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イロハと楽叡

「楽叡様」


死を覚悟したファースが、救世主というべきこの場に現れた楽叡に声をあげる。


「危ないところじゃったなぁ…お主は屋敷に戻って、救援を求めてこい。」

「は、はい。」

「やらせると思う?」

《天霧流》【手月】


 そういってファースを逃がそうとする。ファースが一目散に屋敷の方向へ逃げ出すが、イロハが音もなく追いかけて、妖力を纏った手を身体目掛けて内蔵に突き入れようと伸ばす。


「目の前にいる儂を無視するのは、どうかと思うがな。」


 だが、そんなイロハの手首を、楽叡は掴み取る。


「誰だか知らないけど、邪魔をするな。」


イロハは強引に手を振りほどく。


「おや?顔に似合わずと暴力的なのじゃな。」


和装の男は、くすくすと袖で口元を隠しながら上品に笑う。


イロハから、密度の濃い殺気が漏れ始める。ランクSの冒険者ですら、動けなくなる程の殺気である。


 しかし、その殺気を向けられた当の本人は、イロハの殺気を心地よさそうにしている。


「ふふ、人間でも磨けばここまで輝くのじゃな? 儂も少しばかり貴方の相手をしてあげる気になったわ。」


普通の人間は気絶するほどの濃密な殺気だが、楽叡は、微笑の殺気を受けて、嬉しそうに笑みを浮かべていた。

イロハは、音も無く近づき上品に笑みを浮かべている。の背後をとって、そのまま喉頭隆起のどぼとけを投影した剣で突き刺そうとする。

しかし、いつの間にか右手に鉄扇を持ち、イロハの急所を突こうとした手を払う。

そして、そのままイロハの勢いを利用して足をかけて、イロハの体がそのまま宙に浮かされて、膝から崩れ落ちそうになるが、その態勢からイロハはさらに、楽叡の足に転ぶ勢いを利用して、自らの右足を絡ませて体勢を崩させる。


「人間の癖にやりおる。楽しめそうだ。」


流石に重力には逆らえず、イロハに足を絡み取られた楽叡は、イロハと同時に地面に手をつく。互いに足が絡まった状態にも拘らず、両者の目線は互いの次の手を視る。


 コンマ数秒……


イロハの右肩が僅かに上がるのを見た楽叡が、空いている足で、イロハの右肩を蹴り上げる。


「チィッ……!」


イロハは左手で剣を投影して斬るつもりだったので、それを防がれた形である。しかしイロハもまた、蹴り上げられた拍子に流れに逆らわず、そのまま宙返りをして距離を取って離れる。

だが、そのまま楽叡はイロハの着地を狙って、タイミングを合わせて身体を反回転させて、右足の踵でイロハの足払いを仕掛ける。

しかし読んでいたイロハは、空中で強引に回転して蹴りを繰り出そうとしている、楽叡の右肩に手を置いて、剣魔法を発動し、肩から剣が出現し、突き刺しにする。体を返しながら、楽叡の首に両足を絡ませて、体を逆回転させてそのまま首を絞め落とそうとする。

相手の回転にあわせて、逆方向に脚がかみ合って、そのまま重力に逆らわずに全体重をかけて、相手の首を絞めたまま地面に叩きつけようとするイロハ。

流石にこのまま捻られたまま、地面に全体重を乗せられて、叩きつけられてしまえば、首の骨は折れるしかないだろう。


「………あはは、これはすごいのぉ」


ボキッという骨が折れた音を聞いたイロハは、挟んでいた楽叡の首を外してそのまま立ち上がり、横たわる彼をみる。

イロハは一切視線を楽叡から外さない。確実に殺したとは思うが、イロハの喉の奥に、小骨が刺さったような違和感が拭えない為であった。


「………。」


 五秒、十秒、十五秒……、楽叡は動く気配を見せない。数分たちここでようやくイロハは、溜息を吐いて対象者を殺したと判断する。


「はぁはぁ…邪魔が入った…犯人はもう逃げ去った。」


イロハは踵を返して、ひとまず警備隊や冒険者たちと、戦っている魔物を一掃しようと背後を振り返る。


 ――その瞬間であった。


「くふふ、ちと警戒してもいいと思うのじゃが。」


イロハは振り向くと、首が折れたままの楽叡が立っていた。楽叡は鉄扇でイロハを袈裟斬りにする。


 『うぐっ………! グハァ……ッ!!』


血を流して、イロハは前のめりに倒れて意識を失った。


「ふふ、うふふ、うふふふふふ。なかなか楽しめたよ。」


イロハの血がついた指を美味しそうに舌で舐めとりながら、目を細めて笑う、楽叡であった。折れた首を戻した楽叡は何かを探知すると消えていった。

消えるのを確認したイリスは修復魔法でイロハの傷口を治していく。身体の使用権をイリスに移し、誰もいないところまでイロハの身体を届けるとぶつりと倒れ気を失った。


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