ー人格ー
「ああ丁度いいか。丁度会長達もいない。こっちも紹介しておこうか。」
ミキ達に浴衣を着付けてるからまだ暫く来ないだろうし。
『あら?体を借りていいの?』
そんなに長く貸せないから申し訳ないけどな。
『いいわよ。それじゃ、行くわよ。』
俺の中の伊邪那美がそう言った瞬間、俺の体が光を放った。
「ふう、やっぱりちゃんとした体があるって良いわね。」
『それは良かった。それでは、自己紹介頼んだ。』
「了解ってあら?みんなどうしたのかしら?」
伊邪那美が皆に目を向けると、全員漫画みたいに口を開けて、間抜け面を晒していた。
「イツキだよね……?」
「あら、あなたは……確かアーサー君だったかしら?どうかした?」
「イツキが女になった?……てか、ミナさん…?」
アーサーとマリアが酷く狼狽しながら呟く。
「ま、驚くわよね。ミナ改めて伊邪那美です。イツキのもう1つの側面、摩利支天としての人格よ。よろしくね?」
そう言って伊邪那美はウインクをする。
「ま…まずは服をちゃんと着ろぉぉぉ!!」
すると、マリアがそう叫んだ。
「服…?ああ、甚平のままじゃない。」
どうやら服は変わっていなかったらしく、開いた胸元から伊邪那美のヒマラヤが今にも零れそうな危うい状態になっていた。
『伊邪那美、一応元は俺の体だから隠してくれ……恥ずかしい?』
「あ、ごめんなさい。これでいい?」
伊邪那美が指を鳴らすと、甚平がいつも着ていた巫女服に変わり、昨日見た姿へと姿を変えた。
「さて、時間もないから3つだけ質問を受け付けるわ。」
「じゃあ1ついいか?」
伊邪那美がそう言うと、マリアが手を上げた。
「まず、伊邪那美ってあの伊邪那美か?」
「おそらくあなたが考えてる伊邪那美でいいわ。」
「もう一つ、その体はイツキの物の筈だが何故あんたが使っている?昨日の姿はなんだったんだ?」
「二つになってるけど……まあ1つくらいいいわ。
昨日の姿は実体を持たせた思念体よ。今はイツキと同化してるから、その体を使ってるの。
ついでに言っておくと昨日の夜に完全に同化したから、今の私は二つ目の人格ってことになるわね。それまでは二人共別々の個体だったわ。」
『体まで俺が吸収しちまったから女体化するようになった。おかげで体のスペックが、笑えないくらい上がったがな。』
「あとは何か無い?」
「ハイ!スリーサイズは「グレンあっちで話しましょうか?」」
グレンが下らないことを聞こうとすると、目から光が消えたクウリに連れて行かれた。フレイも同じことを聞こうとしたらしく返事はしたが、どこからか現れた許嫁に首根っこを掴まれ、ボコボコにされた後どこかに転移していった。
「あ、じゃあおれから1つ。」
「ん、リカね?どうぞ。」
会長たちの着付けを分身体に任せて本体が伊邪那美に聞いてきた。
「毘沙門天って上杉謙信が信仰してたやつか?」
「そうね。毘沙門天って言うのは、地球の戦国時代において上杉謙信が戦の勝利の女神として信仰していた神よ。能力は天候を操り勝利に導いたと言われているわ。まあ私の場合は種族じゃなくて能力というか権能だけどね。種族はイツキと同じ秩序。ただし権能はイツキとは違って「勝利」。味方の士気を上げて勝利へと導いていくわ。……こんなところで良いかしら?」
『もう十分だろ?3つと言わず随分答えたな?』
「いいじゃない、読者の方に紹介ってことで。……そろそろ戻るわ。」
『メタい発言をするな。……こういう訳だ。伊邪那美共々よろしく頼む。」
どごぞの出番の少ない脳筋呪術師のように、体の主導権を取り戻した俺は呆然としている皆に声をかける……。
ちなみに服は代わるときにちゃんと甚平に戻したからな?
「にしても理の外に出た割りにはそんなに変化は無いな。」
「馬鹿言え……身体能力に10万、各種能力に20万、この数字がなんだか分かるか?」
「?…わからん」
「昨日の時点のレベルまで身体能力と各種能力を落とすのにかけた封印の数だ……。」
『『『………』』』
しょうがないじゃないか、自分が完璧に制御できるレベルまで落とさないと危ないだろ。ユナたちに怪我させたなんて言ったら、自作の空間に一万年引き籠もるぞ。
「イツキく~ん!」
『あら?丁度着付けが終わったみたいね。何も知らない生徒会メンバーに私を見られなくて良かったわ。ここの会話もね。」
「ふぅ~…花火迄に間に合って良かった…。前に着物の販売店でバイトしてて良かった……。」
そう言って目の前ではにかむのはグレンの別荘で身につけていた水着によく似た水色の生地に雪の結晶が描かれた浴衣を着たリカだ。
分身体を消すとその着付けされた着物が本体に装着された。なんとも見ているだけで涼しくなる姿だな
ヒュルルルルルル…………
「お、始まったか?」
浴衣を着せたイロハらを連れて境内まで戻ると、一本の光の柱が打ち上げられた。
ドォン……!
そして、光の柱は珠となり、一瞬夜の闇に消えると大輪の光の花を咲かせる。
「わぁ……」
漏れ出た声は誰のものか、吐息すらはっきりと聞こえる程の静寂に包まれた中で皆一様に空に儚く消えていく光の花に魅入っている。
ヒュルルル……ヒュルルル……ヒュルルルル……
一輪の大輪が花を散らすと、二本三本と光の柱が打ち上がる。
ドォン…ドォン…ドォン……
そして打ち上げられた蕾は次々と花開き、命を燃やしやがて散っていく。
「……綺麗。」
「……そうだな。」
隣にいるイロハが呟いた言葉に囁くように返す。その間にも夜空には次々と色彩豊かな花が咲いては散っている。俺達は暫くの間空を彩る花火に目を奪われていたのだった。