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契約

「……さて、いきなり勝負を挑んできた理由を聞かせて貰ってもいいか?聞いたところによると自分の主になってくれる人を探してるとのことだが。」


それから神社の敷地内にかけた非生物の分子運動の凍結を解除し、俺達が寝泊りしている本宅の応接間で起きてきたミキが淹れてくれたお茶を啜りながら、野武士とビータの姿になった二頭のドラゴンに聞く。


「ああ、確かに俺達は自分を使い魔にできる人間を探してたんだよ。道場破りみてえに勝負を挑んだのはその人間を見つける為でよ、なかなか見つからなかったんだこれが!」

「ふーん……あ、ミキ、眠いならもう少し寝ててもいいぞ、ほら。」

「…ぁぅ……」


隣に座っていたミキが眠たそうに舟を漕いでいたので、ミキを座っていたソファに横にさせて俺の膝の上に頭を乗せてやる。

すると、ミキは俺の着ている服の裾を軽く握ってからスヤスヤと寝息を立て始めた。


『可愛いわぁ……代わって?』


後でならいい。今こっちだ。


「それで、まず何で竜神と悪竜なんて高位の存在が、使い魔になろうなんて考えたんだ?」


ミキの体に薄手の毛布を掛け、ゆっくりと綺麗な黒髪を梳くように優しく頭を撫でながら目の前に座っている二人に問い掛ける。

ふにゃっと笑顔になるミキが可愛過ぎて辛い。


「…何なんだこの会話と行動のミスマッチ感。」

「諦めてくれ、こいつはいっつもこうだから。」


呟くビータ改めてジダル(本名はアジ・ダハーカらしい)に壁に背を預けて立っているコウガが、呆れを多分に含んでいることがわかる声音で返す。

ええ、自重する気はサラサラありませんが何か?


「で、使い魔になろうと思った理由だったっけ?」

「ああ。」


ミキの艶やかな髪を撫でながらジダルの確認に頷く。


「前にさ、現竜王が人間に召喚されて使い魔になったってことがあったんだ。」


うん、それ知ってる。てか思いっきり知り合いだよ。


「それを聞いたらそこのバカがいきなり「俺も使い魔になる!」とか言い出したんだよ。


それで「こいつだけじゃ不安だから一緒に付き合ってやって欲しい」ってことで一人で旅をしてた俺に竜の里から遣いが来て。昔からこいつとは結構仲良かったからそれを引き受けたんだよ。」

「なるほど、苦労してるんだな。」

「全くだよ。ま、この旅もようやく終わりそうだけど。」


ジダルがそう言うと、竜神であるレットがこちらを見てきた。


「ってことでよ、俺とこいつの二人に勝てる奴を主にしようって決めてたんだよ。そんで、見事にあんたはそれをあっさりクリアしたってことだ。」


「……それで?」

「俺達と契約してくれ!!って危な!?」

「声がデカい。ミキが起きるだろ。」


腰をほぼ直角に曲げて大声でレットが頼んできたので、ミキの耳を塞ぎ、鋭利に尖らせた影をレットに突き付けた。


「……まあ、契約云々はお前らがそれでいいなら別に構わんがこいつらにしてもらおうか。」


そういってコウガとユウヤを差し出した。


「お、おう。そんじゃ早速契約を……」

「む?大妖神様、来客ですか?」


契約をしようとレットが詠唱を始めようとしたところで、応接間にアルトボイスが響いた。


「ああ、クウリか。おはよう。」

「はい、おはようございま…す……」


部屋の入り口の方を見ると、そこにはグレンの使い魔のクウリが立っていた。


「どうした?」


クウリがいきなり固まってしまったので、問い掛けるとジダルの方を見ながら口をぱくぱくと動かしていた。お茶が口から漏れてるぞ。


「げ……」


そしてジダルもジダルで苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「お…お兄ちゃん…?」

「クウリ…。」


………は?


