海道中
「それでは、お世話になりました。」
「いいえ、こちらこそお手伝いをお願いしてしまい申し訳ありませんでした。さらには知らないことを教えてくださり勉強になりました。」
グレンの別荘で過ごすこと7日、ミキの故郷へと出発する日を迎えた俺達は、この7日間身の回りの世話をしてくれたアンさんに見送りを受けていた。
この一週間皆はリカのダンジョンにて修行を行っていた。コウガも、ダンジョンに一人で入り、80階層までいけるようになった。しかしどこかやけくそのように思えた。イツキも雲雀との修行で一段階目がようやくおわり、二段階まで到達した。そこでは臨界点について勉強していた。
「それでは、グレン様をよろしくお願いします。頭は悪いですが友達思いの良い方ですので。」
時々思うんだけどアンさんって結構ドSだよね?
主人のことを頭悪いって言う従者なんてあんまり見たこと無いぞ。
「わかってますよ。頭の方はもうどうしようもありませんけど、グレンが良い奴なのは知ってますから。」
「なあ、さっきから酷くねえかお前ら?泣くぞ?俺泣くぞ?」
「「泣けよ(ばいいじゃないですか)」」
「……グスン。」
「それじゃあ、このあたりで俺達は失礼します」
「そうですか、ならこちらをどうぞ。道中のお弁当です」
そう言ってアンさんが渡してくれた包みを受け取る。
「ありがとうございます。それじゃ、失礼します。」
「はい、行ってらっしゃいませ。」
挨拶もそこそこに、俺達は馬車に荷物を詰め込み出発した。
「そういえば、どうやってジパングに行くんだ?ジパングは島国だから航路しか無いぜ?」
再度馬になり、馬車を引いていると、後ろの馬車からグレンが出てきてそう聞いてきた。
【グレン、いつ私が航路で行くと錯覚していた?】
「いや…言う以前にそれしかないだろ」
【この私に常識なんて些細なことが通じるとでも?】
「えっ?ちょっ!!ぎゃあああああ!!!?」
言い切ると同時に俺は軽く新幹線位の速度で走りだした………海に向かって。
「ちょっ!!海!海!!」
グレンの返事を待たずに俺は海に飛び込んだ。
「わぁ……きれいです………」
そう呟いたのは、馬車から出てきて辺りを見渡したユリとアリス。
今、俺は海の中を馬車を引きながらゆっくりと進んでいる。
【せっかくの旅行なんだ、普段見れない光景を見るのが楽しいんだろ?】
何故か馬車の中でぐったりしているグレンに話し掛ける。
「確かにそうかも知れねぇけどさ……これは予想出来ねえよ……海の中にトンネルを作ってその中を進むなんてよ。」
グレンの言った通り、俺達は今海中に作った一本のトンネルを進んでいる。これは妖力で海水を操って水を退かして作ったものだ。
海水中から酸素だけを取り出して常にトンネルの中に十分な量の酸素を満たしているので、普通にユナ達でも呼吸することができる。
【まあまあ、普通に船で行くよりはこっちの方が格段に安全だし、周りの景色でも見て寛いでろよ。
だいたい3時間くらいで着くようにゆっくり歩くから、みんなでアンさんに貰った弁当でも食っててくれ】
「普通はイースからジパングって、どんなに急いでも1週間かかるんだけどな。」
【そこはほら、私だから】
「納得だな。」
まあ行こうと思えばそのくらいの距離一刹那あれば余裕なんだがな。
今回は観光が目的だし、ゆっくり行こうじゃないか
「そう言えば、さっきの「普通に船で行くよりは安全」ってどういうこと?」
不意に馬車の中で実体化したイリスの膝に乗せられたイロハが、首をかしげて聞いてきた。……最近慣れてきたなお前、前はあんなに子ども扱いされんの嫌がってたのに。
【ああ、安全な理由?簡単だよ、海上を進んでると海賊とかに出くわすだろ?いちいちボコるのもめんどくさいし、ならそういう奴らが手出しを出来ない海中を進んだ方が楽ってことだ。】
「でも海の中だと魔物達が襲ってこない?」
