襲撃
「駄目だな。完全にナハトさんの探知ができねぇ。」
哀華によって仮死状態にされたこと、結界が貼られたせいで、ナハトを完全に見失ったのだった。
「ふーむ、仕方あるまい。このまま闇雲にナハトを探すよりは、一度街に戻ったほうがいいか。」
イツキの言葉に二人はも頷く。さらに鼠型の式神を大量にばら撒いて探すことにした。
そして三人が街道を伝って〈ディラン〉付近まで来ると騒がしいことに気づく。
入り口に狂暴化している魔物たちが、次々と雪崩なだれ込んでいるのが見える。
それを簡易な木の板で塞ぎながら、アルベルトたち警備兵が対応しているのが見える。
だが、警備に対して狂暴化している魔物の数が、倍以上はいるだろうか。
このままでは数で押されて、街の中に侵入されるのも時間の問題であろう。
「俺たちも加勢しよう。」
「ひとまずリカは怪我人たちを頼むぞ。イロハ…着いてこい。」
『分かった!』
『がってんしょうちのすけ!』
突然割り込んできたイツキたちに驚いていたが、事情を説明すると素直に頷いていた。
「こっちの準備はオッケーだ!」
《草創生魔法》【草壁の門】
警備隊たちを街の中に移動させ、リカが城壁に草の壁を張り巡らせる。草に触れた魔物は、草に養分を取られるように乾涸びて死んでいった。
「それでは少しばかりお前たちにはまともになってもらおうか。」
イツキはアルベルト達が作ったバリケードを突き破って、次々と乗り込んでくる、魔物の前に立ちはだかる。
魔物の中の大半は、E級やD級といった通常時であれば、何の苦労もない魔物たちだが、この魔物達は、薬で自我を失う代わりに力が増しているようで、本来よりワンランク上の魔物と見るべき魔物たちが数十匹いる。
『グオオオオッ!』
「弱いほど吠える。」
《天霧剣術無ノ型》【縦翔】
次の瞬間、イツキと魔物の間の地面に、大きな真横一線の亀裂が入った。
「一度だけ猶予を与える。魔物達よ、死にたくなければ死ぬ気でこい。」
そして一度だけ声を切って魔物たちを見渡し、再度口を開く。
「その線を越えれば容赦はしない。」
少しばかり魔物たちはイツキを見て止まろうとしたが、今は薬の影響で平常ですらない魔物は、苦しそうな表情を見せながら、イロハの示した線を越えていく。
《天霧剣術陸式》【五行霧雪】
イロハに襲いかかる魔物を一振りで首を刎ねて行く。囲まれたイロハは回転しながら魔物を斬り刻んでいく。
「その程度の薬を、抑えられぬようでどうする!」
叱咤するようにイツキは妖術を放つために提唱する。
it's a sign of the end
Many stars form a line
disappear and regenerate
Together they form the earth.
Become that darkness and become the light that burns everything away
焉符【終極の灯火】
一瞬で数百匹の魔物を、イツキの黒い業火が燃えあげる。
「す、凄い………っ!」
「あれだけの魔物が一瞬で!?」
アルベルトたちや警備兵は、自分の目を疑う。
あれだけいた魔物達も、一つの妖術で全滅であった。
だが、どの魔物たちも死んではおらず、気を失っているだけである。
このテュレン公国の天才魔導士よりも遥かに上の位階の魔法を使っているにも拘らず、洗練された彼のコントロールによって、一体も魔物達が死んではいない所であった。
「ふぅ。」
数百匹の街に攻めてきた魔物たちに背を向けてイツキとイロハは、リカたちのいる街の門の方に戻っていく。
「あの程度じゃあ倒れないよね。哀しいけどもっと観察しなきゃね。どうしたら死んでくれるのかを。」