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ー変異種大鬼討伐ー

イツキは木々を移動している、イロハたちを抱きかかえ、妖力を操り木々の枝に着地しながら縦横無尽に高速で移動していき、大鬼との距離を稼いでいく。

(ある程度は距離は取れたか?)

イツキは移動中そう考えていた。

いくら鍛えていても限度はある、今は全身に肉体強化妖術を掛けてなんとかしのいでいた。


  イツキは変異鬼オルリクトオーガとある程度距離を置いたら、適当な地面に着地して、イロハなたを降ろした。


「皆良くやってくれた…い、イロハ大丈夫か。」

皆を労い、イロハの方を見るイツキ。


「………」――イロハはイツキの問いかけに無言だった。


 先程と変わって無言を貫くイロハ、地面に四つん這いになってなにやらゴソゴソと動いている。

「イロハ、早くしろ、眼つぶしと不意打ちだけじゃあ、そう長くは持たない、移動しないと。」

イツキの言葉にイロハも身体を反応させるが……。


「…ちょっと待って……ちびった。」

リカはそう言って股間の辺りを確認していた。


「お前かよ!!」


「……回復瓶1本位…」

そう声を震わして、リカは呟つぶやいた。


( ‼ …結構な量だぞ……なんで手の合図は“少し”だったんだ…)――イツキは頭を抱えてそう思っていた。

 リカの傍にいた土精霊ノームのノンちゃんも「ぷりゅぅぅぅぅ」と声を出してリカを慰めている様だった。


「まぁ、なんだ。気にするな、立て、走るぞ。」

 イツキは真面目な顔で、一応の慰めの言葉を掛ける。


「俺はここで死ぬ!そしてお前らのきおくを消す!」――とリカはロケットランチャーを取り出した。


「馬鹿!そんなに気にするな。奴が来るから、早く逃げるぞ。そんなに恥ずかしい事でも無い、冒険者の中にも飛龍ワイバーンにビビって漏らした他に色々と出た奴だっているから。」


「そうだ!マスターから聞いた話だが、あのマスターが糞尿は漏らしたと聞いたことがある。それと比べれば……優しいくらいだ。」


必死に説得していた、しかし、その言葉は薄っぺらいものだった、リカの心をとかすには何かが足りなかった。……彼女の心の壁は段々と険しく大きくなっていく。


「……そんな、慰めはいい!……あなたは女性が“この状態”になるのは……心の傷が違う。イツキは知っている?……知らないでしょ…私の今の状況……そんな精神力私には無いわよ、……むしろもの凄く惨めよ。男だったら、だったら! ここで漏らしてみなさいよ!」


 お調子者のリカの口から途方もない言葉が飛び出した、まさに腹のそこからの本音だった。

 重く、何処までも重い…心からの発言にイツキも無言になってしまう。


 遠くから、「グオオォォォォ」という雄叫びが聞こえた。――その声に怒りと憎しみが混じっている様だった。


 イツキはその声を聴いて、腰に装備している小さな鞄に手を突っ込みなにやら探している、そして、1つの小瓶を取りだした。『回復薬ポーション』と言われる物だった。……

 それの瓶を外して ―――イツキは自分の股に振りかける。

 びちゃ、びちゃに、なるイツキの下半身の光景をリカ見ていた。


「……どうだリカ。俺も濡れたぞ…これでいいだろ、別に股が濡れたからって問題ない、誇りなんて傷つかない……むしろ命のほうが大事だ。もう大鬼も近くに来ているから、急いで逃げるぞ」

 リカを見つめてそう言った。

突然リカはスマホを取り出して写真を撮った。

「何やってるの?はず!」


すたすたと歩いて鬼が来ている方向へ走り出した。それを見たイツキは青筋を浮かべ、拳を地面に打ちつけた。


「あいつ!覚えてろよ。」


辺りの木々を破壊しながらリカを追っていく。やっと落ち着きを取り戻した。


 イツキはリカらと合流し、移動を開始する。リカを先頭に静かに声のする方から遠ざかっていた、リカはノームを肩に置いてその後を付けていく、外蚤マントで前を隠しながら静かに山道を移動していた。


