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テュレン公国へ

 「さて、お前が盗賊たちのボスということでいいな?」


 ボスらしき男はイツキの言葉が、耳に入っていないのかガクガク震えるだけだった。


「……黙ったないで、早く喋って死にたくないでしょ?」


 イロハがそっと首元に刀を置くと、慌てて頭領口を開いた。


 『はい! すみません、何でしょうか!』


 背筋をピンと伸ばして、直立不動でボスらしき男は声をあげる。


 「お前がこの盗賊団のボスということで間違いないか?」

「はい! 間違いありません!」

「まずは名前を聞いておこうか。」


 ボスの男の名前は【ギルス】、横に立っている男は、ギルスの片腕で【ラッケ】と言うらしい。


「ひとまずお前らは、テュレンのギルドに突き出すが、その前にお主たちのアジトに連れてってもらおうか。」


 その言葉に渋い顔を浮かべたギルスだが、背後にいるイロハが、小さく咳払いをすると慌てて頷いた。

盗賊たちにアジトを案内させるイツキたちだが、逃げられないように縄で縛ったりなどもせず、自分の足で自由に歩かせていた。だが、盗賊たちは逃げよう等とは一切考えなかった。

逃げようとすれば、あのイロハが、何のためらいもなく自分たちを殺すという事を理解しているからである。さらにはリカがどう玩具にしようかと考えているからだ。


今二人の盗賊たちが考えている事は、一つだった。

”早くアジトへ案内して、逮捕されて楽になりたい”である。

彼らにすればいつ殺されるか分からない。針の筵の上で歩かされているに等しい現状を考えれば、町のギルドの方が幸せと言えるという事だろう。


「それにしても、どうして彼らのアジトへら行くの?」


殺気を消してイロハが気になっていたことを口に出す。


「こいつらが全員か確かめるというのもあるが、他の盗賊団たちが、そのアジトを使う可能性がある以上、拠点を抑えていく事で役に立つかと思ってな。」


 イツキの言葉に感心したかのようにイロハが納得した。


「ナハトには遠回りさせてすまないな、もしアジトに他の者から奪った金品などがあれば、少しならば袖の下にしても良いぞ。」

「はっはっは、全然構いませんよ、今後盗賊に襲われて、身ぐるみを剥がされる事に比べれば、ここで捕縛してもらえるだけで、大助かりですから。」


テュレン小国までの護衛という依頼だったが、ここで盗賊を一網打尽にしてもらえたほうが、行商人のナハトにとっては、助かるというのが偽りのない本音であった。

そして橋から十五分程歩いた先に、縦に長い洞穴があった。


「ここが俺たちのアジトです。」

「ではお主たちはそこで、我々が出てくるまで正座して待て。」


 キィィィンという甲高い発動音と共に、イツキの目が紅く光る。


 「は……い、分かり……ました。」


二人の盗賊はイツキの言葉に素直に頷いて、そのあと正座になって、虚空を見つめている。


「では、入るとしよう。」

「はい。」


 イツキとイロハがそういって、洞穴に入っていくのを見ながら、リカとナハトがもう、何でもありだなぁという目で呆れてみていた。調子に乗っているリカにそんな顔されるとは思わなかった。

洞穴の中は薄暗く、灯りがないと何も見渡せなかった。


 「少し待て。」

 《灯符》【消えない燈火(エーテル・ライズ)


 瞬間、洞穴全域が光に包まれて、次の瞬間には外と同じ程の明るさになった。

先程まで真っ暗で見えなかった洞穴が、細部まで見渡せるほどの明るさになったのを見て、ナハトが顔を引きつかせる。


 「もう彼らのやることにいちいち驚いていたらきりがないよね〜。」


 リカはそういってナハトは深く考えないようにした。

というかいつも、はじけてるリカがおとなしいんだ?

