ひと狩りしよう。
「さて、それでは一狩り行きましょうか」
「「い、いえーい……」」
ミルクをゲットした俺達は、子供達が走り回り、大人達が談笑する賑やかな主街区を出て、草原が広がるフィールドに出ていた。
レイムさんは、まるで国民的ゲームに誘うフレーズのようにおっしゃっているが、これから行うのはゲームではなく、ガチの意味での狩りなのでイマイチテンションが上がらない俺達である。
「ではまずは獲物を探しましょうか。
お二人共、魔武器の類は予め出しておいた方がよろしいかと。」
「あ、はい。」
レイムさんに促され、俺は骸福とリカにより造られた選択炎武の嵐の手袋を、フェルトは鞭の王快と調和のイヤリングをそれぞれ取出し装備する。
「あれ?レイムさんも魔武器を持ってたんですか?」
「はい、最も作ったのは最近ですが。」
そう言ってレイムさんは脇に隠してあった金色に輝く旗を持ち上げ俺達に見せる。
「この子の名前は時穿といいます。
能力は披露することがあればその時に。」
何か神主が使う旗にしてはやたらと物騒というか堅い感じの名前だな。
「失礼ながらお二人共、探知魔法はお得意ですか?
少し使っていただきたいのですが……」
「あ、それなら俺の方が得意です。少し天候を変えちゃいますけど。」
「構いません、近辺に存在する一番大きな反応の生物を探してください。」
「分かりました。」
《装填・雪》【天候雪弾】
マリアが骸福を空に構え弾を放つと、2層のフィールド全体に雪が舞い降り始めた。
これはイツキもたまに使う探知魔法だが、曰く普通の魔力探知よりも細かい空間の揺らぎでも見つけやすいんだとか。
まあ空間の揺らぎまでも見つけられるのはあの銀髪しか居ないんだがな。
「……あ、これかな?あっちにやたら大きい反応がいくつかある。」
「ありがとうございます。それでは行きましょう。」
マリアが声を上げるやレイムさんはマリアが指差す方へ歩きだした。
【【【ブルルル………】】】
「………」
それからマリアの道案内に従い数分歩くと、四足歩行でも俺の身長の二倍程もある黒い毛皮の牛が3頭角を突き合わせていた。
「あの……れ、レイムさん?」
「はい?」
「もしかして俺達物凄いバッドタイミングで来ちゃったんじゃ……」
だって角突きを邪魔されて3頭共凄い殺気だってるもの。
真っ赤な目で何故か俺だけ凄い睨み付けてるもの。
「……まあ大丈夫ですよ。
今のマリア様達なら死ぬ事はありませんので。……多分ですが。」
そこは断言して欲しかった。
てか何?たかが高校の文化祭でこんな食材界に居そうな牛の食材出すの?
何なのあいつ、バカなの?死ぬの?
【【【ブモォォォ!!!】】】
「てか俺が死ぬわああああ!!!」
何故かフェルトやレイムさんには目もくれず、三匹共俺に凄い勢いで突進してきたので全力で身体強化を使いダッシュで逃げ出した。
【【【ブルモォォォ!!!】】】
「何で俺ばっか狙われんだよチクショォォォ!!!」
何?俺こいつらに何かした!?
「彼らはよくイツキ様の玩具…もといストレス解消の遊び相手にされているので、見た目の近いマリア様に八つ当たりしてるみたいですね」
「え……ちなみにあの牛達、ランクにするとどのくらいなんですか?」
「そうですね……たしか一体でSSSランク上位くらいですから、三体だと0ランク上位くらいでしょうか」
「マリア!逃げて!超逃げて!!」
「……仕方ありませんね。」
《時穿》【縛り】
巨大牛から逃げ惑っていると、レイムさんがやれやれとため息をついて金色の旗を顔に寄せ、何やら囁きかけていた。
【【【ブモッ!?】】】
すると、牛達は急に金縛りにでもあったようにそれぞれの体勢で固まった。
「マリア様、ご無事ですか?」
「はっ!?へっ!?」
「あれっ!?レイムさん!?今までここに……え?」
そして、数十mは離れていた所に立っていたレイムさんがいつの間にか俺の目の前に立ち、何かを投げた体勢のまま顔だけこちらに向けていた。
「どうやらご無事のようですね。申し訳ありませんが少々お待ちください」
そう言ってレイムさんは左手に持っていた旗を突き刺し、身を翻し空中で動きを止めている牛達に近づいていく。
よく見ると牛達の眉間に一本ずつナイフが刺さっている。
どうやら牛達が急停止したのはレイムさんが何かしたらしい。
「……先に説明しておきますね。
この子、時穿の能力は「自分の存在を任意の時間に割り込ませる」という能力です。
先程はマリア様に牛達が飛び掛かる瞬間に割り込み、牛達に時魔法を付与したナイフを突き刺しました。」
何そのチート能力、強過ぎだろ。
あれだろ、要するにタイムスリップ出来るってことだろ?
「ただし、割り込める時間は決まっていてこの子が0時00分00秒を指してから次に0時00分00秒を指すまでの24時間だけです。
それに、代償として使用者の命を削ります。まあ、機械人間の私には関係ありませんが。」
いや、それでも十分過ぎる程強いだろ。
24時間以内なら未来にも割り込めるんだから。
「さて、では早くすることをしてしまいましょう。
彼らの命の時を止めたので、このままボックスに入れてお持ちになられますか?それとも少し解体しましょうか?」
「え……じゃあ解体お願いしていいですか?
流石にそれはデカいです。」
「かしこまりました。では……」
そう言うと、レイムさんは時穿を指先でなぞり上に放る。
すると、なんと旗は空中でナックルガード付きの金色の細剣へと姿を変え、レイムさんはそれをキャッチすると、一頭の牛に向けて数回ヒュンヒュンと振った。
ボトボトボトボト
「「」」
なんということでしょう、あれ程大きかった黒毛和(魔物ではあるが)牛が一瞬で部位ごとに綺麗なブロック肉に解体されてしまったではありませんか。
「ちょ、今何したんですか?」
「何って……この子の能力で30秒前に割り込んで素早く解体しただけですが……?」
成程、過去で解体すれば現在では解体されたことになると。
あと、世間一般ではそれは「だけ」とは言わない気がする。
まあともかく解体してくれたのは有難いので普通にボックスにいれるけどさ。
「さて、次に行きましょうか」
「「い、イエスマム」」
ことあとめちゃくちゃこき使われた。山へ行ったり、海へ行ったり、この世界は無茶苦茶だと改めて思った。
side out