緊急依頼でマハール村へ
翌朝、俺とリカ、イロハの3人に学園長より緊急の依頼が舞い込んできた。
それは、マハール村からの依頼というものだった。それは『特別緊急依頼』に属していた、通常の依頼は、冒険者組合では依頼主(個人や商会等)が依頼内容を話し、職員が査定した後、ギルドランクに応じた報酬料を支払う事で依頼が出来た(ランクが上の方が高い)、しかし、特別依頼とは依頼が国や領主、または冒険者組合が発行する依頼の事。
内容は多岐に渡るが、職員が査定出来ないか、必要だと判断した時に特定の冒険者達に依頼される事が多い、その分通常依頼より、固定報酬料と追加報酬料が高いおいしい依頼と言われているが……。なんで学園長に?と思った。
俺たちは学園を出て4時間が立とうとしていた。依頼場所まで疾走し、舗装がされていない道が幾人の旅人や業者が通っていて、道がならされている所を走っていた。
「なあ、イツキ、この依頼どう思う?」
リカは横に居るイツキに聞いてみる。
「正直、…きな臭いと思う、あのギルマスが特別に許可したって言うじゃない。」
「そうだよな、ギルド査定では一応Aランク依頼になっていたけど、それが只の村周辺の調査だぜ?少し異常だな。」
「私もそう思う。だって内容もしっかりしてないし、職員もマスターが決めたとしか聞いて無かったらしいし。」
「2人とも、考えすぎは駄目だぞ、いざという時に身体が動かなくなるからな。今日はここで休むから。」
リカらと並走しているイツキがそう告げる。
「そうだな。暗くなってきたしな。」
俺たちは走るのをやめ、リカたちに合図を送り、小さな村に寄り一晩小屋で宿を借りる。そしてマハール村付近までは体力の温存のため、馬車で移動した。
※※
「あ~、身体が痛い、正直言うと馬車で一日は長いかもな。いつも思うけど、良い方法しらないか?」
「知らない。私が聞きたい位、らお尻が痛い」
「そうだ、“浮遊する板服”を作ればいいんだ!その巨大版を作って、ひとっ飛び出来ないか。」
「リカ……馬鹿なのか?そんなことのために能力を多用すれば…ないだろうが魔力切れを起こす羽目になるだけだ。大きくし過ぎるとその分魔力が必要になるから、お勧めできない。」
可哀想な子を見る眼でイツキはリカを見る。
「……そうなのか、じゃあ、俺特製の“魔力回復薬”飲みながら行くとかはどうだ。」
「“魔力回復薬”ってお前、そもそも必要ないだろ。魔力多いんだし。」
イツキは溜息をつく。
「………」愚かな質問をして無言になるリカ。
突然!
「た、助けてくれ~~~!」遠くの方から声が聞こえてくる。
良く見ると、草原の200m先から馬車に乗った1人の男が武装ゴブリンの群れ(15匹位)に追いかけまわされていた。
それを見るとリカは
「よし、イツキ、馬車を反転させて逃げるぞ!」
[パコォォン!]――リカの頭に棒が落ちる。
「馬鹿、助けるに決まっているだろ。」
そう怒鳴るイツキ。
「わかっているから、…冗談だよ、たく」
イツキは走らせたままゴブリンたちに突っ込んでいく。
「どうせ、あれだろ、あの男性もマハール村の出身で連れて行ってもらうオチだな。」
「余計な事は言わず…準備して…来るよ。」
「助けて~~~~!」そう喚わめく男がこっちに来る。
ー分裂しろ六道ー
修羅道《維持者の飛輪》
「落ち着け!」
そうイツキは大声を出して警告する、もう20m前まで来ていた。チャクラムを投げ10匹のゴブリンの首を刎ねていく。
横でイロハは魔法を行使していく。
《風よ、その偉大なる力を…行使しろ》
【風刃弾】
イロハの周りに、中型の風の刃が無数(15個)に形成されていく。
「いけ!」――イロハがそう言うと風の刃が飛んでいく。
ゴブリンに5匹当たり、2弾は外れた、そして馬車に2弾当たった。
(まぁあの状況でて馬車に当てないほうが難しいか。)
