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力の差

剣を向けたイツキたちは、特級妖嘛に向けて走り出す。常人ではありえない高速戦闘を行う。木が薙ぎ倒され、地面が掘り起こされるほどであった。

妖嘛が右拳を振り上げた瞬間、リカが拘束し、イツキが斬り落とす。妖嘛の重力がリカを押し潰そうとするが、無効化し背負い投げして叩きつける。その隙にイツキが哀華に距離を詰める。哀華は大刀を召喚し構え、振り回す動作を行う。

哀華がいかに規格外の力で、華奢な身体で大刀を振り回しているかが分かるだろう。斬撃によりイツキの左手は吹き飛ばされていて、肩口から胴体にかけて真っ二つにされている。


「哀しいけどこれも幻影なのね。」


《幻符》【有幻覚】


実態のある幻影だが、斬った感触が伝わるほどのリアリティがある。そして、哀華はそんな事を言いながらも、大刀を構えてモーションに入り始めている。

振りかざされた大刀はイツキの幻想の刀身をパリィする。イツキは回し蹴りで哀華を蹴るが当たらなかった。いや僅かな頬を掠っており、傷が出来上がり血が流れた。

そんな哀華との闘いは、イツキの中に眠る戦闘意欲を掻き立て、やがてそれは彼の中で昇華する。


「やっと感覚が戻ってきたか。」


哀華は手を止めて、イツキの言葉に耳を傾ける。


「さぁ、ギアを上げていくぞ。」


そういうと、イツキの服に妖力が纏い和装へと変わり、眼帯が解け炎が燃え上がる。

神格を解放したのだ。


「へぇ…神格を持っているの?だけど私に勝てるの?」

「勝つしかねぇんだよ。」


そして、先程までのイツキとは比べ物にならない、増幅された妖力に哀華は嬉しそうだった。

イツキの神格の解放と共に、それまでの傷は全て完治する。


「待たせたな哀華…思う存分に祓い合おうじゃないか!」


イツキは戦闘意欲に溢れているといっていい。だが哀華も戦闘意欲に関しては負けてはいない。

イツキ程の戦力値を持つ妖力使いとの戦いは、勝ち負けではなく、純粋に戦いたいという気持ちが勝る。

それが退魔師の厄介な点で、とても普通の人間では、理解の及ばない部分でもあった。

イツキが笑みを浮かべて哀華に向かっていく。

紫のオーラで包まれた手はまさに剣の如く、鋭利な物であった。

イツキはその手で哀華の持つ大刀と渡り合う。

チリチリという大刀の刃と、イツキのオーラで包まれた手刀が、擦れ合う音が響き渡る。

 先程のイツキとは比べ物にならない速度で攻撃を仕掛ける。

斬る、突くの実にシンプルな攻撃であるが、シンプルであるが故に、大刀を持つ哀華は不利になる。

ある程度の刃物であれば、哀華は刺されようとも、お構いなしに大刀で斬りかかるが、イツキの手刀は、一撃でも加えられることを哀華でさえも防ぎ切れるかわからなかった。

一撃必殺と呼ぶべき一振りで、”たかが一撃”ではない、”一撃”で形勢が変わるのだ。

間合いを活かして、大刀で振り下ろし、弾き、そして離れながらも大刀を払う。

まさに二人は舞踊の如く、この場に観客がいればその者たちは、この二人の演舞の如く戦闘に、見惚れてしまうことであろう。

二人の表情は、殺し合いを楽しんでいるようで、遊んでいるように見える。

互いに自らの剣技や相手の攻撃で遊んでいるのである。

次は刺してくる、だからこちらは受けずに流そう。振り下ろしてくる、だからこちらは受けて返そう。殺し合いの中で、自分の持つ技術を投影して、遊んでいるのである。

互いの技が拮抗すればするほどに、更に自分が少しでも上に行きたいという欲が出てしまう。

そしてその欲は時に身を滅ぼすことがあるが、時に研鑽という形で精度の向上に役立つ。

欲がなければ、上達はあり得ない。

イツキは哀華という強敵と戦う事によって、知らず知らずのうちに強くなっているのだった。極限に近づくにつれて、上達の幅は少なくなる。

昨日よりたった1ミリ、一歩分程の上達が、極限に近しい者にとっては、なによりも嬉しく、成長と上達によって、自分が強くなったと自負できる。

その欲は”極限”まで昇華されるまで続く。まさにその機会を与えられたイツキは、今この戦いに幸福を感じているだろう。

そして、哀華もまた久しく交える相手である退魔師とのの命をかけた戦いに、多幸感を得ている。

ただし、この殺し合いも永遠に続くというものではない。

両者はまさに互角のように見えるが、微々たる差というものは密かに存在する。

この場合、二人の間で何が差になったのか。

今のイツキの解放と、哀華はまさに実力は拮抗。

戦闘技術に呼吸そして破壊力、確かに微々たる差ではあっても差はあっただろう。

しかし、大きな一つの要因があり、それが今回は”差”をつけていた。


 ――それは、”強者と戦う時のペース配分”である。


『ハァッハァッハァ……。』


イツキは徐々に息を切らし、哀華の攻撃を少しずつ捌けなくなってきている。

イツキはまだ神格を扱えるまでに成長しておらず、ましてや哀華のような特級妖嘛と戦う事自体は少なくはない。

それこそ地球にいた頃から、多くの妖嘛を祓ってきた。

一級を祓うことはあったが、特級とはまだ戦闘経験がない。

しかし、戦い始めから哀華の攻撃は、一貫して自動人形のように一定なのだ。

速度が速い時の攻撃、速度が遅い時の攻撃、正面からの攻撃、斜め、隙を狙う攻撃、これらを織り交ぜて緩急をつけてくるが、その攻撃の”精度が常に一定”なのだ。

圧倒的にイツキの方が強ければ、如何に哀華が、一定の精度を保っていようがごり押してしまえるが、ほぼ強さが互角となったイツキだが、長期的に戦えばその差は歴然である。

マラソンで言えば、フルマラソンを二時間半で走りきると言われているが、時速十八キロ、秒速五メートルの速さで走る人間がいるとする。

これが哀華の一定の精度を保って攻撃する計算だとして、イツキは知らずに力をセーブしてしまっていた。

精々、やっていることは”最初は抑えて、後半に本気を出す”。それなりに戦闘経験を持つイツキであったが、

それでもこれが、イツキと哀華の微々たる”差”の結果であった。

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