「駄目だ。イロハは5弾だけ! それ以上は撃つなよ、俺達は移動するから……5分後位にここから撃ってくれ。そしてイリヤは牽制を。」
「わかった。」「えぇ。」
イロハ、イリヤは短く返事をかえして、マリアとフレイは移動を開始した。
コバルトウルフに警戒されない様に風の向きに気をつけながら数少ない木の陰を移動する、コバルトウルフは草原の草を食べて休んでいた。警戒はしていない。
「じゃあ、次行くぞ。」
「了解だ!」
小声で威勢のいい返事をするフレイ。――フレイはガントレットを打ち付ける。
冒険者は仕事によって持つ武器が変わる事はよくあった。――技量がある者だけだが。
《英霊装着》[セイバー]
【エルノ・ノシュターク】
イリヤの英霊カードは並行世界すなわち別時空の英霊を呼べる。地球の英霊を召喚したり、憑依、装備することができる。
エルノ・ノシュターク
200年前における第一次人魔大戦で武功を挙げた女性戦士。
細身の剣を右手に、左手の手甲に短筒を装備していた、コレは短い距離だが短矢を飛ばせる携帯武器の一種で威力は低いが矢の先に麻痺性の毒が塗ってある狩り用の武器を持っていたとされている。
「はぁぁあー!」
イリヤは群れに駆け出していく。
――すると、イリヤの背後からコバルトウルフの群れに向けて魔術が込められた矢が飛んで行くが、コバルトウルフも気配に気がついて……全弾見事に外した。
それを合図にマリア達は木の陰から飛び出した。
「見事な『散り』だったな」
そう、マリアは言う。コバルトウルフの群れは現在四方八方に散って逃げ出していた。
『散り』とは。魔獣の群れに遠距離系の魔法を放ちワザと外して驚かせる事で、混乱して逃がす冒険者ならではの技術だった。『釣り』とは異なり相手を驚かして、逃げた標的を別動隊が狩りをする為に使う。
「ああ、そうだな。いくぜ!」
炎王魔法《炎王の剛腕》
フレイは失われた魔法《炎王魔法》を使いながら、高速で逃げているコバルトウルフに接近して間合いを詰めながら、肩口に炎の拳を打ち付ける。
《炎王の蛇腹刀》
炎でできた蛇腹刀は高速で伸び、うねりながら、1頭のコバルトウルフの喉元を切り裂いた。さらに背後にいるもう一頭に対して回転することで袈裟斬りにして倒した。
コバルトウルフは血を拭きだし、「ギュルルルル…」と、言って[ズシン!]と音を鳴らし倒れた。
マリアも目にも止まらぬ速さで近づいて。
「逝きな!」――マリアは言いながら至近距離で弾を放った。
そのまま1頭のコバルトウルフ頭から弾が飛び出て、断末魔を上げて倒れた。
マリアはみんなより速さは無かった。それでも射撃の速さでは誰でも負けない。
「マリア!」と、フレイが叫ぶと……
コバルトウルフがマリアの背後から襲ってくる。マリアは立ったままだったが、上空から弾が落下してきて頭を貫通して殺した。
《断魔》
コバルトウルフが、逃走している方向の地面で魔法陣が形成される、そこに逃げ込んだ2頭の足が40㎝地面にめり込んで動きを止めた。――動けないでいる。
そこにフレイは跳躍して動きの止まった標的の首を…空中に居ながら見事に殴り飛ばす。
首を飛ばされたコバルトウルフは血ち飛沫しぶきを上げてその場に倒れる。
それを合図に逃げ惑うコバルトの群れを倒していく、フレイは蛇腹刀を振るい連続で2頭を仕留め、イリヤは短筒を使い敵を麻痺させて止めを刺した、イロハとマリアで連携して狩りを進めていく。
イロハは魔矢で倒そうとしているが見事に『散り』の役割を果たしていた。
――こうして、コバルトウルフは混乱の内にマリア達に狩られていった。
「ふー、もう良いんじゃ無いか? 規定数に達しただろ?」
周りを見渡して言った。
「…そうだな、それじゃあ血抜きしたら馬車に詰め込んで運ぼう。」
フレイは提案する。
「そうですね。ー」
イリヤは剣についた血を布で拭きながら明るい声を上げる。
イロハは落ち込みながら森から出てきた。そして小さい声で「わかった」と呟つぶやいた。
マリア達は血抜きをしたコバルトウルフと自分達が所有している馬車に詰め込んだ、当然〈保存〉の魔法は掛けてある。
***(帰還中)
「今回は早く終わったな。」
マリアは現在、馬車の上で馬を操縦しながら隣にいるイロハに向けてそう言った。
が、――彼女は拗ねている為、マリアの言葉にも「そうね」と、そっけない返事しか返さない。
「おーい、イロハさん。……怒っているのか?」
フレイは聞くがイロハは無言だった。
「見事は『散り』だったじゃないか。」
「……違うから。」
イロハは頬を赤くして恥ずかしそうにしている。
「言ってやるなよ、フレイ、アレはイロハの全力の魔法だって、1頭も仕留められなかったからだよ。」
「でも、いいじゃないか、貢献したことには変わりないぞ。」
「でも、私0頭だし……マリアたちは6頭も倒したし…。それに調子が悪かったし…獲物の勘が良かっただけだし。」
そうするとイロハは空を見上げていた、快晴の空を。
1つ依頼で15頭前後までと数が決まっていた。それに胴体に当たったコバルトウルフの毛皮は価値が下がってしまうので避けたいのが本音だった。
「しょうがない……今回の依頼は早く済んだ。それに懐も温かいから…帰ったらイツキにも慰めてもらえ。どうにもならん。」
そうマリアは提案すると……。
「そうじゃないから。イツキと鍛錬する。」
マリアは溜息を吐いて、イロハは元気になってギルドに帰っていった。
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『コバルトウルフの毛皮採取』
報酬、1人1匹あたり330ミルド
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