しかし1匹は傷を負いながらも逃げ出した。闇の呪符を取り出して、そのゴブリンを消滅させた。あと偵察ゴブリンもいたが恐れて射程外だが逃げていた。
馬車に乗っていた男は「ひゃい!」と恐怖の声を上げながら、身を低くして回避していた。
もう少しで助けようとした男を殺すという、いたましい事故(殺人)が発生する所だ…。
イツキはそのまま駆けだす。
「リカ頼むぞ。」
「ああ、任せとけ。」
そう言って鬼雷桜に妖力を流し込む、そうすると刀身を振り下ろした。
ゴブリンまではまだ10m以上は離れていたが・・・剣が“伸びる”そうまるで生き物みたいに伸びたのだった。
《天音流龍ノ型》【唸る飛龍業牙】
蛇腹刀となり、はその名を示すように、妖力により剣の刃が無数の刃節に分かれていて、鋼の様な糸で繋がっていた、そこを流すと自在に伸びる武器だった。
地面を“蛇”のようにうねうねと高速で動きながら、逃げるゴブリンの心臓を突き刺し殺した。
[ジュブブブブブ。]――という音と共に、1匹のゴブリンが絶命した、最後に「ギャウゥゥ」と断末魔をあげていたが、彼ら魔物の言葉など解かるはずもなく、そのまま突いた剣を元に戻す。
〈シュ――――シャン。〉という音と共に、蛇腹刀は何時もの長さに戻っていた、たっぷりとゴブリンの血が付いたが振り払う。
「大丈夫?」
イロハは追われていた男に駆けだした、心配そうにしていた。
この場合の『大丈夫』はゴブリンに襲われて、ではなくイロハの“魔法攻撃”に襲われて『大丈夫』ですか、と言う意味の方が強いだろう。
幸い、驚いた馬はその場で止まって居た為、二次被害は出ていない。
「あ、ああ、大丈夫助かったよ、すまないね。」
そう、お礼の言葉を男は返す、どうやら、イロハの事は恨んでない様に見える。
「私の名前は、リュー=アルベールだ、助けてくれてありがとう。」
そう言って2人に頭を下げるリューさん。
「いえ、当然の事をしたまでです。私の名はイロハ・ツムギと言います。それに私達、冒険者をしています」
そう言ってリューに頭を下げた。
「丁寧にありがとう、そちらの方々は。」
イツキの方を向くリュー。
「ああ、リカ・クロキバとイツキ・イーステリアと言う。それより災難だったな(いろんな意味で)」
「ありがとう、助かりました。」
リューはイツキたちにも頭を下げた。
「それより、リューさんはどうしてゴブリンに襲われたんだ?」
リカは質問する。
「いやー、お恥ずかしい、レバー村を出た直後に襲われてね、急いで逃げたんだけどね、最近マハール村の魔物が良く出ると聞いていたけど、まさかこんな事になってるとは……」
そう、リューは言い淀んだ。
「ん? リューさんはマハール村出身じゃないのか?」
イツキは疑問に思っていた事を口にする。
あれほどに状況通りなら、普通はここで村の人が襲われていたと思うからだ。
「ああ、違う、伝え忘れていたが、私…わしはレバー村の村長の息子です。マハール村には“用事”があってお邪魔しただけの事……」
そう、リューさんは状況を説明してくれたりその後二人はゴブリンの死骸を焼き、その辺に埋めていく。
※こうしないと、ゴブリンゾンビやスケルトンゴブリンになってしまうので冒険者は出来るだけ魔物の処理を行う事が礼儀とされていた。
リューさんは、馬車の点検をしている。先程の攻撃、(イロハの魔法)で動けるか、確認していた。
「ああ、どうしたものか!?」
ワザとらしい、声を上げるリューさん。二人をチラチラ見ていた。
「どうしました?」
「いやね、車輪の連結部に損傷が出来て、直さないとマハール村まで持たないかもしれん、もう一度、ゴブリンの群れに襲われたら、わしは死んでしまう。」
そう此方をチラチラ見ながら言ってくる。胡散臭い。
「………」イロハは無言だった、これは彼女のせいなのだから。
(下手な芝居過ぎる、…なんで“助けてくれ”と言わないんだ、待っているのか?)
