VS学園長
「それじゃあネルちゃん!合図頼むよ♪」
『了解です!……それでは…エクストラマッチ……始め!!』
学園長が楽しげな笑みを浮かべて声を上げると、実況席のネル実況が試合の開始を宣言した。
「さてさて♪久しぶりに真面目に戦うことになるかな?」
反響していたネル実況の合図が次第にフェードアウトしているのを聞いていると、学園長は魔武器を召喚したのか何も現れず、黒縁眼鏡を投げ捨ててポッケに手を入れ、俺を見つめる。
「こい」【幻想】
《やっとよんでくれたのですか?》
俺はそれを見て錫杖を呼び出した。リカが調子に乗って、オプションギアへと改造させられた幻想は敬語馬鹿に生まれ変わった。
「今日の手入れは終わらせて来たんだろうな?」
《もちろんです。後は害虫駆除ですが、合鴨達を放っておいたので30分くらい放置しても問題無しです。》
ちなみにこいつは俺の世界【アルティス】の88層で穀物達の世話をしている。
「ならいい。今回の相手は学園長だ、あの魔武器?にどんな能力があるか分からんから、小手調べから入るぞ。」
《実験台ですか。相変わらず錫杖扱いが酷いですね。》
安心しろ、こんな扱いはお前以外にはしてないから。がリカに頼むの間違ったかな……
《それのどこに安心しろというのですか。》
「さて♪準備も整ったし、行くよ♪」
「上等」
そして、学園長が視界から消えて、俺の背後に跳んでいた。
「ほっと♪」
「シッ!」
そして互いの間合いに入った瞬間、学園長は拳を振り上げていたので、それを右下に構えた幻想で切り上げ防ぐ。
《空間圧縮》【白】
「っと」
そして互いが拮抗すると、学園長が拳に白い炎を纏わせたのでイロハの特技、短距離転移で10m程後ろに転移する。
「試合になんて危ないものを使うんですか……。」
学園長が振り下ろされた手が触れた地面を見て恨めしげに呟く。
白い炎を纏った拳は、地面触れた所を焼くではなく<溶かした>のだ。
「やり過ぎて後でネルさんに怒られても知りません、よ!」
「君がそれを言うのかい?」
幻想を構えてダッシュし、左腰から右上に切り上げると、いとも簡単に何もない空間に受け止められた。
《天音神楽》【辻風の舞】
《天音体術》【打ち付ける突風】
だが、受け止められるのは折り込み済み。
俺は受けとめられた瞬間に体を捻り、幻想を支点に回転、そして幻想の反りを利用して止めている拳わや流してすれ違いざまに学園長に神速の打撃を数回浴びせる。
「今のはちょっと危なかったよ。」
手応えあり、と振り向くと、黒いジャケットとその中に着こんだ白いシャツは破れがなく、無傷の学園長が平然とした様子で立っていた。
「殺すとまでは行かなくても戦闘不能くらいまでは持っていくつもりだったんですけどね。」
なのにダメージが無いとはいかなることか。
少し自信を無くしてしまいそうだ。
『また冗談を……』
いや、まあ確かにそれは冗談だけどさ。
でもまさかあれだけで済むとは思わないじゃん。
「それじゃあ、僕も攻めさせて貰うよ♪」
学園長はそう言って腰を落とし、人差し指を俺に向けて走りだす。
「ほら?さけなよ?」
《空間圧縮》【焔】
そして、学園長は若干気抜けする掛け声と共にそれに似つかわしくない紅の魔力が発射される。その軌跡が通った所にある物が次々と溶けていく。
《ちょっと熱いです。やめて…熱い熱い熱い!》
ー盾となれ幻想ー
【回転する無常】
俺は紅に輝く魔力を盾となり回転する幻想で防ぐ。
その度に幻想がリアクション芸人のような声を上げるが、そんなものは無視して学園長の猛攻撃を弾き続ける。
『こ、これは凄まじい!余りに激しい打撃の応酬に私には白と黒の軌跡しか視認出来ません!』
『まさか《無現》のフィフスと互角に戦うなんて……彼は、本当に何処まで強いんだろうね』
ラグナさん、何であなたが解説席に座ってるんですか?
