決勝
「遅えぞ!!」
2Sにあてがわれたベンチに向かうとすぐにグレンに怒られた。解せぬ。
「悪い悪い、ちょっと色々あってな。それで、アップは十分出来たか?」
「ああ、初っぱなからトップギアで行けるぜ。」
「俺は最初からクライマックスだぜwwww」
他のメンバーに聞いても一様に問題ないとの返事が返って来たので、俺は一度頷き指を鳴らす。
「うおっ!?」
「流石イツキ。期待を裏切らない徹底ぶりwwww」
すると、メンバー全員の服装が指定の体操服から青ベースのユニフォームへと変化した。
まあぶっちゃけてしまえば稲妻日本代表のユニフォームだ。
「ちなみにそれは実際に変わってる訳じゃない。体操服に幻覚を重ねてるだけだ。」
「じゃああんまり激しく動いたら解けるんじゃねえの?」
「安心しろ、お前ら10人くらいならどんだけ動こうが綻び一つ出ないよ。それにしても随分な用意だな?」
俺はそう言って周りを見渡す。
「確かに…神級魔法を防ぐ結界にルーチェ。レナとコリーの保健医、グラウンド整備要員の教師10人……流石にやり過ぎじゃないか?」
まるで俺達がグラウンドを壊したり怪我人を出すこと前提の用意だな。
流石にここまでされると傷つくぞ……
『それだけの前科があるってことでしょ』
確かにそうだけどさ。ここまでされるとなんか気が抜ける。
「ま、思いきりやれるし俺としてはむしろラッキーだけどな。なんせ相手は会長だし。」
確かに観客とかに気を使わなくてもいいのは助かるな。ユナ達が怪我さえしなければ俺としては満足だ。
「ハ~イ♪それじゃあ試合始めるよ~♪」
丁度俺の腕時計が3時を指すと同時に相変わらず審判服の学園長のホイッスルが鳴った。
「いくらイツキくんが相手でも負けないからね?」
「もちろんだとも。俺もヒナさんが相手だろうが手加減はしませんよ?」
「望むところよ。」
号令に従い整列すると、やはり相手リーダーのヒナさんと互いに不敵な笑みを浮かべながら固く握手をする。
「よし、それじゃあ早速試合を始めようか!ルールに変更は特に無いから確認はいいよね。答えは聞いてない!
それじゃあこれで先攻と決めてね。」
そう言って学園長は一枚の金貨を取り出す。
「それじゃあハンデとして下級生のイツキくんから。裏表どっちだい?」
「表で。」
「了解、じゃあヒナちゃんは裏だね♪ほっと。アッシエンテ」
学園長は気の抜ける掛け声と共に真上にコインを投げて、落ちてきたコインを右手の甲で受け、素早く左手で隠す。
「……裏、3Sからキックオフだね♪それじゃあ体育大会、サッカー部門決勝戦………キックオフ!!」
そしてついに試合が始まった。
「ヒナ会長に叱られ隊!隊員No.25!「リカお姉ちゃん!頑張ってください!」!行きます!」
試合開始のホイッスルが鳴ると、最初のキックでボールを受け取った女子生徒がドリブルでリカの方へ走り込んできた。
いつものごとく名乗りはユナの声援にかき消されて聞こえなかったけど、その前はバッチリ聞こえてしまいどんな顔をすればいいか分からなくなった、
「えーと……とりあえずそれは本人公認ですか?」
「否!私達はあえてミスをすることにより会長のお叱りを受けることを目的とした隊!会長の公認等は必要ありません!!」
「…ああ、そうですか………」
「珍しくリカが反応に困ってやがる。」
「しかし今は勝負!いかに生徒会の雑用が相手であっても押し通らせていただきます!!」
凄まじい気迫とともに女子生徒が突っ込んで来ようと腰を沈ませたのを見て俺も身構える。
「あうっ!」
すると、女子生徒は何故か何もない所で転び、ボールはころころと俺の足下に転がってきた。
「こら!何で何もない所で転ぶのよ!!」
「す、すみません!!」
「……まあいいわ、怪我はしないように気をつけてね。」
「はい!!叱るだけでなく心配まで…ありがとうございます!」
「えっと……」
「リカ!変態は無視してパス!」
顔を赤らめながらMFのヒナさんに叱られている女子生徒を呆然と見ていると、不意にマリアの声が聞こえてきたので半分反射で声の方にパスを出す。
しまった、あまりに変な光景に呆気に取られていた。不覚……
「ユウヤ!小手調べに一発いくぞ!」
「あいよ。」
ボールを受け取ったマリアは、器用にヒナさんの近くを避けながらDFを躱しユウヤを呼び寄せる。
【真世界】
【竜を殺す者】
そしてリカと合流したマリアは空高く蹴りあげユウヤにボールを渡すようにと、そしてユウヤはリカの目の前にボールを蹴り上げ、はそれを渾身の蹴りで下に打ち下ろす。
