疲弊
そしてこのまま続けてもジリ貧だと悟ったイツキは、自身の持つ大技で一気に逆転を狙う。
幻想を頭上でぐるぐると回し始めるイツキだったが、哀華は特に妨害せずにイツキの出方をうかがう。
「貴方の決死の大技を、私に見せて。」
「ウオオオオッ!!」
《天音剣術》【黄竜殲】
咆哮と共に大きく幻想を振りかぶって宙を飛ぶ。全体重を乗せた”縦斬り”が哀華目掛けて振り下ろされる。
退魔師が、打ち祓う渾身の一撃を加えようとしているのだ。
哀華でなければ足が竦んで動けずに、そのまま頭から幻想の刀身で切り裂かれていた事だろう。
だが、哀華は笑みを浮かべたまま、幻想を哀華は、オーラで包まれた大刀で受け止める。
インパクトの瞬間、空気が切り裂かれたような感触が体に伝わった。
イツキの大技は確かに哀華に届いた。
破壊力は申し分なく、イツキに勝利を確信させる程の、満足のいく一撃だった。哀華の顔がよく見えないが、苦悩に歪んだ表情を浮かべているだろうといに確信させた。
「哀しいけど重い一撃ね。」
次の瞬間、ゾクリと感じたことのない衝撃が、イツキの体を駆け巡る。
その衝撃の正体はハザマと戦ってわかった
ー恐怖ー
である。
イツキは衝撃の正体に気づかぬままに、哀華と対峙する。
「では、次は私の番ね?」
その瞬間にイツキの体が、跳ねた気がした。
《天符》【終焉の流星】。
「舐めるなぁッ!!」
《天音剣術・無ノ太刀》【無音青眼】
一帯を消滅させるほどの隕石が降り注ぐ。イツキの幻想の横一線に振り切ると、爆風と共に、衝撃波で隕石群がかき消される。
流石はといったところだろうか、哀華の妖術を打ち消したことで、自らの自信を取り戻したかのように見えた次の瞬間、哀華を見て、イツキの表情は凍り付いた。
先程の【終焉の流星】で終わりではなく、まさに開始の合図だったのだ。
《炎符》【炎神の爆轟】
《雷符》【這い寄る雷撃】
信じられない事に、無詠唱で大型と呼べる妖術が、同時に哀華の口から紡がれた。炎神から数百の火球が一気にに放たれる。
ー防げ幻想ー
「ぐぅうッッッ……!」
幻想を盾にし、炎神の炎から身を守るイツキだが、盾を通り抜けて、イツキ目掛けて雷光が迸る。
「ッッッ………!!」
声にならない声をあげながら、その身に哀華の雷が直撃する。
そして今も尚、無防備となったイツキめがけて、炎帝の攻撃が無慈悲に注がれ続けている。
火球の衝撃によってそのまま体を投げ飛ばされていく、さらにイツキの周囲に、鮮やかな魔法陣が追従するかの如く出現する。
「哀しいけどもっといくよ。」
哀華は弱った獲物を確実に仕留るために動く。
キィイインという音と共に、衝撃が遅れて森の中に響き渡る。
《天符》【天体の爆発】。
ピンボールのように哀華の妖術によって体が弾かれ続けるイツキ、そこにさらなる妖術がイツキを直撃する。
疲弊しきった体に、連続でその攻撃その身に受けて、二度、三度と蹈鞴を踏み、神格が強制的に解除され、やがて動かなくなる。
幸か不幸かここで意識を失ったことで、哀華の次の妖術を受けずに命は救われた。
これだけの妖術を連発していても、今の哀華の妖力では、十分の一も減ってはいない。
むしろ、ここでイツキは気を失った事で九死に一生を得たのである。
何故ならば、連続で放たれた妖術で耐えていたイツキに向けて、次の用意していた妖術は、誰も到達できない冥層領域と呼ばれる極限妖術だったのだから。
「殺さない哀しいけど…あの方が殺すなと言ったから殺さないであげるわ。次に会った時、死なないようにね。」
そうしてイツキは、気を失っているイツキを、放置して消えていった。
リカのほうもようやく祓えることに成功し、血だらけになりながらもイツキのほうへと向かっていった。
2人は疲弊し切っていた。