血と武者
「……で、俺を叩き起こし呼び出されたと。」
「ごめんなさいね、あの災害にやらせると後処理がめんどくさいのよ。」
という訳で、寝ていたユウヤを叩き起こして、二人に突き出した。
てか伊邪那美、仮にも自分を災害と呼ぶか。まああながち間違いではないが。
「お、そこの兄ちゃんが相手してくれんのか?」
「……ああ、そうだ。」
からからと笑う赤髪……クラインでいいや、クラインにそう返すユウヤ。無理やり起こしたから少し不機嫌だな。流石に音を増幅させた死者の目覚めはやり過ぎたな。
……ちなみにやったのは伊邪那美だからな?
やり過ぎ=俺って訳じゃないからそこは誤解しないように。
「…伊邪那美さん、イツキにナイフみたいな武器を二本貸して貰えるように言ってくれ。血鎌では殺してしまうからな。」
ユウヤが二人の男に聞こえないように小声でそう言ってくる。
「ちゃんと彼も聞いてるから私を経由しなくても大丈夫よ。勝手に貸すわよ?」
『ああ、ボックスに入ってるから貸してやってくれ。』
「ん、じゃあはい、これ使って。」
俺がそう言うと、伊邪那美はボックスを開き、短刀を取り出してユウヤに渡す。
「……ちなみにコレに何か能力とか付いてるのか?」
いや、
破壊不可、切れ味のアップ、魔法破壊
の短刀だとそれを伊邪那美がユウヤに伝える。
「そっか、十分だ。サンキュ」
そう言ってユウヤはクラインの方に歩いていく
さて、俺は普通に見物といこうかな
「待たせて悪かったな。」
「いいってことよ、朝早くに押し掛けちまったのはこっちだしな。じゃあ闘ろうぜ。」
《仙術・空の境地》【空間拡域】
《時の境地》【時間凍結】
ユウヤが声をかけると、クラインはどこからか赤い刀身の刀を取り出して構える。ユウヤもそれに応じるようにして短刀を構えた。
それに修行から帰ってきたコウガが仙術で周りの時間を凍結して壊れないようにし、さらに森の戦場を作った。
「先手必勝!!」
クラインは体を沈み込ませ、足にぐっと力を込めて弾かれるようにユウヤに向けてダッシュする。その時に石畳に入った亀裂を見て伊邪那美が額に手を当てて溜め息を吐いていたが、今回は俺は関係ないので何も言わないでおく。
「おりゃあ!!」
伊邪那美の溜め息の元凶となったクラインがユウヤに向けて横凪ぎに振るう。
「ぐっ!?」
《天音流血の太刀》【嘔心瀝血】
ユウヤはそれを短刀に血液を纏い、刀による攻撃を受け流すが。力負けして吹き飛び、凍結した壁に向かって突っ込んでいき崩れ落ちた。
『へぇ、結構速いしパワーもいい。血属性で衝撃を殺しきれないとは、相当のパワーが無いと無理だ。」
やはり脳筋ビルドは厄介らしい。守りの硬いユウヤを吹き飛ばすとは。
「……誰がアレ直すのかしら?」
『ユウヤとあのクラインだろ。』
俺は知らん。何もしてないみているだけなのだからな。
「何だぁ?終わっちまったか?」
「バーカ、全然まだだよ。」
クラインとビータがそう言うと、魔力の奔流が崩れてユウヤを飲み込んでいた壁の残骸を消し飛ばした。
「今のはちょっと効いたよ………。」
クラインが目を丸くしている中、瓦礫があった所から無傷のユウヤが首をパキパキ鳴らしながら出てきた。
「ちっとパワーには驚いたけど、今度はこっちから攻めさせて貰う。」
ユウヤはそういうとゆっくりと足を一歩踏み出す。
「んなっ!?」
そして次の瞬間、20メートルは離れていたクラインの影から音もなく現れた。