「お~!風竜王の嬢ちゃんじゃねえか!!」


固まっているクレアにレットがフランクに話し掛ける。


「はっ!?なっ!?竜神様!?」


すると、クウリはレットの存在に気付き、盛大に慌て始めた。


「…ジダル、「お兄ちゃん」ってどういうことだ?」

「……言葉の通りだよ。クウリは俺の妹だ。」


なんと。

確かにドラゴンの姿は二人とも漆黒の鱗に甲殻を持っているが、まさか兄妹とは。


「……成る程、そういう訳でしたか。確かに竜神様とおに…兄上と契約するのユウヤ様と勇者様が適任でしょうね。勇者様は全属性神王たち、ユウヤ様は海王神と契約しておられますし。しかし勇者様なら有象無象と契約するよりはずっとよろしいかと。」


クレアに二人の事情を説明すると、クレアは納得したように頷いてみせた。


「それにしてもおに…兄上?私に竜王の座を押しつけて何をしていたかと思えば一人で放浪の旅などと………」


何度か頷き、チラリとクウリは気まずそうに目を逸らしながら茶を飲んでいるジダルに視線を向けると、冷たく問いただし始めた。


「い、いや!別に押しつけた訳ではなくてだな……そ、そう!嫌われ者の悪竜が竜王なんてガラじゃないだろ!?それにほら!お前は里のみんなにも好かれてたし適任だったじゃ「お兄ちゃん!!」は、はい!!」


すると、ジダルが慌てながら言い訳をしようとするが、言葉の途中でクレアが鋭く一喝するとピシッ!と姿勢を正した。


「おに…コホン……兄上、竜王の器の第一条件はご存知ですよね?」

「は、はいもちろん!竜王候補で一斉に戦い、最後まで残っていたドラゴンが竜王となります!」

「今代の竜王候補は70程居ましたが、私もお兄ちゃんもその中に入っていました。」

「イ、イエス。」

「その戦いで、兄上は他の48頭を1人で5分と経たない内に軒並み薙ぎ倒しました。」

「そ、そうだったかな?……はい、やりました。認めるのでそんな人を殺せそうな視線で見ないで下さいお願いします。」

「……それで私と兄上が残り、いざ戦おうというときに兄上は「じゃ、後任せた」と言って里から飛び出していきました。これを押しつけたと言わず何と言いますか?」

「いや…その……えっと……」

「恐妹家というのは中々耳に新しいな。」

「まあまあ、嬢ちゃん。そいつも一応引け目は感じてたし、淋しかったのは分かるけどその辺にしといてやってくんねえか?」

「さ、淋しくなんかありません!」

『……イツキ、そろそろ止めてあげたら?あと何羨ましいことしてんのよ。私にもやらせなさい』

「……そうだな、ミキを無理に起こしたくないし止めてやるか。あと本当にミキ大好きだよなお前。まあ可愛いし当然か。」


口論を続ける三人を見た伊邪那美が呆れ声を漏らして頼んできたので、ミキの柔らかい頬をつついて遊ぶのを止めて一度息を吐く。

ミキがくすぐったそうに顔を綻ばせながら身を捩る姿にグッとくる俺はもう病気だろうか?


「クウリ…そろそろグレンを起こしに行ってやれ。グレンも可愛い彼女に起こしてもらった方が嬉しいだろ。」

「ま、まだグレンとはそんな関係じゃ……////ま、まあそういうことなら仕方ありません、行ってきます。か、勘違いしないでくださいね!?グレンの為なんかじゃないんですから!!」

「はいはい、ツンデレツンデレ。色々とツッコミたいけど今は早く行ってやれ。」


軽い足取りで部屋を出ていくクレアを見送り、ジダルとレットに向き直る。


「さて、思わぬハプニングがあったけどさっさと契約してしまおう。そろそろ修行の時間だ。」

「あ、ああ。悪いな妹の所為で時間を取らせて。……それにしてもあいつにも良い相手が見つかったみたいで良かった、幸せそうだったよ」


「まあ。おめえは何百年もフラフラしてやがったしなぁ。そりゃ嬢ちゃんも成長するさ。

んじゃ、サクッと契約頼まぁ。俺達も竜の里に帰らねえといけねえんだわ。里の奴らに仕事押しつけて来ちまったし、そろそろ不安になってきたぜ……」


その後、コウガにはジダル、ユウヤにはレットと魂の契約を交わし、二人はドラゴンに戻って飛んで行った。

更にその後、余りに伊邪那美がうるさかったので交代したら、伊邪那美がミキを膝枕したり頬をつついたりしていたのは余談だ。


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