魔法技能競技
先程4試合やったが、何故他クラスの試合もあるのにそんなに早く終わったのかと言うと、単純に俺達がやり過ぎたのだ。
一試合目は、あの謎耐久力のガチムチとの試合でスコアは19対0。
二試合目では、同学年のBクラスとの試合でスコアは42対0。
三試合目は、3年Fクラスとの試合でスコアは87対0。
4試合目では同じく3年のB クラス、相手にラクスが居たのだが容赦無く終わらせスコアは52対0。
最初以外はバスケかよと突っ込みたくなるスコアだが、これらは全ての試合で前半に取った点だ。
要するに、俺達が張り切り過ぎた所為で、本来サッカーに存在し得ないコールドゲームとなり、学園長が前半だけで終わらせたのだ。
どう考えてもやり過ぎだな。
やりすぎたのはリカだな。バスケでもないのにアンクルブレイクを何度もやっていたし、【どけ!頭が高いぞ。ひれ伏せ】とどこかの赤髪みたいなこと言っていたし、俺様系みたいな型のないシュートをしていたし、影が薄くなったりしてどこかの世代みたいだった。
反省はしている、だが後悔はしていない。
そして、そんな俺達の所為でサッカーはとてもサクサクと進み初日の午後にしてもう次の試合で決勝となってしまったのだ。
ちなみに相手はさっさと勝ち上がってきたヒナさんの所属する3年Sクラス。
こちらは一試合目が余りにも一方的で残る試合全て棄権されたんだとか(ちなみにコートは2面あり、ブロックも二ブロックあったので俺は見ていない)。
「で、決勝は3時からだっけ?」
「そうですね、今がちょうど12時ですから3時間は時間がありますけど…どうしますかイツキくん?」
隣に座っていたミキ(技能大会出場)に時間の確認を取ると、時間を教えてくれると同時に正座をしている膝をぽんぽんと叩く。
「そうだな…休むのもいい。だが少し技能大会の方も見てみたいと思う。」
「そう言えば今日の午前は予選だったっけ?
聞くまでもないけど結果は?」
「「「もちろん通過!」」」
そう言って技能大会に出場しているミキ、シェリカに訊ねると、三人は一度顔を見合わせて笑顔でそう言った。
「そっか、お疲れさん」
ぶっちゃけ心配は全くしていなかったが、やはりいざ結果を聞くとホッとするというか嬉しいわけで、気づいたらつい三人の頭を撫でていた。
「あ、私も通ったわよ。ユウ」
「はいはい、お疲れ。本戦も頑張れよ」
「私も通りましたよ!マリア!」
「そうか」
「そっかwwあの人外達が相手だけど頑張れwwww」
見ると、巻き込まれ組もそれぞれ嫁達とイチャイチャしていた。
結局、昼休みはそのままほのぼのとした空気で終わった。
「という訳でやって参りました闘技場です。」
「誰に言ってんだお前は。」
昼休みも終わり、競技が再開することになったのだが俺達はまだしばらく試合も無いので技能大会が行われている闘技場へとやってきた。
すれ違う人が全員こぞって二度見していくが、全く気にせずそれぞれの陣地に貼りついている。
「それじゃあ行ってくる。応援してて、イツキ。」
「ああ、頑張ってこい。」
と、ここで俺達と別れて競技の選手控え室に行かねばならないイロハとミキとシェリカに見送りついでに激励の言葉をかける。その後ろ姿をしっかりと見届けて移動した。
「あ!イツキさん!こっちですよ!!」
無事にミキを控え室の前まで連れていき、闘技場の二階に上がり観覧席で空席を探していると少し離れた所からイリヤの声が聞こえてきた。
声の方に顔を向けると、イリヤ達が最前列に座り、イリヤが立ち上がり俺に手を振っている。
の間には一つの空席があり、どうやらとっておいてくれたらしい。
「とっておいてくれたのか、ありがとな。」
「どういたしまして。」
そこまで移動し、礼を言いながら二人の間に腰掛けると笑顔で返してくれた。
「イツキさん、ミキさんは?」
「ちゃんと控え室に送ったよ。」
席に座ると、右隣のイリヤが訊ねてきたのでそう答える。
