ー朝ー
帰ってから少し時間があったので寝てしまった。
「あ、起きましたね。お兄ちゃん。そろそろ朝ご飯ですよ?」
「あぁ、すぐ準備するよ。」
「まってますよ。」
様子を見に来たらしいユナにそう返し、着替えを始める。
「やあ、おはよう。昨日はお疲れだったみたいだね。」
「伊邪那美様がお世話になったようで、本当にありがとうございます。」
皆で食事をとる為の広間に行くと、シンゴさんとマモリさんにそう声をかけられた。
どうやら二人共、伊邪那美のことは知っているらしい。
「何でです?」
「あはは、この神社の敷地で起こったことは、大量に放ってある式達が全部教えてくれるからね。でも驚いたよ、ナミさんが代々お祀りしてきた伊邪那美様だったなんて。これからは、ミキも伊邪那美様も君に任せることになるね。」
そう愉快そうに笑うシンゴさん。
「あの子は、ナミさんを姉のように慕ってきましたからね。これからは大好きな二人と一緒に居られると喜んでいましたよ。」
そうストレートに言われるとむず痒いものがあるのだが、すぐに助け船が出された。
「イツキ!さっさと座れよ!飯食えねえじゃん!!」
「……全く、すみません。うちのバカが。」
「いやはは、気にしなくていいよ。じゃあみんなもお腹が減ってるだろうし食べようか。」
俺が席に着くと、シンゴさんは手を合わせて言葉を発した。
「今日も美味しいご飯が食べられることを神に感謝しよう。
いただきます!」
『『『いただきます!!』』』
……そういえば神に感謝っていっても、この中で俺は神なんだけど、その俺は誰に感謝すればいいんだ?
『……ん?ふぁ~あ、……おはよう、イツキ。』
『ああ、おはよう伊邪那美』
食事を終え、食後の運動にといつもやっている組み手をイロハ達と境内の中でしていると、伊邪那美がようやく起きたらしい。もう一つの人格になったことにより奇妙な共同生活みたいなことをしていた。
『……何してるの?夫婦喧嘩?』
『そんな訳がない。組み手だ。イロハ達も私も武器を使ってないだろ?』
夫婦喧嘩なんかした事ないわ、大体の場合喧嘩になる前に俺が折れる。
『尻に敷かれてるわね』
「それは違うぞ、イロハ達の怒り顔が可愛すぎて逆らう気が起きなくなるだけだ。」
『……重症ね』
なんとでも言え、それにイロハ達が間違ってるときはちゃんと向こうも折れるから。喧嘩になる前に全部解決するんだよ。
「あうっ!」
「うん、今のはなかなかよかったぞ。危うく一発もらうとこだった。」
ミキの足払いで体勢を崩したところで放たれたイロハの掌底の打ち下ろしを躱し、手を支点にしてブレイクダンスの要領で回転し、二人の足を払って転ばせる。
「……さて、次はグレンの番だな」
「おっしゃあ!今日こそその澄ました面をぶん殴る!!」
「ほう、面白い。かかってこいグレン!!」
「行くぞハーレム野郎!!羨ましいんだよボケ!!!」
「グレン?少し向こうで話そうか?」
グレンが俺に向けて走りだそうとした瞬間、何者かがグレンの襟首を掴んだ。
「く、クウリ……?」
「私というものがありながら酷いじゃないか?少し向こうに行こうか?」
「イ、イヤァァァァ!!!」
グレンはクウリに引き摺られて、本殿の陰へと消えて行った。
『えっと……』
「……よし来いグレイ!」
「あ、あぁ……そうだな。」
『何事も無かったかのように!?』
嫌だな伊邪那美、今何かあったか?
「ギャアアアアァァァ…………」
『この悲鳴は?』
「変わった鳴き声の鳥だな。グレンの悲鳴にそっくりじゃないか。」
『本人とは認めないのね……』
だって怖いじゃん、神外にだってああなったヤンデレは怖いんだよ。
『なるほど、問題はベクトルの違いなのね。」
そういうことだ。気にしていたらダメだっていうことだ。