召喚前の注意
嫌な展開から免れたのでホッと一息つく。彼が編入してきてから間もないが、本当にしつこい。事あるごとに付き纏ってきている。
「お疲れ様、いつも大変ね。」
「…そう思うなら助けてよ。」
「ははぁ。それは……無理かな。」
「はぁ………殺したい。」
対策法が思い付かず、机に伏せる。机の冷たさが程好く、落ち着く。
「あー、今日は使い魔召喚があるから、時間に遅れないようにしろよ、糞ども。」
「「「はーい…」」」
うちのクラスの担任であるクロト・シルヴァは口は悪いが根っこの部分は人が良いので、かなり人気がある。私のことも普通に人として見てくれているので好きだ。
「返事はいいが…面倒事は勘弁してくれよ…」
そう言って教室を出ていく。私も、それは思う。変な面倒事は勘弁してほしい。
使い魔召喚は別の場所なので、移動する必要がある。席を立ち、リリィと共にアリーナに向かう。愚者が何か言っていたが気にしない。相手にしたくないから。
廊下を歩きながらリリィと使い魔について話す。
「使い魔かぁ……一体どんなのがでるかな。」
「面倒なやつじゃなければいい。」
面倒なやつが使い魔になったら困る。そこが一番重要だと思う。
リリィと話しているうちにアリーナに着いた。アリーナは闘技場も兼ねているため、床が更地になっている。召喚の魔方陣は専用の場所が設けられている。
「やはりツムギとウォルスが一番乗りか」
「遅刻するよりましですからね。」
「遅刻はしたくない。」
暇だから先生の呟きに答える。実際、時間までまだまだある。愚者たちの相手をしたくないから早いうちに移動するから時間が余ってしまう。
「そういえば、先生の使い魔ってなんですか?」
「俺のか?カラミティだ。名前はオルガにしている」
「カラミティ……暴れ砲台って異名の?」
『カラミティ』は別名『暴れ砲台』と呼ばれている。また、肩口から伸びている四つの砲台のようなものもついている。その砲台には、各属性の小さい砲弾がある。しかもその砲弾を撃つことが出来き破壊困難である。
「ああ、それだ。」
「見てみたい。」
「私も見てみたいです!」
「他の奴らが来たときに説明するからその時にな。」
今見れないのは残念だけど、後で見せてもらえるなら良しとしよう。それと戦ってみたい。
「貴女方は相変わらず早いですね。」
先生と三人で話していると桜色の髪をした少女が歩いてくる。私の数少ない友人の一人であるイリヤ・スカーレット。瞳は琥珀色で、凛とした目付きだ。
王国開闢から存在する公爵家であり、その令嬢だが差別なく私に接してくれる。
「問題はないよ。イリヤ。」
「そうですか……いつも何してるの?」
「今みたいに話をしてるよ。」
「あいつらの相手をしないためには早く来るしかない。」
「あいつらって勇者とその取り巻きたちですよね?」
「あいつらの相手は絶対にしたくない。」
断固として嫌だ。なんであいつらは私につきまとうのかしら……本当に勘弁してほしい、出来るなら切り刻みたい。
「ツムギ。無意識に出しているそのハンドソードをしまえ。それと殺気漏れてるぞ。」
「あ、すいませんでした。」
いつの間にかハンドソードを形成していたようで分解する。魔法が苦手な私に唯一得意とする剣の創造。一応、身体強化魔法も使えるが、そちらは平均レベル。私はこの二つでギルドの依頼をこなしている。
気が付けばクラスの人たちが集まっており、間もなく時間となった。
「よぅし、皆集まったな。これより、授業を始めるぞ。」
「ま、間に合ったぁ。」
「そこの遅れてきた糞野郎、静かにしてろ。」
「く、糞野郎だなんて。」
先生から「糞野郎」と呼ばれて落ち込んだ愚者を放置して授業が始まる。
「まずは使い魔についての説明だ。使い魔は主から魔力を供給してもらうことで傍に具現化できる。供給量はそれぞれで違う。極端に少ないものもいれば、極端に多いものもいる。だから常日頃から一緒にはいられん。また、召喚される使い魔は召喚した者に見合ったものだ。だから才能を持っていればより強力な使い魔は召喚される。ただし、勘違いしてはならんことがある。召喚された使い魔が必ずしも契約してくれるとは限らない。立場を間違えるなよ、立場は同等だ。向こうにも意志がある。気に入れば契約し、気に食わなければ拒否する。
使い魔召喚とは、対話なのだ。下手に怒らせたら食われるからな、実際に食われた奴を見たことがある。
あー、あと、くれぐれも禁忌召喚はするなよ。当事者だけでなく、周りにも被害が出る。」
「先生、禁忌召喚をしたらどうなるんですか?」
「ああ?死人が出るに決まってる。当事者は確実に死に、周囲にいた奴も只ではすまん。良くて重傷、悪ければ死ぬ。善処はするが、当事者は助けんぞ。」
「そ、そんな!そんなの酷いよ…可笑しいと思わない!?」
「思う訳がない。」
愚者が女々しいことを言っていたから思わず口に出してしまった。この際だから、言ってしまおう。
「予めするなと言われていることをした人が悪い。それも周りの人まで巻き込むなんて迷惑甚だしい。そんな人なんていない方がいい。迷惑を振り撒いた人が生き残っていたとしても、邪魔なだけ…殺したいほどにね。」