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学園祭

「学園祭?去年はなかったですか?」

「そうよ、今月の中旬に一週間丸々使って学園祭をするの。去年はいろいろあったからね。どうしても学園長がやりたいらしく急遽決まったのよ。」


修行から終えて、長かった夏も終わりを迎えた頃、俺はいつも通り業務と生徒会の仕事に精を出していた。


「それにしても一週間って長くないですか?」


生徒会長の机に座り、書類に目を通している人物に声を掛ける。


「うん、まあ、あのお祭り好きな学園長の考えることだから。日程的には最初の二日間が体育大会、次の3日間が文化祭っていうことになってるわ。

民間の人達も来るから結構大きなお祭りよ。」

「それはまた…確かに学園長らしい。あの人が一番はしゃぐんじゃないですか?」


時々言い直しながら飄々とした学園長の顔を思い浮かべ、溜息を吐く。


「フフッ、そうね。」

「どこまで話したかしら……ああ、そうそう。そういう行事があるとしか言ってなかったわね。それで、簡単に各日程について説明すると、体育大会の方はマジックバスケット、スーパーディメンジョンサッカー、ハイベースボールの三種目を各クラスの男子がプレイして勝ちクラスを決めるわ」


スーパーディメンジョンサッカー

超次元サッカーですね、分かります。


「あれ?そうなると女子はどうなるんですか?」


聞いた限り、今の三種目は男子用の競技で女子が参加する種目が無いように思えるが。


「女子は少し特別で、参加したければ男子の種目に参加してもいいし、もしくは別口で開催される魔法技能大会に出るのよ。」

「魔法技能大会?」


俺が首をかしげると、ヒナさんは少し笑って言葉を続けた。


「魔法技能大会っていうのはその言葉の通り魔法の技能を競う大会よ。主に移動する的を魔法だけで落とす的当てと、柱や岩を壊して相手の陣地を占拠する魔戦っていう種目があるわ。」


何か面白そうな行事だな。

ちょっと九◯戦みたいな感じか?


「それで、ヒナさんはどれに出るんです?」

「私はそうだなぁ……去年まではSクラスで体育大会の方に出てたけど……今年はどうなるのかしら?

特設クラスになったし、新しいクラスで出るのか…それとも前のクラスで出るのか……イツキくん何か学園長から聞いてない?」


そう言って此方を向いて首を傾げるヒナさんである。


「いや、私は何も聞いてないですよ。だいたい学園祭の存在自体をさっき初めて知ったくらいですし。」

「そっか……考えてみたらそれもそうよね。」


苦笑しながら俺が言うと、ヒナさんはひょいと肩を竦めて苦笑いを浮かべた。てか何で毎回毎回、俺に何の連絡も寄越さないんだ学園長。

俺一応イロハの特設(SS)クラスの使い魔だよね?


「あ、そうだ。チヅル、あなたは何か聞いてない?」


と、ここでヒナさんは隣にある資料室に向けて声をかける。


「はい、何かご用ですか会長?」


すると、資料室から友達のチヅルさんが顔を出した。


「いや、体育大会でクラスのメンバーはどうするのか聞いてない?」

「ああ、その事ですか。聞いてますよ。確か学園祭期間中だけ他クラスから転籍したメンバーは、一時的に転籍前のクラスに戻って、特設クラスから入学したメンバーは2SSクラスに臨時転籍するとのことです。」


ヒナが訊ねると、チヅルさんは至極しれっとして答えてくれた。特設クラスっていうのが特に優秀な生徒のためのクラス。コウガや顔見知りの皆や成績優秀者、技術に特化した生徒が集まっている。それにイツキは特設クラスには行っていない。ギルドの依頼と生徒会の業務しかしていないため、どんな状況に成っているか分かっていなかった。


「チヅルさん…それ、誰から聞きました?」

「?…学園長からですが?あ、もしかして聞いてなかったんですか?」


俺達はチヅルさんの言葉にこくこくと頷く。

あの野郎……確実にわざと俺に伝えなかったな。

どうせ面白いからとかそんな愉快犯的な理由だろうなぁ……


「はぁ…まあいいか……」


学園長の俺を困らせる行動なんかは既にお馴染みのものなので、今更と折り合いをつけて小さな溜息と共に吐き出す。

まだ短い期間しか生徒会業はこなしていないが、ここまでで既にクロト教諭その他学園の教職員が、今まで感じたであろう心労は容易に想像がつく。

たまの暇な時に出席するSクラスの授業で教鞭を執っている数学教師の目も当てられない惨状も(何が、とは言及しないが)、原因の4割程は奔放な学園長の所為と言えるのではないだろうか。