『無現?』
『ああ、知らなかったのかい?
彼はギルド序列元一位、《無現》の二つ名持ちだよ。』
何それ初耳。
でも通りで実力ならこの世界ではかなりの水準に達しているマリア達に戦闘を教えられる筈だよ。マリア達はまだSSSランク下位程度の実力しか無いし、少なくとも正攻法ではSSSランクの一位には勝てまい。
SSSともなると同じランクでも実力にはかなりの差ができるし。
「はっ!」
「チッ、ふっ!」
「!!、おっと」
それから暫く錫杖と空間圧縮拳を激しく打ち付けあっていると、学園長が珍しく鋭い声を上げて垂直に振り下ろした俺の錫杖を上に跳ね上げたので、ヤバいと判断した俺は錫杖を手放し、無理矢理足に力を込めて学園長にチャージする。
手放した錫杖は跳ね上げられた衝撃で明後日の方向に飛んで行くが、ぶっちゃけ今は邪魔なのでそのまま放置で。
すると、まさか俺が武器を捨てて突進してくるとは予想していなかったのか。
学園長が追撃の為に袈裟懸けに振り下ろしたが弾かれる。
《空間圧縮》【緑】
数本の髪が緑色の魔力に刈り取られ宙を舞い、緑の炎に焼かれて埃すら残さずに燃え尽きたが。
それを横目にリーチの長い腕を使う学園長にとっては大きな死角になる懐にどうにか潜り込んだ俺は、学園長の腹部に右手を突き出し、触れると一瞬で魔力を練り上げ魔法を発動する。
「ぐぅっ!?」
すると、俺の右手と学園長の腹の間に超圧縮された妖力の塊が生成され、一気に膨張し、遅れて破裂する。
それにより発生した衝撃は学園長の体をくの字に曲げて吹き飛ばす。
「おっとっと」
そして俺も予想以上の衝撃に数歩たたらを踏む。
「衝撃かよ」みたいなツッコミは受けつけない
「ゲホッ!コホッ!……いやぁ、今のは久しぶりに効いたよイツキ君。」
「……そいつはどうも。」
吹き飛んで行った学園長は、30m程先に叩きつけられたが、すぐにハンドスプリングの要領で起き上がり数回咳き込んでいつもの笑顔を貼りつける
もう少しダメージを期待していた俺としては何とも不本意な結果である。
『な、何と!エクストラマッチが始まり10分間、互角の戦いを繰り広げてきた両者でしたが、ついに強烈な有効打が出ました!!
最初の一撃を繰り出したのはなんとイツキ選手
至近距離からの攻撃で学園長を大きく吹き飛ばしました!!』
『今の妖術は凄いね……妖力を練り始めてから放つまでに必ず生まれる筈の時間差が全くと言っていいほどなかったよ。相当の修錬を積んだんだね。』
そりゃ3億と1000年ちょっとひたすら実戦で鍛えてましたから。
「ふう……久しぶりにダメージを受けたかな。流石はイツキ君だね。」
そう言いつつも学園長は全くダメージを感じさせずにぽんぽんと服を払い、拳法のようき構える。
「ダメージがあるならせめてそう見せて貰えませんかね?」
「あいたたたた~~~♪」
「……もういいです。」
大袈裟に腹を押さえて笑顔でゴロゴロと舞台の上を転がる学園長を見て溜め息を吐く。
くそう、せっかく合法的に日頃のストレス(8割学園長、2割生徒会事務仕事による)を発散できる!とか考えてたんだがなぁ………
『どんだけ学園長にストレス感じてるのよ……。
てかストレスそれしか無いわけ?家でのとか』
そんなもの俺が感じるとでも?