理の外の存在
数時間後にヒナさんたちに合流し、夕方まで遊んでいた。
ラルドの話をよく聞くと腑に落ちないことがあった。もしかして……。
パタパタパタ……
「ん?」
「イツキくん、その鳥は?」
「それはですね。」
ヒナさんと話していると、どこからともなく白い鴉の式神が飛んできて、俺の肩に停まった。
【やあ、イツキくん聞こえるかい?】
「きゃっ!喋った!?」
すると、突然口を開けたかと思うと流暢に喋り始めたのでヒナさんが驚いて、チヅルさんの後ろ隠れてしまった。
【ハハッ、いやぁそこまで驚いてくれるとは嬉しいなぁ。】
「……シンゴさん、式神なんか使ってどうしたんです?」
【ああ、そうそう。今日は花火大会があるんだけど、もう誰かに聞いたかい?それでさ、毎年うちの境内が花火の良い見物場所なんだよ。だから良かったらそこにいるお嬢さんとそのお友達もどうだい?って誘おうと思ってね。】
なんてタイムリーなタイミング、どこかで見てたんじゃないだろうな?
「だそうですけど、一緒にどうですか?その方が皆も喜ぶので俺としては歓迎したいんですけど……。」
鳥が喋ったことに未だに呆然としているヒナさんに問い掛ける。
「え?あ、ちょっと待ってね。皆に聞いて見るわ。」
すると、直ぐに正気に戻り、生徒会メンバーに念話を繋いだのか少し俯き無言になる。
「…うん、皆はお邪魔していいならお邪魔したいって。」
【了解、何人か教えてくれるかい?】
「あ、はい女子が4人です。」
【はい、じゃあそういうことで、そうだな……5時頃に神社に来て下さい。】
「はい!ありがとうございます!!」
【それじゃ、僕はこれで】
そういうと白い鴉は一枚の札になってヒラヒラと地面に落ちてしまった。
「何かと思ったら式神だったのね……急に鳥が喋ったからびっくりしたわ……。」
「イースじゃ式神なんて滅多に見ませんしね。それに自分と式神で知覚を繋げられるのは余程の達人くらいですよ。」
落ちた札を拾って着ていた赤の甚平の懐にしまう。
ちなみにこの甚平はリカが作ってくれた物だ。
…採寸をした憶えがないんだが、何故かサイズがピッタリなんだよなぁ。
「さて、まだ時間はありますしもう少し回りますか?」
「「うん!」」
うん、元気でよろしい。
『すっかり家族サービス中の父親みたいね。』
……言うな。
「やあ、お帰り。」
「ただいま戻りました。」
「わは~♪広~い♪」
「「本日はお招き頂きありがとうございます。」」
「いえいえ、そちらにはよくお世話になってますし、そんなに気を遣わないでください。」
あれからしばらく三人で屋台を回ったり、時間を潰して他の生徒会役員共と合流し、俺は神社へと戻ってきた。役員はと言うと、1人は境内の広さにはしゃぎ、もう1人は丁寧にマモリさんに挨拶をし、ルーチェは変わらずアリスを抱っこし、リカはそれを弄っている。
『やっぱり騒がしいわね。」
「ああ、でもたまに、こう騒がしいのも楽しいじゃないか。」
『そうね、私も子供達に会いに行こうかしら?あの元旦那には会いたくないけどね。……あ、やっぱり一発ぶん殴ろうかしら?ついでに神格も奪っちゃう?』
「勘弁してくれ……お前の子供なんて言ったら何人居ると思ってる。あと流石にこんな短期間に神の始祖を二人も取り込んだら流石に体が耐えきれない。
まずは今のスペックを使いこなせるようにしないと。」
今度、時間を操作した空間を作って何億年か修行しよう。修行次第では更に能力も増やせるだろうし。
とにかく当面の目標は力の制御と強化だな。
『本当にあなたは力に関して妥協しないわね……ま、私も付き合ってあげるから安心なさい。』
「今度入れ替わりを試してみないとな。入れ替わった状態でどの程度まで動けるかも確かめないと。」
うへぇ……やることが盛り沢山だな……今が夏休みでホント良かったよ……
『さ、この話はここでお仕舞い。ほら、あなたは料理の準備でも手伝いなさい。ミキちゃん達に任せきりはダメよ。』
「当然、飯の他にデザートの甘味も仕上げないとな。」
