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変異種の大鬼

解体作業それは、冒険者が必ずやる作業の1つ、魔物を倒した後に価値のある部位を剥ぎとり討伐証明にする、しかし…血の匂いと、解体のグロさから討伐後やりたくない事ランキング1位だが…コレをしないとお金にならない為、この作業は誰しもが通る道だった。


 ああ、なんて無情な冒険者生活。そう思いながらイツキ達は解体作業に没頭している。


 リカは口笛を吹きながら、慣れた手つきで大鬼の首元に短剣を刺していく、戦闘中と違い死んだ魔物は簡単にさばく事が出来た。まるでマグロの解体をしているみたい。


 大鬼のようにランクの高い魔物は体内に魔石が生成されている事が多い為、それを解体して剥がしていく、大体は心臓等の魔力が集中しやすい所に出来る為、冒険者もまずそこらへんから探していくのが常識だった…。


 イロハも自分が串刺しにした大鬼の所にいって、魔法を解除して地面に倒し、その死体をイツキたちの近くまで運んで、同じように血抜きを開始していた。__もの凄く嫌そうな顔で!

まるで、憎い敵のように、死んだ大鬼の首元に短剣を刺していく。

[ブジュ、ブジュ、ブジュ、…… ]

と何か所も刺していた。


「イロハ、死骸とはいえなんで親の仇のように解体してるんだよ。」


イツキはあまりにも嫌そうに解体作業をするイツキに忠告する。


「五月蠅い!黙っていて。」__キツイ眼でイツキを睨む。


「おおぅ。……済まん。」

その迫力にイツキも、たじろく程で素直に謝る。


そして、黙々と解体作業は進んでいく。__角をとり、心臓近くの魔石も取り終えた。


「済んだ~~! 終わった~~!」

リカは悪夢から解放された。


「よし、終わったようだな。早速、ウォーターラッシュで洗い流してくれよ、手が血塗れだから。」

イツキも笑顔で見つめるが……


「…あのね、私が血まみれの作業を終えて喜んでいる時、すぐ現実に戻そうとしないでよ。」

イロハはそんなイツキに抗議するが…


「イロハ、早くしないと血の匂いで他の魔物が寄ってくるから急いで洗い流さないといけないぞ、現実的に…。」

「……、わかった」

リカの言い分に納得するしかないイロハ。


《水よ、我らを洗い流せ…》

水魔法【水洗浄ウォーターレビレンス


イロハが魔法を唱えると手のひらに水の球が出来てそこから水があふれ出る。まぁ、これくらいなら魔法を乱すことなく発動できる?


