始まりの日
ーーーーイース王国ーーーー
~???side~
AM7:00
「……………」ムクッ
朝日がカーテンの隙間から射し、その眩しさに目が覚める。のっそり体を起こしてカーテンを開ける。
天気は快晴。水路の多いこの町では雨の日が多いが、今日はその心配はなさそうだ。
薄手のカーテンを閉め、真新しい制服に着替える。『国立イース魔術学園』に入学してから一月が経つが、私はいまだ、環境に慣れていない。『慣れる』ことが出来ない理由があるからだ。
着替え終え、寝癖のついた長い髪を解かす。別に伸ばしている訳ではない。切ろうに切れないからだ。
歯磨きもすませ、鞄を手にする。料理をしない私は、近くにある商店でご飯を買い求めている。
戸締まりをし、寮を出る。そして学校に行く前に商店で朝食と昼食を買いに行く。帰りにも夕食を買いに寄っている。
おばちゃん「あら、おはよう、お嬢ちゃん。」
「…いつもの、ある?」
「勿論よ、毎日買ってくれてるから、お嬢ちゃん用に用意しているよ。」
そう言ってカウンターの中から使い捨ての弁当を出す。私も財布を取り出し、代金を支払う。
「670ミルド丁度ね、毎度ありがとうね~。」
「こっちこそ、いつもありがとう。」
弁当を持ち、商店を出たところで後ろから抱き着かれた。
「おっはよー、イロハ!」
抱き着いてきたのは数少ない私の友人である、リリアナ・ウォルス。あだ名がリリィ。水色の髪をセミロングを後ろで縛っていて、人懐っこい性格の持ち主だ。あと、家は有名貴族の一つでもある。
「?どうかしたの、イロハ?」
「……いつも言ってるけど、何で抱き着くの?」
「う~ん……スキンシップ?」
疑問系に言われても私に聞かれても困る………。
そういえば自己紹介をしていなかった。私はイロハ・ツムギ。茶髪をロングにしている。
茶髪はこの辺では珍しく、というよりほとんどいない。黒髪も同じでほとんどいない。
「それよりさ、今日は楽しみだね~。」
「…?」
「ほら、今日は使い魔召喚をやるでしょ!」
「…ああ……」
言われて思い出す。
今日は授業で使い魔を召喚する。召喚陣に魔力と血を流すことでそれぞれの者に見合う生き物が選ばれる。そのため、才能の差が比べられる。
「馬鹿な奴は、威張り散らす……。」
「まぁ…大抵の貴族って自分の力を示したがるから……。」
私のぼやきに苦笑しながら答えてくれる。分かってはいる。だから私は、大抵の貴族は『救いようが無いガラクタども』だと認識している。でも、中にはウォルス家のように信じられる貴族もいることを忘れてはいけない。
学校に着き、教室に向かう。周りからチラチラと視線が突き刺さる。いつものことだから気にしない。
リリィとの談笑(主にリリィが喋り、私は聞き役)しながら教室に入る。その途端、教室内が静かになった。そして、私の方を見ながらひそひそ話を始める。
「また来たよ……鬼人が。」
「何で来てんだろうな…?」
「自分が異端だって気づいてないんじゃね?」
「それ最悪~。」
「ウォルスも何で鬼人と仲良くしてんだろ?」
『鬼人』
私に付けられた渾名。鬼に現れるが茶髪は鬼族である『鬼人』が持つと言われている。
詳細は不明だが、『鬼人』は大昔、人間と戦争を起こして人類のおよそ9割までが亡くなったらしい。それからというもの、人類は『鬼人』を敵対視している
こんなことから、私は周りから浮くことになっている。髪を切ろうと思っても、美容院が引き受けてくれない。困ったもんだ…
席に着こうとしたとき、もう一つの浮く原因がやってきた。
「あ、ツムギさん、おはよう!」
「………」
やってきたのは、誰が見てもイケメンだと分かる男であり、周りには多くの女子が群がっていた。確か、1週間ほど前に召喚された勇者で…名前は……なんだっけ?
「誰?」
「ええぇっ!?僕の名前は神継光河だよ、忘れないでよ…。」
ふーん……どうでもいいや
正直、私はこの男が糞ほど嫌いだ。彼は私に馴れ馴れしく話し掛けてくる。本人は孤立している私に『話をする楽しみを知ってもらいたい』なんていう恩着せがましい考えで動いているのだろう。あぁ殺したい
「ねぇツムギさん。今日の放課後、暇かな?良かったら一緒に出掛けない?」
「………」フイッ
これだ。この男は事あるごとに私を誘う。改めて思う。非常に鬱陶しい。また、この誘いに乗る機はさらさらないので、そっぽを向いてシカトする。
「ちょっと貴女!コウガ様が話し掛けてくださっているのに、何故無視なさるのですか!?」
「そうよ!何でアンタはコウガを無視するのよ!?」
無視をしたら取り巻きの二人が噛み付いてきた。うわ、面倒なことになった……
「別に。私は行かない。行きたければ勝手に行けば?」
「あ、貴女ねぇ!」
「お、落ち着いて!きっとツムギさんにも予定があるんだよ」
ちょうど担任が来たので、彼らも席に戻っていく。愚者君(名前?忘れた)は教室の真ん中で、その周りを女子が囲んでいる。