昨日の昼のうちに仕込みをやっといて良かったよ。
『随分立派な主夫だこと……。』
仕方ないだろ、地球で道場以外でいろんなことやってたら身についたんだよ。
まあハマっちゃって色んなところに弟子入りして3日で全店舗からお墨付きをもらったのはやり過ぎだったけど。店の人達涙目だったなぁ……
「ご飯出来ましたよ。」
「おっ!寿司に蕎麦に、和食づくしだな!」
出来上がった大量の料理を、浮かび上がらせて皆の所へ持っていく。
今日はせっかくジパングに来たということで自家製の食材をふんだんに使った和食フルコースだ。
「……ところでイツキ、それどうやって持ち上げてんだ?妖力は使ってないだろ?」
料理を運んでいると、ユウヤが緑色の浴衣を着たレナさんを羽交い締めにしながら聞いてきた。……大変だな、食欲旺盛な嫁のお守りも。
「よくわかったな。これはちょっと試しに新しい能力を使ってみたんだよ。」
「新しい能力?一晩の間に何してたんだお前……。」
「理の外側の存在になった。」
「「「………」」」
俺がそう言った瞬間、地球から来た巻き込まれ2人と、リカ、フェルトの使い魔ミカエル、フェルトが絶句した。他のメンバーは何が何やらといった感じで首を傾げている。
「理の外側って、何したんだよ。」
「いやなに。一言で言うと伊邪那美と黄泉に行って同化したら、理の外側に出てしまった。秩序そのものになってしまった。」
料理を運びだしたテーブルに置きながら答えると、マリア達はきょとんとした表情になった。
『秩序そのものっていってもイメージしにくいでしょ?普通はそうなるわよ。』
それもそうか、じゃあ簡単に説明するかな
「そうだな……秩序と聞いてまず何を考える?」
「うーん……平和とか法律とか?」
俺の言葉に暫く唸ってからマリアがそう答える。
「うん、それもそうだが食物連鎖とか物理法則とかもそうだな。それらが上手く機能しないと世界は成り立たない。小学生でもこれくらいはわかるだろう?」
「おい…なんでおれたちを見て言った。」
グレンとフレイを見ながらそう言った。
「スケールを小さくすると人のコミュニティの中での決まりごと、子どもの遊びのルールまでキリがない。それを全て司ってるのが私という存在だ。
私が存在するから秩序が存在し、秩序が存在するから私が存在する。」
「凄さがいまいち分からん。」
「簡単に言うと世界を構成してる秩序を意の儘に操れるってことだ。リカ、試しにこうやって持ち上げた物からいきなり手を離すとどうなる?」
「痛い痛い痛い!!」
手頃なところにマリアが居たので、アイアンクローでマリアの体を空中に持ち上げる。
「鬼かお前!普通はそのまま落ちるだろww。重力もあるんだしww」
「果たして本当にそうかな?」
そう言ってマリアの頭を離す。
「あれ?浮いてる……」
だが、落ちる筈のマリアの体は空中に残ったままだった。それを見た皆んなが驚いている。
「【手を離したら物が落ちる】ってのも言ってしまえば一つのルールそれが秩序だ。だったら秩序わたしがそれを否定してしまえばこの通り、法則は機能しなくなる。あとは例えば国の中で平和が保たれていたとする。なら私が【平和】という秩序を否定すれば?」
皆んなが考えたが結論は出ず黙ってしまった。平和そのものを否定すればなにが起きるかなど想定できることではない。
「答えは簡単、その瞬間から国の中で理由なんて何もない枷が外れ、凄惨な殺し合いが始まる。」
「…なんつー理不尽な力だよ。要するにお前の一存でこの世界を滅ぼせるってことだろ?」
まあ滅ぼすだけなら自分で手を下した方が早いけどな。俺を殺すとなると、妖力を枯渇させることのほか秩序の権限を奪うか魂を消し去るしかない。
「だいたい理の外側にいる存在なんて大抵理不尽なもんだ。」
錬成師様然り、骨魔王、アラフォー賢者様しかりなろう主人公たちのように。
「まあとにかく。神外になっちまったってことか。」
「そうだな。」
結局はそういうことだな。