「ありがたいねぇ~、イロハありがとうよ。」

「いいから、早く手を洗ってよ、死骸にもかけて血の匂いを薄めないと、そしたらすぐに埋めるから。」


そんなやり取りをしながらイツキ達は作業を続けていく。…


※※※


イツキ達が解体作業の片付けに入っていると。――

「グオオオオオォォォォォ―――――!」

遠くの木々から魔物の声が響いてくる。


なんだ?――そう思い、すぐさま地面にしゃがむ。イツキは耳を地面につけて方向を探る。


「ここから2時方向だ!」

リカが教えてくれる。

「ああ、…そうだな、こっちに近づいてくる!警戒!」

イツキも無言で頷く。

「死骸はこのままほっとく。」

そういってその場を急いで離れる2人。―― 30m離れた藪の中に身を隠す。


[ズシン、ズシン、ズシン…… ]_と歩く音が地面に伝わっていく。

その度に緊張感も張り詰めていき、鼓動も早くなっていった。


そして、イツキ達が見ている先から巨大な大鬼が3体、姿を現した。―――


「おいおい。大鬼だが…なんか変だぞ。」

リカは小声で愚痴を漏らす。


「イツキ、あれ大きくない? さらに角が4本あるよ、皮膚の色も違うし…。」

隣にいるイロハもイツキに小声で訊いてくる。


「ああ、亜種…いや、変形種なら厄介だぞ。」


 は新しく出現した大鬼を良く観察していた。

亜種の大鬼は地面にある何かにを発見すると駆けだした、そして死骸を発見すると、


「ぐおおおおぉぉぉっぉ!肉!!!」と怒りの咆哮ほうこうを上げている。


現状と亜種の大鬼の出現を、冷静に分析し始めた。

実際、大鬼は群れで行動を起こすことは稀だが強い首領がいれば別になる、さらに亜種ならばモンスターランクも上がり“B”にまで上がるだろうと考えていた。

 撤退か、交戦か、かなり迷っている。

 撤退すれば、現状から言うとかなり良い選択といえた。

 他の大鬼から回収作業は済んでいるし、なにより未知数の敵と戦わなくて済む。

 が、…マハール村に被害が及ぶ可能性が発生する。_あくまで可能性が残るだけだが…

交戦すれば、言わずもなが、非常に危ない橋を渡る事になると言えた。

 亜種は危険が増大するし、相手も巨躯でさっきの大鬼よりも力も防御力も上だと判断出来る、倒しづらいのが本音という所だろう。

 しかし、…当然これは危険であると同時に好機でもあった、まずマハール村が危険に巻き込まれる可能性が低くなる。…それに、査定後の報奨金が上がる為だ。


冒険者生活は常にリスクとリターンを計算しながらやらないといけない。

命あっての金と物種!__と、まさの欲望にまみれた、過去の冒険者の名言もある。


「ここは、撤退するか?どうする?」

リカは小声で話しかけるが、

「マハール村に被害が出る前に叩く!」とイツキは言う。

「あっ、…やっぱりね。そうなるよね、お前の性格ならな!」

「どうするんだ、策はあるのか。」

イツキの考えを訊いてみる。

「でも倒すしかないでしょ。そうしないと村の人たちが困るでしょ。プランは戦いながら考える。」


 なんにも考えていないじゃないか、無策無謀にも程があるぞ!リカは思うが、同時にイツキらしいか! と納得していた。


「リカが前に出て、魔法を放つ。そしてそのまま結界を張って防御体勢を取り……俺たちは叩く。」

「何をいっているの、馬鹿」

小声だがイロハの眼つきは鋭い。

「そう言うな、冗談だから。」


 茂みの中で作戦を練っている間に大鬼の亜種は散々奇声を上げた後、…大鬼の死骸を喰い始めた……。


 さすがにイツキ達もその行為を見て話し合いを止める。

 食い入る様に目の前の大鬼の行為を分析しだした。


「あれは何をやっていると思う?」

「…解んないな、理解の範疇を越えているが、予想するしかない……、同族食いは基本、食料の枯渇等の災害が起こると生き残る為に行われるらしい…が、あの大鬼は…餓死状態でもないな……と言う事は、単なる儀式か…それとも。」

イツキは何やら難しい顔をしだした。


「力を取りこんでいるかだよな。」

リカは結論を言うような言い方でを見つめた。

「……!?そんな事ってあるの?」

イロハは恐る恐る訊いてくる。


「稀に起きるらしいな…血肉を取りこんで強くなるんだ…亜種だが変異種でもあったのか。」


 厄介だな。イツキは心の中でそう思っていた、今ここで倒さないと後で更に問題が大きくなってしまう。

 村への危険度も上がってしまった……。


 「よし、ここで倒すか……作戦はとりあえずの『大炎の矢』をあの大鬼に当ててくれ、それからだな。」

「いいのそれで。ほとんど無策じゃない。」


「まずは相手の出方をうかがう事も必要だな、それに初めて戦う相手には先制攻撃も有効と思うが…リカはどう考えている?」

「…じゃあ。トモダチ作戦は?」

「却下。ふざけるのはそこまでだ。……やるぞ。いいな?」

「ああ、いつでもいいぞー。」

「リカ…俺達はこのまま風下にまわって近づくから、ここで魔術を発動してくれ、そうしたら俺が飛び出すから急いで場所を移動しろよ。」

イツキの言葉にリカは無言で頷く。


 3人はそのままは低姿勢のまま行動を開始した。ゆっくり、ゆっくりと自分に言い聞かせ、歩いていく。なにせ辺りは森林の中だ、そこら中に落ち葉がある、枯葉を勢いよく踏んでしまえば、音が辺りに響いていて、場所が分かってしまう、そうなれば危険だ。今のままだったら危険になってしまう。


