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研究と弊害

街から遠く離れた街道を、ビッジたちを乗せた馬車が走っている。

仮死状態となったナハトを、ちらりと横目で見ながら舌打ちをする。

ナハトを攫った理由としてビッジたちがいる組織は元々海向こうのウヴァ大陸の”ハールバンス”に所属する獣人族たちであった。

ある事件がきっかけで、ビッジの直属の上司である反王派【シェルパ】の派閥と、王派【カビラ】の派閥が敵対関係になり、シェルパの派閥は、撤退を余儀なくされて逃げるように、このテュレンに居を移してきたのだ。

この組織の目的は、この大陸に生息する魔物と冒険者たちを洗脳し、自分たちの駒として使い、いつかはこの街を足掛かりに、大陸中をも支配して”ハールバンス”のカビラ派たちとの闘争に備えようとしているのだった。


その第一歩として、薬師である男の薬を大量に生産するために、ナハトの売っている新たなる薬草は適合率がよく、まさにファースの洗脳の薬を、生み出すために存在するようだった。

これに目を付けたビッジたちは、作戦を決行。

そして、ナハトを捕らえて、これからだという所でギルドの指名依頼を受けたイツキたちに見つかったという訳である。

ビッジはナハトの持つ大金ともいうべき魔薬とファースの調合の力があれば、どうにでもなる。

このテュレンの街には多くの冒険者が生息している。

ここ支配すれば、後は倍々に兵を増やすことが、可能であると考えているのだった。

数さえ増やしてしまえば、後はシェルパ派と言った力有る獣人族達が、名付けを行ったりして、軍事強化を施していき、やがては大陸全土に劣らぬ、兵士達の国を作り上げる。

 そして、ビッジたちの馬車はようやく彼らの主シェルパの待つ屋敷に到着するのであった。

目覚めたナハトを捕縛し終えたビッジたちは、そのまま主の待つ部屋に向かうのだった。

シェルパの屋敷は森林に囲まれた奥地にあった。かなりの広さの敷地に警備の数も尋常ではなく多い。

もともと最大勢力の”ハールバンス”のそれなりの地位にいたシェルパは、自分の配下たちを連れてこの大陸に来た。それなりの広さの屋敷でなければ、多くの配下を住まわせることが出来ない。

そこでこのテュレンにいる自分たちの存在を知る、ある貴族の協力の元この屋敷を用意してもらったということである。

その屋敷の中をビッジは、ナハトを連れて歩いている。長い廊下の先、ようやく主の待つ部屋に到達した。


「シェルパ様、件の商人を連れてきました。」


厳かな作りの部屋に、彼らの組織の主はいた。ナハトはその主を見て、自分がここから生きて出ることは出来ないだろう思ってしまった。


「よくやってくれました。どこで仕入れているかを聞き出せましたか?」

「いえ、本人の口から直接聞き出そうと思いまして。」


部屋にいる者たちが一斉にナハトをみる。

ナハトは震えながらも、正直に言うべきか悩んでいた。

ここで素直に薬草の仕入先や場所を吐けば、彼は用済みとなり、殺されるのではないかと。

それならばと、聡い頭をフル回転させてこれをどう転じることができないかと計算を始める。

先んじて釘を刺される言葉を投げかけられる。


「あー無理に言わずともいいですよ。別に貴方の意思に関係なしに聞き出す手立てはいくらでもあるのですから。」


この件の薬を使って、洗脳することも可能なことや、その気になれば痛めつけて体に聞くという手もある。


 更には最上位の獣人族が持つ、【操結】と呼ばれる力で操る事も可能である。

素直に吐いたとしても、殺される可能性もあるナハトは八方塞がりであった。


「おとなしく言えば、私を生かしてくださいますか?」


ナハトはなんとかそれだけを口に出すことが出来た。


「貴方を殺したところで、我々は何の得もないですしね。」


信用をする事はとても出来ないが、直ぐに殺すと言われなかっただけ、まだマシであろうか。

ナハトは新しく見つかった、薬草の仕入先を話すことに決めたのだった。


 ………

 ……

 …


 その頃、テュレンの街〈ディラン〉では、また魔物たちが攻めてきていた。今度の魔物は蜂の魔物で【ヘルビー】の大群である。

ヘルビー自体が、ランクD相当の魔物で、狂暴化している今ワンランク上のC級と見てもおかしくはないだろう。

警備隊たちや、町の冒険者が対処にあたってはいるが、魔物の数は、非常に多く徐々に押されてきている。

特に面倒なのがヘルビーの持つ毒針である。キラービーに刺されて毒を受けるのは今までもあったが、

 今は毒のほかにも刺された者が次々と、酩酊めいてい状態になって倒れていくのである。

今までにこういった現象は起きず、討伐している警備隊たちも対処に悩んでいる。


「これは、薬の影響でヘルビーの毒針も変異してる?」


 警備隊の一人が慌てながらも考察をする。


「考えてる暇はないぞ!次から次に被害は出てる、このままだと全滅だ!身体を動かせ。」


 ギルドからのクエストで集まった護衛の冒険者たちが、町の侵入を防ごうと、ヘルビーたちを相手に、奮闘をしているが、それでも状況は芳しくない。


「お、おい! まずいぞ!!ヘルビーだけじゃなく他の魔物たちも来てる!』


 冒険者の一人が指をさす方向を見ると、数十匹の規模の魔物たちが、続々と集まってきていた。


「こ、後退だ! 怪我人とヘルビーに、刺された者を背負って、急いで街の中へ!」


 冒険者たちと警備隊が、慌てて街の門の前にバリケードを作って後退していく。このままでは〈ディラン〉は終わりである。


狂暴化しているキラービーの戦力値は、少なく見積もっても数万を越える。

この数値はギルドに属する冒険者の勲章ランクで言うと上位のCランク者もしくは下位の勲章ランクBにさえ、匹敵する強さである。

そんな強さの魔物が数十匹、さらに日を増すごとに数は増えていく。

なんとか今は街の中への侵入は防いでいる為に、街の非戦闘員たちへの被害は出ていないがこのままでは時間の問題であろう。


「怯むな!たたかえ!戦うんだー!」

【三妖狐】

《天音剣術・雷ノ太刀》【雷電風雨】

「お前らはそれでも冒険者か!」

《草魔法》【振り下ろされる草凪の剣】

「だれが…この街を、守るの?」

《天霧剣術》【五行霧雪】

【雪花竜雲】【霧幻弍式】


凄まじい雷の音に振り向く冒険者たちは唖然とした。数万いたヘルビーは半分に減っていた。さらに三匹の狐が他の魔物を喰らっていた。

リカもイロハも応えるように応戦していた。


 ………

 ……

 …


 ファースは、自分の部屋の一室で今日も研究成果をメモし続ける。ヘルビーに刺された冒険者の状態を、思い出しながらあらゆる統計をとる。


「あの酩酊めいてい状態は、元々ある毒と魔薬の影響であることは間違いはない。そうであるならば、いずれは薬を必要ともせずに、ヘルビーの毒針から、薬の成分を感染インフェクションさせることは不可能だろうか?」


 今日もまた薬と新たな薬品の調合の研究は続いていく。彼の願いが成就されるまで、それは呪いの如く続くのだろう。

行きつく先に彼の望んだ願いがあるかは、誰にも分からない。

それと邪魔をしたあの3人はどうしたら殺せるかを考える。1番の弊害は彼らであろう。彼らが居なくれば数時間もあれば落せたはずだった。

それを考えていると夜が明けてしまった。


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