「お、おいイツキ。さっきから背中に殺気を感じるんだが…。」

「気にするな。今から頭から背中にナイフを当てるのを決めてるんだからよ。」

「こ、こいつ大鬼を殺る前に俺をやる気だ!」

「大丈夫だ。痛いのは一瞬だ。」

「イツキ…あの大鬼が近づいてくる。」


「ああ、その前にやることをやったからだな。」

「いでぃ!」


イツキの放ったナイフが背中に無数刺さり叫ぶ。


「…どうやら“あたり”をつけていたようだ」

 静かにイツキは答える。

「なんでわかるの?」

 イロハの話が分からないので訊いてくる。


「それは、多分だが……眼つぶしが完全では無くて、視界の端で見ていたんだろう、だから、俺達が逃げる方角が分かったんだろうと思う。」

 自分の予想をイロハに伝えた、彼女も納得して頷いた。――本当はイロハの悲鳴だろうけど。と思っていたが口には出さない。


(早く、迎撃場所を見つけないと危ないな)

イツキはそう思いながら辺りを見回した。

 走りながら、右方向に丘みたいな場所を発見する。

「向こうに行くぞ、もしかしたら“いい場所かも”しれない」

 イロハの方を振り返りながらそう言う、彼女も「了解」と返事をする。

「その前に背中のナイフ取ってくれないか?ねぇ聞いてる?」

リカの頼みは無視された。


 そのまま丘の方に向かに走り出すとそこには……。

 只の、段差がある丘だった2m位の段差しかないが辺りは木々も無く開けている場所だった。


「条件は良いな、後は作戦か……、ちょっと来てくれ」

「何? ジ作戦でもあるの?」

「ああ、聴いてくれ、そこの馬鹿とノームが――――――――――――――――」


 イツキは馬鹿と土精霊の『ノンちゃん』に作戦を説明していく。


「―――――て、いう作戦でどうだ?」

イロハに訊いてみた。

「出来なくは無いけど危険じゃない? 1人でやるんでしょ?」

「別に大丈夫だ、それよりコレはタイミングが全てだからな、そこだけだ…問題は。お前だよ。」

 イツキはリカを見る。

「お前今度はちゃんとやれよ?やらなかったら埋める。」

「……はいはい。ちゃんとやりまよっと。」

 リカは一応は同意した。

「よし、作戦開始だな、しくじるなよ、集中力を高めておけよみんな。」

「……わかっている。」


 作戦会議も終わり、イツキ達はバラけていく……


※※※


 イツキは1人で森の中に立っていた、片手で木の棒を持ち生えている木に打ちつけて音を鳴らしていた。

 大きな音が木々の間を抜けていく。

 その音に釣られて大鬼が走って来た。

「おお、凄い地響きだな……やるかリク。」

(イツキも無茶はしないでね。)


 ああ、と短い返事と共に鬼雷桜を後ろから抜いて前に構えた。

 イツキの前方から大股でかけてくる大鬼「ぐおおおぉぉ」と怒りの声を上げながら向かってくる、それに対しイツキは鬼雷桜に妖力を流し――先制の一撃をお見舞する。


《天音流捌式【天刃炎陽てんじんえんよう】》


 力強く振り下ろし、その反動で妖力の刃節が伸びていく。

[シャ――]と、高速で大鬼の顔に向けて剣が伸びでいった。

[ジャクゥゥ!] と、その剣撃を大鬼は手を交差して防御すると腕に剣の先が突き刺さった。大鬼の突き刺さった剣の先の部分が…。

[グシャ!] ――と、言う音と共に無くなっていた……。

「ギャウ」――と、大鬼も声を上げるが、状況が飲み込めていないようだった。突撃の勢いは失われ、喰われた腕から血が流れている。


 イツキは一撃を入れるとすぐさま剣を戻して移動し始める。

 大鬼も迷いながらも追いかけてきた。


「よしよし、鬼さんこちら…だな」

イツキは軽く笑う。

(冗談を言っている場合ではないよ、真剣にね。)

 リクに軽く怒られるが、イツキは気にしないようにまだ笑っていた。

「俺は真剣だよ、…仕事中に笑う事も大切さ、そうすれば余裕が生まれるからな。」

(くるよ。)

 リクはそう言うとイツキは後ろから大鬼が来るのを確かめる。


 大鬼は木々を飛び移りながら自分の持っている昆棒を投げる構えを取る。


「嘘だろ!」

とイツキは思わず声に出す。

 大鬼はそれをイツキ目掛けて魔法を掛けてぶん投げる。


 イツキは予知で身を伏せると。頭の上から、[ブオォォン!] ――と重たい音が通り過ぎた。

(危なかった)

