能力強化
【ゲホッ!ゴホッ!……なんだってんだいきなり……】
「ったく、まだまだ修業が足りないな。あの程度避けられなくてどうする?」
「ふーふー。るっ…せえな……てめぇみた…いな人…外と…一緒に……すんな……こちとら……修行を……終えて……休んでたばっかなのによ。」
荒い呼吸を繰り返しているユウヤに回復魔法をかけてやると、絶え絶えにそう言ってきた。そしてコウガがユウヤを境内の端へ運び座らせる。
「全く…あの程度の速度ならユナでも普通に避けるぞ?」
うちの家族で少ない純人間のユナとアリスもあれ位普通に出せる速度なのに、いい大人がこの体たらくとは情けない。
【もしかして昨日ドンパチやってたのおめえかよ!?だましやがったな!?】
「レット、騙される方が悪いって言葉知ってるか?」
「……先ずは境内の修理だな。」
伊邪那美がちょっと落ち込んでるし、まずは直して機嫌をとらねば。
パチンッ
【なっ!直った!?】
俺が一度指を鳴らすと、時間が巻き戻るように境内の瓦礫が修復されていく。
「ああ、これ返すぞ。」
そう言って壁際に立っているドラゴンに向けて刀を投げ返す。……刃先をドラゴンに向けて
【危なっ!?】
ドラゴンは飛んできた刀を横に退いて躱す。
普通は、躱された刀は壁に突き刺さるはずだが、刀が激突した壁には傷一つ付かなかった。
「やれやれ、封印した状態で秩序を弄るのは辛いんだ……さっさと済ますぞ。」
その理由は簡単、俺が刀が壁に突き刺さるという秩序を否定したからだ。封印状態で秩序を弄ると、疲労感が半端ないので出来れば使いたくはないんだがな。
「後は……流石にこれ以上神社を壊すのは忍びないしな……。」
主に俺の中にいる伊邪那美にということで、俺は一度踵で地面を鳴らす。
すると、一瞬で辺りに微かな冷気が漂い始めた。
「敷地内の建築物を構成している分子の運動を完全凍結完了っと…さぁお前の罪を数えろ!」
コウガの仙術。《凍の境地》【空絶凍結】とルーの剣の能力で敷地の建物の壁や、石畳を構成している分子の運動を凍結させて固定し、状態変化が起こらないようにする。こうする事により、いくら暴れても傷一つ付けることはおろか、落ちている石ころすら一ナノメートルたりとも動かす事は出来なくなる。
「さて、待たせたな。騙した詫びに好きなだけ相手してやるよ。どっからでもかかってきな。」
【そういうことなら遠慮無くいかせて貰うぜ!!】
手招きすると、ドラゴンは落ちていた刀を拾い突進してくる。
【オラァ!!】
俺の目の前に到達したドラゴンは、10メートルは下らないだろう長さの刀を袈裟懸けに振るう。
「なるほど。予想以上のパワーだな。まあ、俺を倒すにはまだまだ弱いけど。」
俺は振り下ろされる刀を左手の人差し指と中指で掴む。
【はぁっ!?】
《幻符》【不可視の一撃】
【ガハッ!!】
棒立ちで立ったままそう呟くと、ドラゴンの顎に視認出来ない純粋な妖力の塊が襲い掛かる。
「……そこで見学してる奴もかかってきたらどうだ?」
「……そうだな、そうさせて貰うよ】
端っこでじっと傍観しているビータに問いかけると、人の姿から二本の剣を持った漆黒のドラゴンへと変化した。
「…まあ予想はしてたけど………」
「やっぱ大〇ドラゴンなんだな。」
その姿は、色こそ黒いものの武〇ドラゴンの相棒、〇和ドラゴンそのものだった。
【手伝うぜ、レット】
【おお、悪いな。頼むぜジダル】
黒いドラゴンは、100メートル以上離れているにも関わらず、一瞬で赤いドラゴンの隣に移動した。
「スピードアタッカーは伊達じゃないってか?」
『ビータ君もスピードタイプだしね』
【行くぜ、レット】
【おうよ!!】
そう短く会話を交わすと黒い方が二刀を構えて走りだす。
「速っ…!」
「あれでも、イツキには届かないな。」
それを後ろで見ていた2人はそう声を漏らす。確かに封印状態の私にすら少しブレて見えるくらいだ。スピードタイプのジダルが撹乱し、レットが攻撃を与える。動体視力が良いい勇者に見えたとはいえ、普通の巻き込まれた人間であるユウヤからしたら、消えたように見えたことだろう。
【セァァァァ!!】
高速であらゆる方向から振られる大剣を妖刀【夜叉姫】で弾いていく。
【どりゃああああ!!!】
黒い方の剣撃を弾いていると、後ろから大音量の咆哮が聞こえてきた。
ドォン!!
咄嗟に上空に跳ぶと、俺が居たところに赤い炎を纏った刀が振り下ろされ、地面が爆発した。
【い、いってぇぇぇぇ!!何で地面が堅くなってんだよ!】
【さっきあいつが何か細工したんだろ!てかせっかく後ろから攻撃出来たのに何で声出すんだよ!死ね!!】
地面が堅くなっていて剣を叩きつけた衝撃がモロに手に返り、転がり回る赤いドラゴンに黒いドラゴンが容赦無く罵声を浴びせる。
『シュールな光景ね……』
確かに
【打ち落としてやらぁ!!】
赤いドラゴンが上空からの落下を始めた俺に向けて跳躍し、刀を振ってくる。
「当たらなければどうということは無い!」
ピィィィィ!!