事実、職員室で実習の授業計画を立てていると、その数学教師が茶やコーヒーを淹れてくれたり、菓子をくれたりなどやけに優しくなった気がする。

その態度だけで彼が受けた心労は推して知るべしだろう。

……今度家で栽培した米で試作した日本酒でもプレゼントしよう。

丁度作ったはいいが俺はどうもアルコール飲料が苦手なので処理に困っていたところだ(ちなみに味の方はレットを唸らせる程なので保証できる)

どうやら神スペックであっても、アルコール等に対する耐性は変化しないらしく、王城に滞在していた時に一舐めしただけで顔をしかめてしまったのはもう懐かしい記憶だ

あ、ちなみに料理に使う酒などは別に平気だぞ。

アルコールが飛んでいさえすれば風味などは嫌いではない。


「魔法技能大会のことはいいとして……文化祭の方はどんな感じなんですか?」


一度はこの学園の文化祭を経験しているであろう学園生活における三人の先達に訊ねる。


「そうだね……大体のクラスは喫茶店やらお化け屋敷やら色々な店を出店したり、クラスで作った作品やらを展示したりするね。」

「なるほど。」


チヅル先輩が言うには、よくあるテンプレ通りの文化祭らしい。


「でもそんな感じだと喫茶店とか同じような店が乱立しませんか?その辺りは調節するんです?」


例えば飲食店のような出し物が乱立してしまったら利益等が分散してよろしく無いのでは?


「いや、基本的に学園祭には教師や生徒会は介入しないよ。公序良俗を逸脱しなければやりたい出し物をやっていいという校風のように比較的自由なスタンスだ。それに、喫茶店なんかは乱立することはまず無いよ。

まずこの学園に通っている生徒で、君の一家のように客に出せるような料理ができる人は少ないし、どうしても飲食店の類は忙しくなるからね。

むしろ敬遠されることの方が多いんだ。」


なるほど、確かに寮と学園内の二ヶ所にかなり大きい食堂を備え付けてるし、余程の物好きくらいしか料理なんかしないんだろう。

学食はかなり安い上に美味いらしいし、自分で食材を買って……等の手間をかけるよりは楽だしな。


「やはり若者の心理として、わざわざ忙しくなると分かりきっている飲食店を選んで忙殺されるくらいなら適当に簡単なもので済ませて、遊びたいと考える者の方が多いのさ。」

「確かにそれもそうですね。」


短い学生生活、こういう時こそ遊びたいと考えるのはごく自然なことだろう。

特に男子などはわざわざ大変な思いをしてまで思い出など作らなくてもいいと考える人の方が多いだろうし。


「それでも飲食店がまるっきり出ないというわけでもありませんよ。

初、中、高等部合わせてですが、毎年2、3は飲食店も出ますし。」

「そうなんですか?」


チヅル先輩の言葉を引き継いで言うコリーの言葉に聞き返す。

てか初等部で飲食店って色々と大丈夫なんだろうか。


「もちろん初等部はクッキーや紅茶など本当に簡単な物しか出せませんけど、中、高等部で飲食店を出店するようなクラスはプロの料理人顔負けの料理を出すような所もありますよ。もちろん酒精類は出せませんけど、それでも毎年かなりの利益を出しているようです。」


なるほど、自由な割りにその辺りはきちんとしているらしい。

あの学園長なら酒の類いも平気で出させそうだが、やはりそれはマズいと流石に他の先生方が止めているのだろう。

トラブルの元になるものは出来るだけ排除したほうがいいだろうしな。

話を締め括ろうとするヒナさんの言葉を遮り、チヅル先輩がニヤニヤしながらそう言うとヒナは声にならない悲鳴を上げた。


「いやな、イツキ君。3日間同じ出し物ばかりだと流石に最終日は人の入りが少なくなるんだよ。」

「まあそうでしょうね。」


何故か暴れだしたヒナさんをチヅルさんとコリーが押さえつけ、先輩はそれを一度ちらりと一瞥してから話を続けた。


「それで、最終日にそれではいまいち盛り上がりにかけるので昨年から学園長が文化祭の3日目にとあるプログラムを追加したのだ。」


ここから先は観たほうが早いだろう、と。チヅル先輩は隣接した資料室から何やら一枚の円盤を持ってきて、生徒会室の魔映機(記録盤に記録した映像を映し出すテレビ)にセットした。


