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依頼の内容

イツキ達は現在、村長宅前まで来ていた。


「イツキ〜俺はどうしたらいい?黙ってたほうがいいか?」

「べつにどっちでもいい。余計なことをしなければ。」


リカに釘を刺し、馬車を近くの木に止めて、3人は村長宅まで向かっていく、村長の家は他の家より少し広く庭先も大きく感じていた。


[ドンドン]――木製のドアを叩く、イツキたちは暫く待つと中から声が聞こえてくる。

「はい、どちら様ですか?」

「依頼を受けた、冒険者ギルド【夜桜】の者ですが…」

「はい、はい、どうぞ。」そう言うとドアが開いた。


中から中年の女性がドアを開けて待っていた、どこにでもいる、村人の女性だった、顔には小皺が目立ち始め、女性の年齢を物語っていたが、独特の品があり、少しふっくらとした印象が残る人だった。


「これはどうも、依頼を受けて下さりありがとうございます。」


そう言って頭を下げる女性、少し謙遜しながらイツキ達は中へと入り、居間へ通された中は普通の邸宅と言った所だった、木の長机と椅子、木製の棚に花瓶に花が差してある、複数の壺らしきモノが置いてあった。


そこに一人の中年の男性が立っていた、背は160㎝位だろうか、先程の女性より少し老けて見えるが、丁寧そうでお人好しのいかにもな人物がそこにいた。


「これは、ようこそお越しくださいました、マハール村の村長をしています、ガトー・マハールといいます、…お名前を窺ってもよろしいですか?」


ガトーは頭を丁寧に下げて、イツキ達を見つめる。


「俺の名は、イツキ・イーステリアと言います、イツキでいいですよ、マハール村長。」

そういってお辞儀をする。

「私は、イロハ・ツムギです。」

「わ、わたしの名前は、…えっと、リカ・クロキバです、よろしくお願いします。」

そう、緊張しながら九十度のお辞儀をするイロハだった。


(お前、なんで緊張している演技してるんだ?“村長”だからなのか、しかも上手いし。)


イツキはリカの演技スキルに突っ込みたくなるが、依頼人の前なので我慢した。


「ははは! 私を呼ぶ時はガトーでいいですよ、そんなに緊張する偉い人物ではないです、小さな村の村長ですから。」

少し自虐的な事を言いながら、笑ってくるガトーだった。


そう言っていると、先程の女性が紅茶のセットを持ってくる、机にティーカップを置いて紅茶を注ぐ、準備をしていた。


「ご紹介が遅れました、家内のセレスです」

ガトーはニッコリ笑いながらセレスを紹介した、彼女もイツキ達に会釈をしながら、紅茶の準備を進めている、その関係から、非常に仲の良い夫婦である事がわかる雰囲気だった。

「イツキ・イーステリアと言います、先程は挨拶もせず失礼しました。」

「イロハです、こちらはリカです。よろしくお願いします。

「はい、はい、セレスと言います、丁寧にありがとうございます。」

そう言って彼女は頭を下げる。

そして、「どうぞ」そう言って、お茶をイツキ達に振る舞った。


準備が整った所で、ガトー達はそのまま椅子に座り、向かい合いながら、依頼の内容を詳しく聞く事にした。

彼は机に手を置いた、その手はタコや皺でとても使い込まれている事が誰にでもわかった。

(村長でも苦労しているのか、小さいから村だから余裕が無いんだろう)――イツキはそう思う。


「では、依頼書に書いてあったのですが、最近このマハール村に魔物が多発して来まして、その原因を突き止めて欲しいのです。……始めは小鬼ゴブリンの集団が目立ち始めました、次は人食植物花マンイーターフラワーの群れは森の奥から、そして、獣鬼トロール上位小鬼ボブゴブリン大鬼オーガなどの個体もちらほら出始めました。

それが頻繁するようになりまして、その原因の調査を依頼したいのです。」


ガトーは真剣な表情でイツキ達を見つめた、彼は村の村長として必至なのだろう。


「お話は解かりました、こちらも情報が少なく、あやふやな点が多かったので確認したいのですが、国や領主に相談さえたのですか?」


イツキはガトーに確認をとる意味で、そう言った、本来、村の危機では、先ず領主所属の騎士団などが話を聞くのが常套だからだ。


「はい、領主様に陳情したんですが、良い返事を貰えなかったのです『済まんが、騎士団は他の地方の警備で居ないので暫く待ってほしい』と言われました、しかし、此方にも村の抱えている問題がありまして、早くこの問題を片付けたかったのです。」

「そうですか、それで大規模冒険者組合(夜桜)から学園に依頼を、しかしそれが特別依頼と言うのも妙ですね、何か他にありました?」


イツキはまだ心の底に引っかかっている問題を質問してみた、通常その話だと、普通の依頼になるからだ。


「はい、私自身が【夜桜あなたがた】以外のギルドに依頼しに行きました、そこで依頼内容の話をしたのですが、どうやらCランクの依頼になるようなのでかなり高額な依頼料でした、私達の村は小さいので大層な蓄えが在るわけでもなくてですね、困ってしまい「何とかならないか」と思っていたら、白髪のサングラスを掛けた人が現れたのです。」


ん、んんん? __は3人は同時に「ん?」顔になった。


そのまま、ガトーの話は続いていく。


「その人は若い男性でしたが、ヘラヘラしているわりにはら熱心にお聞きになって下さいました、依頼の内容の事、それと、その問題が終わらないと村の“ある問題の為の企画”が中止になる恐れがあったのです。」

