散りゆく命
一方…城壁で侵入してくる大量の魔族を撃ち落としていく狙撃部隊は粗方片付いた。サラが僅かに殺気を感じ【星弓】を放つ。しかしその無数の弓矢は凍りつき落下した。
「へぇ…この少量の殺気に気づくなんて素晴らしいですね。」
空に立っていた男が降りてくる。アーサーがその男を殴り付けるが当たった感触はなく、徐々に自身の拳が凍りついていく。それを無理やり引き剥がしてその男から距離を取り、激痛の腕をみ顔を歪める。
「ぐぅ」
「アーサー君!」
「ごめんねぇ?君の右拳はもう使い物にならないですよ。僕は十本指の拇指……氷愛のランギルといいます。」
ランギルがしゃべっている最中にチヅルは裁縫魔法の糸で右拳に巻き付いて治癒を開始させる。さらにサラ、ミサ、イリヤに状態異常【冷気】【氷】の糸をすぐさま服に縫い付けた。
「優秀ですね。僕の能力を見抜くのは何百年振りでしょうか。僕も構えましょうか」
ランギルは裾から妖力と鋼鉄で作られた鉤爪を取り出した。ランギルは動くそぶりを見せていないのに、突然ミサが鎌鼬にあったかのように切り裂かれた。
「ぐはぁ……!!」
「ミサさん!」
「ミサ!!」
バラバラにはならなかったものの傷口が酷くさらに凍傷になっているため治癒が遅れている。チヅルはオプションギア【治癒魔糸】をミサに縫い付けるが応急処置にしかならなかった。イリヤが英霊を霊装する。
《英霊憑依》【ナイチンゲール】
“医名”
【天使は、美しい花をまき散らす者でなく、苦悩する者のために戦う者】
<癒しを掲げる貴婦人>
癒しの魔法を施して一命を取りとめたミサ。戦線復帰は無理と思い、イリヤがミサをリカのダンジョンへ強制転移させた。イリヤは霊装を解いて、沖田総司の霊装を着る。そして、西郷隆盛、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ニュートンを呼び出した。
ニュートンの万有引力により無重力を作り出し、西郷隆盛の敬天愛人を唱え空間を支配、および固有結界を発動させ錦の御幡を掲げた軍隊が現れる。ダ・ヴィンチは空間を左右上下逆さまの世界に書き換える。
サラは雷帝の一撃を放つ。ランギルは氷の壁を作るが壁をすり抜け直撃した。
「逆さまで困りますね。これは方向感覚が鈍りますね。そこの君を殺せば解けるのかな?」
ランギルはイリヤに向けて今度は見える氷の残撃を放つ。逆さまの世界にイリヤの攻撃は当たらなかった。その隙をついてアーサーは妖力を身体に纏わせる。
「俺は妖術は得意じゃないけど、妖力を体に纏わせることはできる!」
《天音体術》【妖天乱舞】
妖力の打撃がランギルに直撃する。鉤爪で対応するが弾かれ飛ばされた。ランギルは空中で態勢を整え血を拭う。劣勢なのにニヤリと不気味に笑っているランギルだが、気を抜かずに警戒してるはずのアーサーを瞬きする間に左腕を切り落としていた。何をされたのか分からなかったが左腕に痛みを感じて悲鳴をあげるアーサーはすぐに止血し、妖力で傷口を塞ぐ。さらに回復魔法を発動したが効果ご無かった。
「アーサーさん!もう下がってその傷では!」
「大丈夫……これくらい……!?」
「強がらなくていいですよ。僕の氷は細胞を凍らせています。治ったところでもう使い物にならないですよ。」
「それはどうかな……ぐぅ……俺はまだ本気を出してない……」
アーサーは傷口を押さえながらよろめきランギルの前に立つ。ランギルは呆れたように鉤爪に付着している血を舐めながら、楽にそして凄惨に殺そうと考えていた。しかしアーサーの妖力は徐々に上昇しているのに気づいた。
(俺はもう長くはない……だから最低でもこいつだけは……道連れに)
アーサーは修行時にリカからこれだけはやるなよと言われたがやらずにはいられなかった。
[お前は封印を解除すると耐えきれず暴走し、死に至ることになる。……死にたくないならやるなよ。ただし死に際だけは自分で決めろ。]
「わかってる……世界を救えるなら俺一人の命で祓えるなら安いものだ!封印解除!」
妖力が吹き荒れる。ランギルは少しだけ焦りを見せたが余裕の笑みに戻った。
《グウワァァァァ!!》
アーサーは銀色の毛並みに体格は大きくなり、尻尾は八本靡かせていた。アーサーは八尾の妖獣と神狼フェンリルの子供の子孫である。何百年と人間と交わり血は薄くなっていたが、彼だけは血が濃く受け継がれていた。
封印解除にはまだ幼すぎるため体に耐えきれず死んでしまう。それをアーサーは解除してしまった。アーサーが素早く腕を振るうとランギルは胸を貫かれており、心臓はアーサーに潰されていた。ランギルは氷の心臓を作り延命した。ランギルは氷の冷気を発生させ辺りを凍らせ、凍てつく冷気が呼吸するだけで肺が凍りついてしまうであろう状態であった。アーサーはランギルの周りを残像が出来るほど素早く移動する。ランギルはその残像に攻撃を放つが消えてしまう。8本の尻尾が同時にランギルに襲いかかるが、氷の盾を左右上下に素早く展開し防ぐ。それより早く移動する尻尾に対応することが出来ず貫かれているランギルであった。攻撃がやむと穴だらけのランギルが倒れていた。
そしてアーサーの体力と妖力が限界を越えてしまい、姿が解けてしまった。アーサーは勝ったと思い油断してしまい、ランギルの死体は確認しなかった。高い音が鳴り響くとアーサーの上半身と下半身が分断されていた。
「な……ん…だと。」
薄れ行く意識に目の当たりにしたのは傷が塞がっているランギルの姿であった。
「「アーサー!!」」
「いやぁ…今のは危なかったですね。君の力はすごい……けど甘い甘過ぎる!」
ランギルは高速治癒にて復活した。ランギルに刺青が身体全体に浮き上がった。
「まさか悪魔の力であるハゲンティを内に出すとは思わなかったなぁ。これは嫌いなんですよ。容姿が変わるので?」
ハゲンティ……それは地獄の33の軍団を率いる序列48番の大総裁。水をワインにワインを水になど変化させる能力を持つ悪魔。
ランギルはアーサーの死体に近づいて吸収した。すると銀色に変色し尻尾が9本となった。アーサーの能力を自分の能力に変換したのだ。
「次は君たちを食らうよ?」
「うわぁぁぁぁあ!」
「駄目ですサラさん!」
サラの妖力を纏った弓矢も吸収され、尻尾に帯電されていた。これは勝ち目がない。
「朽ち果てなさい。」
《業符》【地獄の氷業】
城壁が氷結するとともに崩れ落ちた。瓦礫から這い上がるが無事ではなった。ランギルが近づいてきた。もうだめと確信したとき空から誰かが落ちてきた。
「誰ですか?」
「俺?俺は帝国四騎将総取締役キョウヤ・シフォン……姫様の頼みでやって来たよろしく。」
帝国は姫の暗殺で1人侵入していた。それが失敗してここにやって来た。