「では、再生開始!」


そして、先輩は魔映機に取り付けられている魔力供給のための水晶に触れ魔力を流す。


「音楽祭?」


プツッという音と共に画面に一瞬ノイズが走ると<第一回アルカディア学園音楽祭>という文字が画面の中央に現れた。


「そう、コレが学園長が追加したプログラム、音楽祭だ。

有志を募って所謂ライブのようにしたものだが一昨年はなかなか好評だったぞ。」


先輩はそう言うと画面に目を向けたので、俺もそれに倣う。

後ろでは相変わらず今月はニコニコと、チヅルさんはニヤニヤと笑いながらヒナさんを取り押さえていた。

ヒナさんは時々桜魔法で魔映機を破壊しようと挑戦するが、チヅルさんとコリーに何千枚という花弁を全て一枚一枚打ち落とされている。

この二人何気に凄いな。


「お、そろそろだぞ。よく観てろよイツキくん」


すると、先輩が声をかけてきたので画面を注視する

今まで綺麗な歌声を披露していた女子生徒が一礼して退場し………。


『次は、我らが生徒会長のヒナ・ティタールさんです!!』

「ボフッ!?」


次の瞬間画面に出て来たのは俺もよく知る、というか現在進行形で押さえ付けられているヒナ会長だった。


『皆さんこんにちは!早速ですが聞いてください』<ADAMAS >


♪~♪~~♪


そして、画面の中のヒナさんは音楽とともに歌いはじめた。


「もういやイツキくんのばか……」

「あはは……」


魔映機が映像の再生を終えてまたもやプツッという音を立てて消えると、最後まで二人に押さえつけられていたヒナさんが顔から蒸気を上げて机に突っ伏した。

俺は乾いた笑いを浮かべ、ヒナさんの頭を出来るだけ優しくチヅル先輩が撫でる。


「で、どうだったねイツキ君。ヒナの晴舞台は?」


そんなことをしていると、チヅル先輩が意地の悪い笑みを浮かべて訊ねてきた。


「良かったですよ。とても上手でした。」


俺がそう言うと、大人しくチヅル先輩に撫でられていた頭がピクリと震える。

結局あの映像ではヒナさんは3曲の歌を歌っていた。

しかも、驚いたことに三曲とも俺が知っている曲だったのだ。


一曲目はADAM◯S

二曲目は決〇

三曲目はP〇wer of flower


これら全てヒナさんがそっくりのツンデレ生徒会長の2つのキャラソンである。

ちなみにヒナさんの声もまごうことなく◯藤さんvoiceなので違和感は全く無い。


「そういえばあの三曲ってヒナさんが作ったのですか?」


とりあえず曲の出所が気になったので未だに大人しくチヅル先輩に撫でられているヒナさんに聞いてみる。


「イツキくんのば~か……」

「………」ピッ


むう…弱ったな、ヒナさんがへそを曲げてまともに取り合ってくれないぞ。

これは……売れる。編集してラルド先輩に!


『今あなた何か録音したわよね?』

ハハッ、伊邪那美は何を言っているのやら。


「……あの三曲は前の私の寮部屋に落ちてた楽譜集から三曲を抜き出したものよ。

本当は私は出るつもりは無かったのに、チヅルとコリーが勝手にエントリーしたの、それでどうしようか焦ってたら帰った時に寮の床に沢山の歌の楽譜が落ちてたのよ。」


どうやらご機嫌パラメータがストップ安状態から脱してくれたようで、ヒナさんはら突っ伏していた顔を上げてチヅル先輩を半目で睨みながらそう言う。

落ちてたって……確実に誰かがやったよなそれ。

………


《ゼウス~》

《ん?念話なんて珍しいねイツキ君、何か用?》

《いや、一年位前に何かの楽譜とか無くしてないか?》

《え?……確かにピンク生徒会長のキャラソンから起こした楽譜を無くしたけど…何でそれを知ってるんだい?》


…………………や っ ぱ り お 前 か


《いやなに。ちょっとそんな気がしただけだ。

仕事中悪かったな》

《え?仕事?……あ、ああ!うん!それじゃあね!!》

『サボってたわね。』


確実にサボってたなあいつ。今度フェルト姫のミカエルにでも伝えておこう。


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