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復讐に囚われし薬師

「あの方がお気に入りの子もそうだけど、やはりあの鬼人の子は潜在能力が相当なものね。」


〈ディラン〉の街を襲撃していた魔物を斬り刻んでいたイロハの力を、イツキの業火との炎をこっそりと覗いていた哀華が、街に戻っていくイロハを見て、笑みを浮かべてそういった。


「もう一人も相当に力はある。それにあの子はカリンと一緒ね。」


哀華は、リカの潜在能力も観察していた。


「これは【カリン】はとても喜ぶでしょうね。」


 そう言ってくすくすと笑いながら、哀華は去っていった。


 ………

 ……

 …


男は〈ディラン〉の街の近くの森に向かい歩いている。

彼の上着の内ポケットには、今この町を騒がせている”例の薬”が入っていた。

この男こそ、魔物たちに魔薬を投与して、魔物達に街を襲わせている真犯人である。


 『………。』


虚ろな目で独り言を言いながら、その男は今日も、街の近くの魔物達で実験をしている。


「この種類の魔物であれば、これが適量だな。」


男が投与している魔物は蜂の魔物のヘルビーである。鋭利な針を持っていて危機に陥ると、その鋭利な針から、

毒が分泌されていき、その針を使用して対象者を殺すという危険な魔物である。

そして男は、慣れた手つきでヘルビーに薬を投与する。

投与されたヘルビーは、酩酊したかのように辺りをフラフラと飛び始めた。


「………これでいい。」


 そう言い残して、男はいつものようにその場を後にした。このヘルビーはやがて活性狂暴化して、街を襲うようになるだろう。

その男は〈ディラン〉内にある宿屋に戻り、今日の蜂の魔物に使った薬の量と、今までに投与してきた魔物たちの薬の量を比較して計算を始める。


「薬の量を抑えて襲わせるならばこいつでどうかな?」


ブツブツと宿屋に戻ってからも男の実験は続く。自分の過去のメモを見ながら今日の実験結果を書き足していく。

男が組織に所属し始めてからは、これまでにあらゆる非道な実験を重ねてきた。

そして今回も街に出回っている、危険な魔薬を創り出したのも彼である。

彼は研究者でもあり、薬師を生業なりわいとする職業で、野草等から薬草などを調合して混ぜ合わせて効力を高めたり、新たな薬となるようなものを探し出し、それを売って生活していた。

彼には同じ年の愛する妻と子供が…いた。

幸せを絵にかいたような生活で、真面目に毎日働いていた。

この幸せは長く続かなかった。当時住んでいた彼の村を魔物たちが襲ったのだ。

彼は野草を集めに村から出ていた為に、九死に一生を得たが、村は焼け焦げて至る所に、村の者たちの死体が転がっていた。首がない者、下半分がない者もいた。

気が狂いそうになる思いを封じ込め、妻たちは無事を願い自分の家に辿り着いた。

そして、中に入り愛する妻と子供の名前を呼んだが、家にいるはずの家族の返事がない。

自室に辿り着いた彼が見たものは、子を必死に庇うように抱きかかえていた妻の死体と、泣き叫んで必死に助けを乞うたのが見て取れる涙の跡が残る彼の子供の死体だった。

慟哭どうこくの声をあげて、彼は苦しんだ。

何故妻や子ではなく自分が生き残ったのかと、残される者の辛さの真の意味を知った。

ようやく落ち着いた時、彼は魔物に復讐することを誓い、自分の全てを投げ売って、近くのギルドに村を襲った魔物の討伐依頼を出したが、そのギルドは彼の依頼を断ったのだ。

彼は激昂してギルド職員に問いただしたが、ギルドは頑なに理由を言わなかった。

原因が分からずどうしようもなくなった彼は、ギルド依頼の為に集めた金で、酒場に通うようになった。

そしてある日、酒場で自分の隣の席に座った男たちが自分の故郷を襲った魔物の話をしているのを聞く。


「そういえば、お前近くの村が、魔物たちに襲われた話を知っているか?」

「ああ……、貴族の恨みを買って、雇われた魔族に滅ぼされたらしいな。」

「えげつない話だよな、しかも理由がフラれた貴族の逆恨みっていうしょうもない話でな。」

「村一番の美人だったらしいぜ?その臭貴族の目に留まったらしいが、誘いを断り腹を立てたらしいな。」


 ………

 ……

 …


男は話をしていた男たちに詳しく話を聞き、俺たちの村を襲わせた貴族の名前を知った。


その貴族おとこの名は、【サガラ・ブドー】

テュレン公国〈セェーレル〉の田舎貴族で、爵位は男爵である。

新しく地方に飛ばされてきたようで、近隣の村や街の視察に来ていた時に、その男の妻に目を止めたらしく、どうやら一目惚れをしたらしい。

サガラは彼の妻に迫ったが、誘いを断られて腹を立て、お抱えの魔族を利用し襲わせた。それが彼の村が滅んだ理由だった。


「何だそれは?そんなくだらない理由で村を…妻を…子を…俺の全てを奪ったのか!?」


 ギルドが頑なに討伐依頼を断るわけである。どこの王国も街のギルドと貴族との繋がりがある。しかしそれは公平でなければならない。

中立と言われるギルドといえども権力には勝てないのだ。

 今回はサガラが自身の領地をギルドに話を通して、村を襲わせた魔物や魔族たちの、討伐依頼を断るように圧力をかけたのだろう。

しかし真相を知った所で男が、一人で領地を治める程の貴族を相手にできる訳もなく、男は泣き寝入りするしかないのかと、絶望をしかけていた所、同じく酒場にいた女が声をかけてきた。

その女もまた先程の自分の故郷の話を聞いていて、なんとか力になってあげたいと、申し出てくれたのである。

 女の名前は【哀華】組織に所属する”十本指”であった。

哀華という女が言うには、あの方に協力するのであれば、村を襲った魔物と、サガラ男爵に復讐をするチャンスを、与えるといったのだった。

誰が聞いても怪しい話だが、男には他に頼ることもなければ縋ることもなくこの怪しい話ですら彼にとっては藁にでもすがる思いであった。

 彼が今生きている意味、それは組織に貢献して貴族と、愛する全てを襲った魔物のはらわたを掻っ捌き復讐を遂げる事なのである。

 こうして”復讐”に取り憑かれた男【ファース】は、

奇しくも魔物を使って、今日もまた街を襲う薬を笑みを浮かべなら調合するのだった。

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