刀が振り下ろされる瞬間、俺が指を咥え指笛を鳴らすと、壁の外側から大きな体躯を持つ鷹が二匹飛んできて俺の肩を掴むと空高く舞い上がった。
【朝早く悪いな】
【寝起きの運動と思えばどうってことは無いですよ】
【貴方様にお仕えするのは私達獣の至上の悦びにございます故】
【ありがとう】
【【恐悦至極!!】】
二羽の鷹達は俺を地面に降ろすと肩から飛び立って行った。
『アリスちゃんの能力ね?』
「ああ、初めて使ってみたけどアリスの能力も支配能力が格段に上がってるな。」
妖獣狐アリスの能力は魔物操作
低位の魔物を操る能力。使い勝手が良く隠密や偵察向きの魔物を送り込むことができる。
「イツキ危ねえぞ!」
「気づいて無い訳がないだろう。」
《現返》【俺はここには立っておらず、ここに攻撃したら味方と刀がぶつかり刀が破壊される】
【はぁ?何っ!?】
俺が呟いた瞬間、背後から二本の太刀が振り下ろされたが、俺の姿は既に消えており、レットがジダルの二刀はそこに叩きつけられると同時に、粉々に砕け散った。
「一度に改変できる現実の数も増えたな。やっぱ使い魔達の能力も全体的に強化されてるか。」
『ああ、やたらと能力を使ってるなと思ったら試してたのね。』
一応のつもりだったけど確かめておいて良かったな。俺特有の能力だけじゃなくてこっちの能力にまで影響が出るとは思わなかったよ
【野郎!どこ行きやがった!?】
「ここだよ。」
《天音流体術》【晒鉽】
【へぶっ!!】
赤ドラゴンが消えた俺を探すように辺りを見渡したので、お望み通り赤ドラゴンの頭上に姿を現して山の炎を灯した踵落としを叩き込む。
【痛てて……何なんだアイツ、俺ら二人でかかって一撃も入れられないとか強過ぎだろ。】
【何か特殊な能力も使うしな。最初に使った能力から微かに神力を感じたから、多分何かの神格を持ってると思った方がいいな。】
神力を感じられる?もしかしてかなり高位のドラゴンなのか?
【俺の剣も折られたし、どうすんだよレット。】
【……しゃあねえな、ブレスを使うしかねえか…。
気は進まねえけど……今のこの空間なら無駄に壊したりとかはしねえだろ。】
【了解……ちゃんと加減しろよ?】
【……全力でいっても効かねえんじゃねえか?】
【………】
何やら二匹がこそこそと話しているが、話がまとまったらしく、赤ドラゴンは金色に輝く炎を、黒ドラゴンは禍々しさを感じるどす黒い炎をそれぞれ口元に揺らめかせる。
『……ああ、神力を感じるっていうから何者かと思ったら……竜神と悪竜じゃない。』
「……何でそんなやつらが一緒に居るんだよ?
しかも人化がビータと野武士。」
『そんなこと知らないわよ。気をつけなさい、悪竜の炎を受けたら邪が傷の治癒を阻害するわよ……って言ってもあなたには効かないか。』
まあ俺の力があらゆる状態異常を浄めてくれるからな。俺に毒とか悪意とかの類は通用せんよ。
【ウガァァァァ!!!】
【オォォォォォ!!!】
二匹のドラゴンは二色の炎を俺に向けて放ってきた。
「食らってみるべきか躱すべきか……」
『何下らないことを言ってるのよ、遊んでないでさっさと終わらせなさい。もう皆が起きてくる時間よ?』
「もうそんな時間か。早く部屋に戻らないっと、そんなことはどうでも…良くないけど今は違うな……。」
ー発 動ー
【終 焉 ノ 眼】
そう呟いて迫りくる二色が混じり合った炎を睨みつける。
【【……は?】】
すると、二頭の竜は間抜けな声を漏らす。
それも当然だろう、自分達が放った炎が目標に到達する前に大気に溶け消えていったのだから。
『今度はの能力?』
「ああ、これもランクアップしてたから使ってみた。」
元は死眼という対象に死をもたらす能力だったのだが、伊邪那美との融合によって進化したらしく、終焉ノ眼タナトス・アイズという能力に変化していた。
『名前からして対象に終焉、終わりを押しつける能力ってとこかしら?』
「よくわかったな。……まあその名のとおりだ。」
伊邪那美の見解の通り、これは対象に応じて始まりから終わりまでの過程をすっ飛ばして強制的に終わりを押しつけるという俺の持つ中でも秩序に次ぐ理不尽な能力だ。炎だったら勢い良く燃えていようが弱まるという過程をすっ飛ばして消火できるし、生物を対象にすれば例え生まれたばかりの子どもでも一気に老衰し、死に至る……という能力らしい。
「……さて、まだやるかい?」
呆然としている二頭の首に大気中の水を整形しら凍結させて作った氷の鎌を突き付けて問い掛ける。
【……参った、降参だ」
【はぁ、やっと終わった……」
すると、二頭はドラゴンから人の姿に戻り両手を上げて降参の意を示す。
ああ……やっと終わった。
何が悲しくて二日連続で早朝からマジバトルをせにゃならんのだ。