「シッ!」
《天音流血の太刀》【碧血丹心】
驚いて声を上げた隙を突いて、右手に持った刀をクラインの左肩に向けて突き出す。
「っとぉ!?……あ、焦ったぜ………ってどこ行った?」
クラインはユウヤの右手の下を転がり抜けて反撃しようと、すぐに顔を上げるが、既にそこにユウヤの姿はなかった。
「バカ!後ろだ!!」
「は?後…ろぉい!!」
「がっ!?」
《天音流暗殺術》【血月】
ビータの声でクラインが後ろを向くと、そこには首筋目がけて左手に持った短刀を振るうユウヤの姿が、クラインは咄嗟に腕を掴み、鳩尾に拳を入れる。
「あっぶねぇ……暗殺業でもやってんのかよあいつ……明らかに頸動脈狙って来たぞ今。」
「……どうなのよ。」
『確かに前に鍛えたときに、暗殺技も教えたけどさらに強くなったな……。』
「元普通の男子高校生になんて物騒なもの教えてるのよ……。」
良いではないか。正攻法じゃ勝てない相手には有効だからな。
「……ふぃー、思ったよりやりやがるし。この体じゃちっとキツいか?」
「よく言うよ、人化での戦闘に慣れてないだけだろうが。」
「おめえな……せっかく相手を立ててたのにそういうこと言うんじゃねえよ……とにかく、見極める為だ、そろそろマジでいかせて貰うぜ。】
クラインが立ち上がったユウヤに向けて言うと、言葉の途中から体がメキメキと音を立てながら巨大化し赤い甲殻と鱗に覆われ、炎に包まれたと思うと赤い甲殻がどことなく甲冑を思わせる姿に変化した。
その姿はまるで……
「「『武〇ドラゴン?』」」
自分のシールドを犠牲にして相手のクリーチャーを墓地に送るあのドラゴンそのものだった。
【おーし、全力で行くぜ!】
そう言って甲冑を纏ったドラゴンは、先程とは比べものにならない速度でユウヤに突っ込む。
【だりゃあ!!】
「くっ!」
ドラゴンが持った刀を切り上げると、ユウヤは避け切れずに跳ね上げられる。しかし刀に魔力で帯びた峰を返してあったので斬られてこそいないが、ダメージは甚大だろう
【まだまだ行くぜぇ!】
ドラゴンは落ちてきたユウヤの体をもう一度切り上げ、跳ね上げる。
「……ねえ、いいの?」
『何が?』
「このままだとあのドラゴン、ミキちゃん達が休んでる部屋に突っ込むわよ?」
『………』
【ラストォ!!】
ドラゴンは大きく上に跳躍し、血液を鎧にし、防御の構え直しているユウヤに向けて刀を振り下ろす。
ドォォン!
【やべっ…調子に乗ってやり過ぎちまった……】
ドラゴンは、自分の剣の下敷きになっているであろう人物の安否を確認しようと振り下ろした剣を持ち上げ、
【ん?上がんねえ、何か引っ掛かっちまったか?】
ドラゴンは何度か持ち上げようと力を込めるが、剣は微動だにしない。
「……はぁ、やる気はなかったんだけどなぁ…。流石に俺の代わりに戦ってもらって死なれるのは寝覚めが悪い……何より王の家族の安眠妨害は見過ごせん。」
『結局怒るポイントはそこなのね……』
【なっ!?はぁ!?】
ドラゴンは酷く狼狽した声を出す。それもそうだろう、いきなり現れた人間が片手で自分が渾身の力で振り下ろした刀を掴んで平然と立っていたのだから。
「悪いが、ここから選手交代だ。さっきよりは手応えがあると思うはずだ。」
【はっ!?がぁっ!!】
俺はニヤリと笑い、刀を掴んだまま〇者ドラゴンの腹を蹴る。すると、ドラゴンは刀を手放し先程のシンのように反対側の壁まで吹き飛んでいった。