大鬼はまだ同族食いをしている、グシュグシュと音を立てながら仲間の死骸をむさぼっている。


 リカは炎服フレイムロックを装着し、発動の早い大炎の矢の準備に入る、こっちも魔力の流れを気付かれないように、静かに集中し始めた。

イツキたちの移動を感じながら静かに想像力を高める。…数は20本、長く高速で飛ぶ魔法の矢をイメージする。


 相手に当てるのではなくその先の地面に当てるように…魔力を練っていった。

 辺りに 透明で密のある炎の矢が出来た。

 すると魔法の矢は高速で大鬼に襲いかかるが……。


「ぎゃうぅぅ!」――と悲鳴を上げるが背中の皮膚に刺さり、右腕が吹き飛んだけで大した傷では無かった。

「げぇ。効いてねぇのかよ。」――リカは思わず声を上げる。


 大鬼はリカの方を睨み立ちあがった。そして――


「ガルァァァァァ!雑魚が!」と咆哮を吐くと、吹き飛んだ腕が再生し、近くに置いた昆棒を手に取り向かってくる。

 そのまま[ズシン、ズシン……]と音を立て駆け足で向かってきた。


  一瞬の躊躇ちゅうちょの後で、イツキたちも藪の中から飛び出した。

  もう、居場所は相手にばれているし危険。――と素早い反応をする。


距離も近い為すぐさま次の大炎の矢を顔面に放つが…昆棒と腕で防御される。全く意に反して無かった。


 ちぃ…距離を潰された。__リカは後悔する。魔法師にとって間合いは重要だからだ、魔法発動の間は高い集中力と想像力を働かせる為に周囲が見えなくなる。それに防御は高い炎の服を着ているが魔法発動時に若干隙ができる。


 『ぴゆるぅぅぅぅ』――リカの身体に隠れていたノームが飛び出す。ノームは重力魔法を発動する。

 すると大鬼は体が重くなったことに膝をつく。地面から唐突に土槍が飛び出した。


「がぅぅぅ、ぎゃぅぅ」――と大鬼の足を串刺しにして、大鬼は悲鳴を上げるしか無かった。


「ノンちゃん。ナイス!」

「ぴくぅぅぅぅ」――ノームも気にするなと言っているようだった。


 しかし、直ぐに自体は急変する、大鬼は刺さった土槍は黒く変色し砕け散る。リカを目指して歩き出す。

 その様子を見て直ぐに距離を取るリカ。

 だが、大鬼は土槍を抜くとお構いなしに走りだした。間合いはすぐに詰められる。

 巨大な魔法は使うのにはリカでさえも時間が掛かり、魔法の矢では歯が立たない、リカもそれが分かっているから、一生献命に駆けだしているが……。

 振り返ると、距離が縮まっていた。……がニヤリとリカは笑う。


「掛かったな?イツキ!」――声を上げるリカ。


 すると、大鬼の遥か頭上から1つの影が高速で動いていた、イツキは妖力蛇腹刀を器用に使い、木々に絡まして高速で移動しながら傷をつけていく。

 すぐに、大鬼の背後に移動して。――後頭部に特大のひざ蹴りをお見舞する。


《天音流蛇ノ型》【唸る砕牙・地這い】

《天音流体術》【飛乱脚ひらんきゃく


[ぐおぉ!]――という音と共に大鬼の脳が揺れてその場に膝をついた。


「ぐがぁぁぁぁ雑魚が!!」――と言う声を上げるがどこか痛そうだった。

そして、最後にイツキは方向転換して、大鬼の正面にまわると――持っていた土と落ち葉を大鬼の顔面に投げつける。

「ぎゃぅぅぅくそが。」――と言う声上げ、手で顔や眼をこすり視界を取り戻そうとする大鬼。


そのまま、リカの近くにイツキは降り立つ。

[シュ――シャン] と言う音が聞こえ妖力の蛇腹刀の刃節が戻って来た。


「一旦引くぞ。」

とイツキは突然そう言うとイロハ、リカを抱きあげて、妖力を操作して高木の上に突き刺した。

そして……2人とも、一気に上昇していく。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」――ふたりの声が森中に木霊こだましていく。……

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