「リューさん、俺達、マハール村まで仕事があるんだが、一緒に行くか?」
俺はそう切り出した、このままでは埒が明かないからだ。
「おお、いいのかい、ではわしが道案内をしよう、それと、馬車を連結させてくれんか、もちろん、無料で!」
いやけに最後の言葉を強調してくるリューさん。
「いいぞ、そのくらい、馬は俺達の馬車に繋いでくれ、連結器は後ろについているから。」
「ああ、すまんな、いや~助かったよ、冒険者を雇うとカネが掛かると聞いていてな。」
「そいつは、デマだよ、人助けもするのが冒険者というものだ。」
「そうか、そうか、済まなかったな、下手な芝居をしてしまった。ははは。」
そう、快活に笑うリューさんだった、その後馬車を連結させて、マハール村に進んでいく。
なんとか、馬車の修理代の話は誤魔化しつつ、マハール村付近まで辿りついた一行、辺りは林と草原に覆われた田舎道を走っていた。
「リューさん、なんで他の村に貴方が来てたんですが?荷物運び?」
イツキが後ろの荷台に居るリューさんに質問する、彼は、軽く笑うと答える。
「いや、わしはいわゆる代行業みたいなもの、マハール村に来た理由はこの村で何やら催しものが在るみたいでその相談だったかの。」
「催しもの?何でしょうか?依頼と関係あるとか?」
「まあ、わしも村長に言われて断りに行っただけだが、詳しい事は聞いて無い、ほら、最近魔物が来るので危険と噂されていたからな、……そうじゃ、村長にこの後、合うはずだろから、聞いてみるとよい。」
「ええ、そうします。」
「見えてきたぞ」
――イツキはリカに言う。
リカが前を向くと目の前にマハール村が見えてきた。
周りが木に囲まれ、小高い丘に出来た村がある。
人口約500人程度の小さな村で周りに木で出来た柵で村全体を覆っていたが急ごしらえで造ったであろう、柵全体が綻んでいるように見える、周りに空堀も掘っていたが、途中までだった。……
町の造りも木と藁葺き屋根の基本的な田舎の村という造りになっていた。
町の入り口に門番のような男性が立っていた。
「止まれ! 何用だ?」門番の男から声が掛かる。
「ギルドから派遣された、冒険者だ、今カードと証明書を渡す。」
そう言うとイツキは馬車を止め、男に冒険者証明板と依頼紙を渡した。
「うむ、失礼した、…どうぞお通り下さい。」
確認を済ますと、門番の男はイツキに返す。
「ありがとう、ついでに教えてくれないか、この村の鍛冶屋の場所を。」
「いいが、何用で?」門番は聞き返す。
「わしの馬車が“ゴブリンに襲われて”壊れてしまっての」――後ろからリューが顔を出す。
「おお、リュー殿!さようですか、……それなら、村奥にグレイアという若く腕のいい鍛冶屋が居るので訪ねてみて下さい。」
門番は丁寧に道を教えてくれた、そのまま村に中に入っていく。
横眼で先程からバツが悪そうにしているイロハをイツキは頭を撫でる。__リューのゴブリンに襲われては正解だが、“助けてくれた魔法で壊した”が抜けていた、それでずっと黙ったままなのだろう__とイツキは思っている。
鍛冶屋の場所は直ぐに村人に聞いてわかった、その家の前でリューを降ろし、馬車の連結を解除していく。
別れ際にリューが言いだした。
「おお、助かりました、感謝しかありませんぞ、……しかし、いいにくいのですが『馬車の修理代』は……」
それを聞くと、イロハは明後日の方向を向いてしまう。冷や汗を流しながら口笛を吹いていた。
(おい、イロハ、お前のせいなのに口笛吹いてるんだ。)
リューが悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「ははははははっ! 安心なさい別に請求しませんよ。命の恩人にそんな請求は出来ません、“人間”としてね。」
リューは快活に笑い、そう言った、その言葉にイツキ達も笑みをこぼす。
「ありがとう、リューさん、また会いましょう。」
イロハがリューにお礼を言った。
「お礼はこちらが言うべき言葉です。わしの村に今度遊びに来て下さい、レバー村で歓迎させてもらいます。」
そう、和やかな雰囲気でリューと別れた2人、そのまま、村長の家へと馬車を走らせた。__