と思う間もなく、大鬼はイツキとの距離を詰める。

 イツキは急いで体制を立て直し迎えうつが……。

 大鬼は右拳をイツキに向かって振り抜いた。イツキも拳を硬化させて振るう。

[ガギャァァァァン!] と弾ける黒い閃光と硬質な物がぶつかり合う音が響いた瞬間。


 イツキはそのまま後ろに吹き飛んだ。――空中を舞うイツキだが素早く体制を立て直し地面に刃を突き刺すと勢いが死んでいく、そのまま地面に膝をつきながら体勢を整える。


(あっぶな~~、なんちゅう威力だよ。)

と動揺する。


 それとは関係無しに大鬼は向かってくる。勢いを増しまた右拳を振りかぶると打ち降ろし気味の拳がイツキを襲う。

 イツキは奥歯を噛みしめ、瞬間的に足に妖力を送る。そして左に移動して大鬼の拳を交わした。…とほぼ同時に刀を返し、大鬼の脇腹に横薙ぎの一閃を入れる。

(ちっ、体制が不十分だったな、浅い)――とイツキが思っている通り、大鬼の脇腹に傷が走っているが深くは無かった。

 そのままイツキは大鬼の背後に回る。…大鬼も突然のイツキ行動に目が追いついておらず見失っていた。

 大ぶりの攻撃に体制に整っていない大鬼は隙が出来ていた。


 イツキは好機と思い、そのまま背中に一撃を入れる。――深い一撃に鮮血が飛び散る。

「がぁううぁぁぁ」

と大鬼に悲鳴を漏らした。

(よし! …しかし、固いな)

イツキは背後から一撃を入れながら思っていた。


 すぐさま、イツキは後ろに飛んで大鬼との距離を空ける。

 が…イツキに向き直った大鬼は魔力を集中させていくと……えぐれた腕の傷が、脇腹の傷がみるみる塞がっていった。


(こいつ、高速回復型と衝撃吸収型の変異種だったのか!)

イツキは呆気に取られていた。


「がぁぁぁぁぁ」

と傷口が塞がった大鬼は咆哮を上げてイツキに向かっていく。


 向かってくる大鬼を一瞥し、イツキはそのまま反対の方向に走り出す。

 逃げるイツキと追う大鬼は暫く距離を保ったまま続いた。

 急に――イツキは方向を変える。先程話していた小高い丘に向かっていく。

 大鬼も後を追っかけてきた。はそのまま丘から跳躍した。

 すぐさま地面について転がりながらの受け身を取る、2,3回転して立ちあがり、上を見上げると大鬼も段差を飛び降りてくる。


 そして……。

《地よ、我の力を借り、その器を刃へと変えよ》

大地魔法【地割串刺アースクェイク


 その呪文が聞こえると、――[バキ、バキ、バキ]の音と共に、大鬼の着陸地点の地面がひび割れていく。

 地面が盛り上がり、大鬼が降りる場所にまるで地面から口が開いたように大穴が開く。

 大鬼がそこに落ちて串刺しになる。

瞬間、「…閉じよ」の声と共に急速に地割れが閉じていく。


 腰上まで地面に埋ってしまい完全に動けない状態の大鬼、「があぁぁぁ、ごおぅぅ人間風情がぁぁーー」と唸うなっているがどうしようも無い状態だった。


 すぐさま近くにいた疲弊したイロハが木の陰から出てくる。

「上手くいった。」

嬉しそうに声をかけた。


「ああ、そうだな、すぐに追撃する。そして一気に殺る。」

 イツキは真剣な雰囲気を崩さない、先程高速回復を見せた変異種だったからだ。

 その雰囲気にイツキも押されていた、いつものふざけた雰囲気では無かったからだ。

 

ー焼けろ六道ー

地獄道【獄淵の雄牛(ファラリスのおうし)


地中に埋まっている変異種大鬼を牛が模られた銅像に呑み込まれ焼かれる。凄まじい熱気に汗が流れるが、大鬼を焼いていく。銅像を叩く音が聞こえ、叫び声が聞こえるが少しずつ消えていく。


 たとえ、魔獣の子が近くにいても、我々は笑顔で弱った獲物を殲滅せよ、さもなくば、明日は我が身。――と冒険者に伝わる金言がある。


 要するに『弱った敵に容赦はしてはいけない』と言う事だった。

冒険者だからその言葉を知っていた。

 たとえ、大鬼が上半身しか動けない状態で完全に反撃出来ない体制でもイツキは手を緩める事なく、温度をさらに上げていく。まさに業火に焼かれている。


 その後、10数分にわたり大鬼の悲鳴が森の中に響き渡る――――。


 こうして、大鬼変異種1体と大鬼3体の退治が完了して、マハール村の調査2日目は終了した。


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