頭を撫でてオーバーヒートして、気を失ったミキをシェリカの誘導の下無事控え室に送り届けたのだが、流石に控え室の中にまで入るのは憚られたので部屋の前でシェリカに預けてきたのだ。
流石の俺にも女子しか居ない部屋に突入できる程の勇気は無い。
というか女子の更衣室とか控え室に突入出来るのはフレイとかグレンみたいな余程のバカかよく多作品に出てくるような勇者(屑)くらいだろう。
『まあ家でイロハちゃん達の下着を見て狼狽えるくらいのヘタレだしね。もう半年以上一緒に暮らしてるんだからいい加減慣れなさいよ。洗濯当番の度に交代させられる私の身にもなってよね。』
『う、うるさい!!お前が来る前まで毎回恥ずかし過ぎて辛かったんだぞ!!』
とにかく、精神衛生上よろしく無いので伊邪那美が来てからは洗濯の度に入れ替わってやってもらっている。
(ちなみに家事は基本的に当番制)
「あ、始まるみたいだな。」
内心でどこかの誰かに説明しながら伊邪那美と口論を繰り広げていると、じっと闘技場の舞台を見ていたマリアがそんな声を上げた。
つられて俺も舞台の方を見ると、丁度予選を勝ち抜き本戦に残った女子達が開け放たれた大きな扉から入場してくるところだった。
「へぇ……やけに観客に男が多いと思ったらそういうことか。」
その入場してきた26人の女子を見て5つ離れた席に座っているマリアがそう呟いた。
マリアの言葉の通り、スタジアムの様に舞台を円形に取り囲んでいる観客席は、ほぼ満席になっているが、その約7割は男性の観客だ。
先のマリアの様に舞台に整列している女子生徒達を見ると、その理由も簡単に窺い知ることができる。
「確かにこれは男を集めるわなwww」
「チアガール、ミニスカメイド、セーラー服……これだけ見るとコスプレショーだな。」
そう、選手の女子達は皆一様に様々なコスプレ衣装を身に纏っているのだ。
「ってイロハとミキまで……シェリカもか…。」
ふと思い立ち、整列してネル実況に一人一人紹介されている女子達から目的の三人を見つけると、俺はガクッと転けそうになってしまった。
三人の衣装は、イロハが黒い執事服、ミキが伊邪那美が俺と入れ替わる時によく来ている巫女服を、シェリカは大人っぽい黒いドレスをそれぞれ着ていた。
「三人共かなり似合ってるな。」
「そう?良かった、作った甲斐があったな~。」
「あれもリカが作ったのか?相変わらず器用だな……。」
三着とも普通に店に売りに出せるような出来なんだが……。
「それにしてもこれから競技をするってのにあんな動きにくい服装でいいのか?」
舞台上の女子生徒を見ていると、そんな当然の疑問が湧いてきた。
執事服のイロハはともかく巫女服とドレスのミキとシェリカはやりづらいのではないか?
全体的にもスカートの人が多いし、競技内容は知らないがまともに進行するのだろうか
その疑問をイリヤに聞いてみると、イリヤはクスクス笑いながら質問に答えてくれた。
「これは魔法の技能を競う大会ですから余り大きな動きは必要無いんですよ。
今年の競技は魔法射撃っていう素焼きの円盤を魔法で打ち落とす競技なんですけど、ルールの中で剣や鎚のような近接系統の魔武器による円盤の破壊は禁止されてるんです。
そんな大会なので毎年本戦はこんな感じでファッションショーみたいになるんですよ。
……と言っても私も見るの初めてなんですけどね。」
ああ、そういえば通例で属性貴族と王族は初、中等部のカリキュラムを家で履修して高等部から学園に入学するとか言ってたな。
となるとイリヤ達は人生初の学園祭になるのか。
「へぇ……クレー射撃みたいなもんか?そういえばこれって近接じゃなければ武器も使っていいのか?弓とか銃みたいな。」
「その系統の魔武器は使用できるみたいです。でも装填の手間がかかるので、普通は魔法を使うみたいですね。」
「なるほど……。」
イリヤの説明を聞いていると、ようやく選手達の紹介が終わったらしく選手達はこぞって入ってきた入り口に向かい、控え室に戻って行った。
『さあさあ!始まりました魔法技能大会本戦!!