「ちょっと、よろしいですか?その村の問題とは?」


イツキは気になる言葉が出てきたので質問してみる。


「はい、お恥ずかしい話なのですが、現在村は人口不足が目立っていまして、その為『お見合い企画』なる者を催して、村人との“結婚”して人口を増やそうと計画していまして……。」


それだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ―― 達は叫び出したかった。


あの学園長は始めから知っていたのだ、だから内容を誤魔化していた、とその時、初めて気が付いた、それと同時に殺意も沸いている。

現在青筋が額に立つ程顔を歪めていた。


「どうなさいました?」マハール夫妻は心配そうな顔で覗き込んだ。


「い、いえお気になさらないでください、ただ“思い出した”事がありまして。…どうぞ話を続けて下さい。」


「それで、ですね私も諦めかけていたんですが、せめてお見合い企画の告知だけでも冒険者組合で表示出来ないかと相談した所、白髪の方がですね…特別にランクを下げて特別依頼と言う事で学園からの依頼という形で処理してくれる、と言ってくださいましてね、随分格安になりましたよ、いや~奇特な方が世の中にはおりますな、ははは!」

ガトーは最後に何も知らず快活に笑った。


(あの学園長!楽しむ為だけに俺らを利用するなよ。)

――イツキは腸が煮えくりかえっていた、隣にいる、イロハを見ると同様の思いである表情をしてる。

リカはヘラヘラしていた。がすぐに冷静に戻る。


「それで、その他に何かありましたか?」

イツキーは必至に笑顔を造りそう言った。


「そうですね、『お見合いの件の告知も任せて下さい。』と言っていました、それに『最高の冒険者パシリを送ります。』とも言っていましたね、…でも、こんなに早く来てくれるとは思って無かったですよ。」


マハール夫妻の嬉しそうな顔にイツキ達は断る事も出来なかった、彼らもこの村の事情がある為、藁わらにもすがる思いで、冒険者組合…いや学園長が居たから訪ねたのだろう。


俺たちには冒険者の「義」がある__歴代の冒険者も困難な依頼の時にこの言葉を使っていたとされている。国の騎士団とは違うが、自由に生きる者の心粋として言われてきた言葉だった。


「大体の事情はわかりました、依頼の方は任せて下さい、後、失礼ですが、寝る所等はありますか?宿屋などは?」

イツキは覚悟を決める、隣のイロハたちを見ると彼女も覚悟を決めたようだった。


「申し訳ないのですが村には宿屋は無いので……そうですな、近くに空き家がありますのでそちらでどうですか? ちゃんと管理していますのでボロではないです、それに食事はこちらで準備します。」

「そうですかでは、ご厚意に預かります。」


イツキとリカ、イロハは頭を下げる。


「いやいや、よして下さい、こちらが頼む立場ですので当然です、・・いま家内に案内させます、直ぐ近くですので。」


マハール夫妻はニコニコしながら、言ってくれた、それがイツキ達にとって救いだった、…たまに態度の悪い依頼者もいるのだから…。


その後、本格的な調査は明日からにします。――と返事をして、村長の家を後にした、セレスの案内で3軒先の空き家に馬車を連れて到着した。


「馬はその小屋がありますからそちらにどうぞ。」

セレスの指差す方向には良く使われているがちゃんと整備された木製の小屋があった。


イツキ達は馬車をそこに止めて、馬を解放してやる、中に干し草のおやつが置いてあったので、それを置いて、井戸から水をくみ上げ、飲み水用の桶に入れておいた、馬への労いも忘れないのが、冒険者の心得のひとつだった。


その後、空き家の前に行くとセレスはこう言いだす。


「寝具は1つでいいのかしら?」

唐突にセレスはそんな事を言い出す。


「セレスさん、どう言う事ですか?」

――イツキは疑問に思いながら訊いてみた。


「あら、貴方達夫婦じゃないの?」

セレスはごく普通にそう思っているようだった。


「違う!!!」

イロハが顔を真っ赤にしながら大声で叫んだ。――腹から声をだすように。

リカは腹を抱えながら笑っていた。あとでぶちのめす。


「あら、そうなの、随分と仲良さそうだったから、勘違いしてしまったわね。」

「そうです、只の相棒ですから、イツキと私たちは、何にも無いですよ。」

イロハは必死に否定していた、顔を赤くさせて。


「ふっふふ、そう言う事にしておきます。や

セレスはからかうように笑っていた。


「揶揄うのはもういいだろ?それより中に入ろうぜ!」

リカはせっつきながら、そう言った。


家の中はよく管理されていた…が簡単な木の机と椅子、それに奥の部屋に2つのベッドしか無かった、ベッドも木の箱に藁を敷きつめて、上から布を敷いているだけの簡単な奴だ。__この世界ではこれが一般的な寝具だった。


「急いで、用意したんですが、これしか揃わなくて、なにかあったら言って下さい。」


そう言ってセレスは家の鍵をイツキに渡して戻っていく。


ひと段落ついて、二人は同時に溜息をついた。

「なあ、イツキ〜今回の仕事早く終わらそうぜ〜。」

リカは近くにある机の椅子に座りながらそう言った。


「そうだな。」

「だね。早く帰ろ。」


みんなは決意していた、この村の依頼が嫌いなわけではない。


早く、帰ってあの学園長をぶっ飛ばす。___そう決意していたからだった。

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