洞穴の中はコウモリたちが騒ぎ立てるように外に向かって出ていった。

イツキたち侵入者に、本能的に危険を察知したのかもしれない。


「どうやらここがアジトの最奥らしいな。」


アジトの奥には盗賊たちがため込んでいたのか、多くの金品財宝が見える。壁には武器類が多く立てかけられており、近くのツボには銀貨や銅貨が山ほど詰まっていた。

そしてその周りには酒が大量に樽ごとおかれていた。

盗賊たちは、余程儲けていたようである。


「これだけあるとは思わなかったな……、盗賊たちが盗んだ物は、一般的にギルドに渡せばどういう扱いになるんだ?」

「全て没収となって、届け出たのが冒険者の場合、報奨金が一般的だな。」


 リカが丁寧に説明してくれた。


「ふむ、これだけの金品があれば、いろいろ食べられるな。」

「別に馬鹿正直に、ギルドに渡さなくてもいいんじゃね?ギルドも盗賊を捕まえてもらえれば、文句はないんだし。」


 リカはそういうが別にナハトはもらうつもりはなかった。


「何枚か持っていっていいぞ?」


 元々この依頼がなければ来ることも、盗賊たちを捕まえる事もなかったのだから、ナハトが欲しいと言えば、渡すつもりなのだった。


「ええ?! い、いえ悪いですよ、私はテュレンまで護衛をしてもらえるだけで満足です。」


そういってナハトは受け取らなかった。頭を下げられては、それ以上勧める意味はない。


「………そうか。ではこれはギルドにもっていこうと思うが、ナハトの荷馬車に積ませてもらってもいいか?」


リカの言葉にナハトは快く頷いてくれた。

イツキたちが盗賊たちの金品を荷馬車に詰め込むと、盗賊たちを戻す。


「ハッ……俺たちは一体……。」


意識を戻したギルスたちは、数秒程混乱していたが、やがてすべてを思い出したのか再び震え始めた。


 「テュレンのギルドに、突き出させてもらう。異論はない?」


 二人は何度も頭を上下に振って頷いた。


もし異論があるならば、この場で死んでもらうという意味が、含まれているのを察したのである。


 「では頼む、ナハト。」


 イロハの言葉に頷き、ナハトは荷馬車を動かした。

そしてそのあとは平和そのもので、他に盗賊も出ることなく、テュレン小国の町付近まで辿り着いた。


 コチラに気づいたテュレン小国の門番たちが駆け寄ってくる。


「失礼します、テュレン小国に入るのでしたら、こちらに名前の記入をお願い致します。」

「はい、あとここに来る途中で、盗賊達を捕縛したのですが、引き渡しをお願いしたいのです。」


 その言葉に門番たちが険しい顔に変わる。


「お待ちください、もしかしてそれは、アルヴとテュレンを結ぶ橋に、最近出没している盗賊団のことでしょうか?」


 門番の一人が狼狽える様に口を開く。


「はい、そうです。」


ナハトがそう答えると、二人いたテュレン小国の門番の一人が、慌てて町の中へ走り出した。


「す、少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか。」


 残った一人の門番がナハトたちにそう告げる。


「分かりました。」


 ナハトが後ろを振り返って、イツキたちに同意を求める。みんなはコクリと頷いた。

そして数分程経ってから、ギルドに向かった門番が戻ってきた。


 「お待たせ致しました、申し訳ありませんが、町に入られましたらまずは、捕縛した盗賊を連れて、ギルドの方へ向かって頂けますでしょうか。」

「分かりました。では町に入ってもよろしいですか?」


 ナハトが確認すると、テュレンの門番二人が同時に頷いた。


 「お待たせしました、ギルドの方には話を通してありますので、並ばずにそのまま、受付に申し出て頂いて結構です。」


 そういってテュレンの門番は道を開けた。ここのギルドは冒険者が多い為に、窓口に行くにも並ばなくてはいけない。だが、イツキたちはそのまま窓口に、フリーパスで優先されるらしい。


「それでは行くとしようか。」 


イツキの言葉を聞いたナハトは、頷いて荷馬車の手綱を引いたのだった。

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