いやぁ、先程の選手紹介で間近で見ましたけど皆さん綺麗な衣装でしたね。さて、それでは本戦での競技のルールから始めたいと思います!』
ネル実況のルール説明を纏めるとこうだ。
・合計100枚の円盤が不規則に打ち出されるので、選手はそれを有効エリア内(円盤だけが透過する直方体の結界が張られる)で打ち落とす。
・選手は規定立ち位置(白線)から前に動かない
・剣や鎚など、近接武器の直接攻撃目的の使用は禁止(ただし斬撃を飛ばす等の攻撃は可)
・百枚目の円盤が有効エリアを通過するか打ち落とされた時点で競技終了
・基本的に落とした円盤の枚数で成績を決めるが、パーフェクト等で成績が同一の生徒が出た場合、観客に魔法の発動速度、精度等を元に投票させて優劣をつける。
・準決勝からは一対一のトーナメントの直接対戦方式で行い、色違いの円盤がそれぞれ100枚ずつ、合計200枚が射出されるので自分が割り当てられた色の円盤だけを破壊する
・直接選手に攻撃するなどの妨害行為は禁止
・ちなみに相手の円盤を破壊した場合はその度に一点のマイナス
と、存外細々とルールが決められていた。
「言ってしまえばあれだな、速度射的だな。」
「そうだな、あいつらに秘策とか教えたりしてないよな?」
「いやいやvv。競技自体知らなかったし流石に無理だvv。まずはオプションギアすら渡していないしな。」
オプションギアを持ってるのはイロハたちだけだしな。まずあいつらは普通に魔法が使えるから必要無いし。
『それでは早速競技に入りましょう!
トップバッターはこの人!!我らが生徒会副会長兼風紀委員副委員長にしてら一部の男子から神のごとき崇拝を受けている女王様!チヅル・カミネ選手です!!』
『『『ブ、ブヒィィィィィ!!!!』』』
その言葉と同時に入り口からチヅル先輩が入場すると、一部の男子達が鼻息を荒くしながら歓声(悲鳴?)を上げた。
「チヅル先輩は振袖か。最早なんでもアリだな。」
そんな歓声をスルーして舞台の中央に立ち、周りに一礼をしているチヅル先輩に目を向けると、先輩は派手な赤い振袖を身にまとっていた。
【にいさま?なんで叫んでるの?】
ルーチェの膝の上に座っているアリスが聞いてきたことに答えている。…神罰を下してくれようか………
『『『ブヒィッ!?』』』
取り敢えずさっき叫んだ男共の頭上にオリハルコン製の金ダライを落としておいた。
『権能を無駄に使わないの。』
『だが断る。』
金ダライで済ませた分まだ良心的だろう。
権能が上がったことで制限も無くなったからあの程度でも俺が思うままの罰(基本的にチートでも絶対不可避(一部除く))を与えられるのに神雷を落とさないだけ感謝して欲しい。
『それでは競技に入りましょう!チヅル選手は競技の準備をして下さい!』
当然ながらそんな些細な幕間に関係なく競技は進む訳で、先輩が舞台上に引かれた白線の上に立つと、線から10m程離れた所の地面が隆起し、簡易的なステージが出来上がり、その上に薄い光の枠組みのみが辛うじて視認できる直方体が現れた。
「あれが有効エリアか?それなりに距離も離れてるし意外と難しそうだな。」
セットを見てあまり魔力のコントロールが得意でないマリアがそう呟く。
「チヅル先輩は魔力コントロールの精密さではイロハにも負けず劣らずだし、あれくらいの距離ならあって無いようなものだ。」
確かにこの間コリーと二人がかりとはいえ、細かいヒナさんの桜魔法を魔力弾で綺麗に打ち落としてた。な。コリーもさっき騎士服で整列してるのを見たし出るんだろう。面白くなりそうだ。
『準備はよろしいですか?それでは、競技スタート!!』
ネル実況がそう言った瞬間、ステージの袖から一枚の円盤が飛び出した。