【その辺も心配はないぞ。】
【あ、妖龍様じゃないっすか、ちわーす。
どこかにお出かけで?】
「ええ、ジパングというところに行くぞ。」
【あ~!ジパングっすか!なら自分達もお供するっすよ!こないだは調子に乗ったバカがご迷惑をおかけしたみたいですし!】
「あら、ではお願いしますわね」
【了解っす!おい!てめえら!ジパングまで皆さんをご案内すんぞ!!】
【【【【ヒャッハーーーー!!!】】】】
「」
【な?今は多分ここがこの世界で一番安全だぜ?……って固まってるし】
グレイがフリーズしてしまった。
まあ無理もないか、巨大な鮫達に周りを囲まれて一緒に進んでるんだから。
2日前分身が溺れかけたアリスを助けてそれを食べようとした鮫を龍に変化してボコボコにしたことがきっかけだ。
【あ、お前ら、悪いんだけど、ユナ達が周りの景色見えないから少し間隔空けて貰えるか?】
【【ウィーッス!】】
「もう掌握してやがる。…」
あ、ちなみに幻覚を強化すれば、海に住まう生物を支配できる。
【そういや旦那、ジパングまで何の御用で?】
鮫達のリーダーが真っ直ぐ泳ぎながら器用に顔だけこちらに向けて聞いてくる。
よくその体勢で真っ直ぐ泳げるな。
【そうだな~、彼女の両親に勝負ってところか?あとついでに観光だ。】
【へぇ、彼女のご両親ですかい。奥方様はさぞかし強いお方なんでしょうね。】
【ああ、まぁまぁかな】
【またまたご謙遜を。でも少し心配っすねぇ……】
【心配とは?】
リーダーが呟いた言葉が気になり聞き返す。
すると、リーダーは顔を前に向け、話し始めた。
【いえね、最近ジパングで鎧武者の格好をしたドラゴンが暴れてるらしいんすよ。なんでも自分を使い魔にできる人間を探してるんだとか。】
【ほう。鎧武者の格好をしたドラゴンねぇ……】
【しかももう一匹やたらと速い二刀流使いのドラゴンもそいつと一緒に暴れてるらしいんすよ。そいつらを討伐しようと人間の兵が度々挑んでるらしいんすが、その度壊滅させられてるんだとか。】
【まあ私に関わることは無いだろ。襲ってくるならともかく、私から積極的に関わろうとは思わないしな。】
「どう思うよ?」
「鎧武者のドラゴンコンビって言ったらアレしか思いつかないんだけどwww」
「だよな」
【んじゃあ、俺達はこれで失礼するっす!道中お気をつけて!!】
「ああ!わざわざ助かったよ!ありがとう!」
それからしばらく水中を進み、出発から丁度3時間でジパングに到着した。俺は海岸に上がり、誰も居ないのを気配で探ってから人の姿に戻る。
【ああ、そうっす!ここまで来たのも何かの縁ですし、これ渡しときますよ!何かあったら使ってくださいっす!!】
鮫達に別れを告げていると、リーダーが器用に何かを投げつけてきた。
「これは……随分綺麗な勾玉だな?」
それを片手で捕って見ると、綺麗な藍色の勾玉だった。
【そんじゃ、今度こそ失礼するっす。お疲れっした!】
【【【お疲れっした!!】】】
そう言い残して鮫達は帰って行った。
「何を貰ったんだ?」
「さあ?今解析する。」
手元を覗き込んでくるマリアに言葉を返し、久しぶりに鑑定で検索をかける。
「お、出た出た。
えっと……
《デストロイスクアーロの宝玉》
大海の荒くれ者、デストロイスクアーロの王の体内でのみ生成される宝玉。これの所有者はデストロイスクアーロ達の支配者となり、これに望めば全デストロイスクアーロを召喚し、使役することが可能。
ちなみにデストロイスクアーロ一匹の危険度は全海洋生物中で最も高い。勇者でも苦戦するよ。
「なるほど、俺達でも苦戦する魔物が無数に襲ってくると、なんだそれ、水中なら無敵じゃねえか。」
「能力で水の道を作れば陸上でもあいつらを呼び出せるしな。全く……随分な手土産を置いていったもんだ。」
だがまあ、せっかくだしありがたく貰うことにしよう。