「ぶるあぁぁぁぁエクスかリパンー!!」
そしてリカは落ちて来るボールをさりげなくパン魔法で纏わせた右足で蹴り抜く。
「ぎゃあああああ!?」
酵母菌を纏ったエクスかリパンはそのまま一直線にゴールへと突き進み、止めようと立ちはだかったキーパーごとゴールに突き刺さる。
「うし!とりあえず一本。キーパーはあのガチムチみたいに謎の耐久力は無さそうだから一先ず安心だな。」
「あれはとりあえず置いとけ。このチームは防御より攻撃特化タイプみたいだから防御をしっかりしようか。」
「了解だぜ!ガンガン攻めてやる!!」
「うん。頼んだぞ」
「は~い!」
「俺は!?」
「ちゃんと理解してから返事しろバカ。守りを固めるって言ったよな?」
「い、いえっさー!」
うんうん、聞き分けがいい奴は好感が持てるぞ
『魔法を突き付けておいていけしゃあしゃあと……』
だってグレンはこうやった方が理解が早いから。
「みんな!攻めるわよ!」
『『はい!』』
そして3Sからプレイが再開されると、3SのFW三人がそれぞれ散らばり一気にDF陣の所まで駆け上がって来た。
「繋いでいくわよ!!」
《チームタクティクス》【碧蛇の称号】
そう言ってヒナさんは走り込んできたフリーのFWに向けて鋭いパスを出す。
「No.25!No.462にパスだ!」
「了解!No.462!会長に繋いで!」
「応!会長!そのままシュートだ!!」
そして3Sメンバーはそれは見事な連携で一度も地面にボールを落とすこともなくオフサイドにならないギリギリのところに居るヒナ会長にボールを繋ぐ
ちょっとお互いの呼び方がおかしかったけど気にしたら負けだよな!
絶対に番号がデカすぎるだろとか突っ込まないからな……
「来なさい!ヒナタ!」
《憑装》
“血濡れの鬼姫”
【垂れ狂う狂気の桜】
内心でちょっとした余りにも下らない葛藤を繰り広げていると、ボールを受け取ったヒナさんが鬼人の【ヒナタ】を憑依して桜魔法を発動させた。
「はぁおおおおお!!!」
ヒナさんは鋭い気迫と共に、踵で連鎖的に爆発を引き起こし、凄まじい速度にまで加速した足の振りで一度はね上げたボールを中段で思い切り回し蹴りで蹴り飛ばす。
「おい…あれはまずいんじゃない?」
「来いイザナミ。」
《憑装》
【風神雷神鉄神】」
ヒナさんが蹴り飛ばしたボールは、相当な速度でDFたちを吹き飛ばしながら、ゴールを守るイツキまで飛んでいき、イツキはイザナミを憑依して両端を化身が守り、背後に鉄の化身が現れてそのボールを受けとめようとする。
だが、あまりの威力に化身が弾かれボールを受け止められずにイツキの腹に直撃して弾き飛ばされた。
「大丈夫か?怪我は?」
「大丈夫だ。」
ふむ、鬼人の力は伊達じゃないか。見せてもらおうかヒナさんの力を!
「うーむ……まさかここまで拮抗するとは……。」
白熱した前半が終了を迎え、ただ今5分間のハーフタイム中。
俺はベンチにてスコアボードを見て、そう呟いていた。
少し離れた所に鎮座しているスコアボードには、4という数字が離れて二つ並んでいる
つまり4対4と同点で前半終了を迎えたわけだが………
「ちょっとばかしこっちが不利かな?」
そう言って視線を移すと、そこには3人の死た「まだ生きてるから、かろうじて」失礼、三人分の脱け殻が転がっていた。
「まあそこまで期待してた訳じゃないけど、流石にこいつらには辛かったかな?相当消耗してるみたいだし」
もちろんへばっているのはDF陣のモブ達なのだが、三人共まるで燃え尽きたジ〇ーのように白くなっている。
まだ半分しか経っていないのだが、それなのにこの状況はいかがなものかと思うかもしれないが、彼らを情けないと誹ることも出来まい。
何故なら相手の1Sとは前述した通り超攻撃型のチームで、今までの試合を全て3桁で終わらせて来るような激しい攻撃を持ち味としているのだ。
そして彼らモブDF陣はその猛攻をしのぎにしのぎ、俺の奮闘もあったとはいえあのヒナさんに失点を4点にまで抑えたのだ。
寧ろ褒められるところだろう。
残り五分できめる。
「まあそうは言っても交代要員は居ないから引き続き出てもらうしか無いんだけどな。」
「そうだな……イロハ、キーパーに入ってくれるか。みんなは守りを固めてくれ。ここからは私が出る。」
「はい!」
「よし、これでDFに心配は無くなったな。
後は俺、マリア、リカの三人で攻めて攻めて攻めまくるだけだ。」
「了解。」
「あいあいwwww」
よし、それじゃあ後半ほどほどに頑張りますか!