修行
その頃、コウガは別荘の森の奥へ向かい、胡座をかきながら瞑想をしていた。魔物が入らないように、サクヤが結界を張り修行を開始した。イツキに指一本も触れることが出来なかったあの大会で、もっと強くなろうと決心したコウガは必死になっていた。イツキに勝てないのであれば魔王にも勝てないと思っていた。
「サクヤ頼みがある。」
『なんや?』
「仙術を習得したい……。」
『今のあんさんなら出来ひんこともあらへんが、相当きついで?初代帝国勇者も苦戦した代物やからな?』
「構わないやってくれ。」
『わかった。どうなっても知らへんで?』
サクヤは武器状態から人型となり、結界中心を魔力を封印した。そして時魔法により時間を切り取った。中で1時間を過ごすと外の時間は1分になるように設定した。魔力を封印したことにより、コウガは体が重くなり息が乱れ始めた。師範からの教えを思い出し、正しい呼吸を行なっていく。数分後、カグツチを膝に置き、瞑想状態に入る。仙術の習得するには魔力を封印か枯渇することにより、大気に溢れる自然エネルギーを体に馴染ませることで仙術が使えることになる。が失敗すれば体が耐えきれなくなり弾け飛ぶ。
「…………」
数時間後にようやく仙力が溜まり出した。コウガは立ち上がり、カグツチで素振りをし始める。慣れないため体が重く負担ではあった。が勇者補正ですぐに慣れた。サクヤに仙法を習い、サクヤの能力にて帝国初代勇者を呼び出して、戦闘訓練を始める。魔力なしで戦うのは初めてで、おぼつかない足取りで初代勇者に立ち向かう。木刀で戦っているため死にはないと思うが初代勇者はコウガの剣捌きを見抜き圧倒し始める。
『弱いな……これでは魔王おろか魔神にも勝てはしない』
「それは俺が一番よく知っている!だから鍛えて守られる存在ではないと証明させる。」
《天音流剣術・無ノ型》【五月風・天蓋】
再び初代勇者に斬りかかる。初代勇者はコウガの攻撃を防ぐがその手には剣はなく、左手から右手に瞬時に構え直して斬る。がそこには誰も居なかった。初代勇者は、瞬時に仙術『無の境地・神隠し』を発動し、コウガの背後に飛んでいた。背後ががら空きとなったコウガに初代勇者は仙術『雷の境地・雷電』を放ちコウガが倒れた。立ち上がろうとするが力が入らず意識を失った。
「どうや?」
『まだまだだな……まだ俺に勝てるほどの器ではないが鍛えれば金になる。』
「えらい買ってるやないか。」
『奴…友の最後の頼みだからな……まったく次世代の勇者に力を貸してやれだ。無能ならまだしも力あるものに継承しなくては恥だからな。』
サクヤは初代勇者とそんなやり取りをしていた。目覚めたコウガに一から仙術と戦い方を教え直した。さらに魔武器に眠るもう1段階上の『臨界者』を習得するため、その修行にも取りかかった。
イツキとイロハ、リカは別空間にて修行を行っていた。次のステップに入った。前国王ラグナが言っていた『臨界者』についてだ。臨界者とは500年前に二人の兄妹によりもたらされた魔武器の新たな能力のこと。武器に眠る魂を呼び覚まし、解放する力のこと。ラグナは二人の遺品である刀と鎖を出発前に渡してくれた。なんでも次世代の力あるものに渡してやれのことだ。
リカが2つの武器を千変万化を増殖させて仕舞う。呪文を唱え千変万化から皹の入った人形が現れた。俺たちと同じ年代であろう二人の男と女が現れた。二人が動き出して目の前にたつ。
『また戻ってきたようだな……。』
『そうですねお兄さま。』
『これもまた運命か……ところで呼び足したってことは魔王柄みか。』
「そうだ。」
『あいつが復活するのか?いや…背後にいる奴に操られているだけか。あのハザマとかいう男に』
「!?知っているのか?」
『あぁ……よく知っているさ。魔神復活のために裏で……まぁいい修行すんだろ?俺は脆月雲雀だ』
『妹の雪です。よろしく』
「あぁ」
『早速でなんだが殺ろうか』
雲雀は刺さっていた刀『脆月』を構える。イツキもタナトスとルーを構える。そして二人は駆け出した。
《脆月流十二月》【雲壌月鼈】
《天音流捌式・乱》【天満幻舞・鐘嵐珠】
互いの技がぶつかり合うが、イツキが負け腹部を蹴られ吹き飛んだ。
『ほう…天音流か。久しぶりに見たな、』
雲雀はイツキの剣術を分析し、そう見抜いた。
「何故知っている。」
『お前は天音剣術の歴史を知らない…いや聞いてないみたいだな。それは俺の使っている脆月剣術の派生型だからな、』
「!?」
脆月剣術とは、平安の時代より生まれた流派である。初代師範脆月半月より編み出された剣術である。しかし天音剣術初代師範……天音廖黿が脆月と対立したことによりできた流派でおる。型は類似しているが別物である。
当時、土御門剣術、天音剣術、脆月剣術と呼ばれていた剣術御三峰であった。しかし土御門家と脆月家が衰退することにり天音家が台頭する。しかし脆月剣術も生き残った人たちが密かに教えて現代まで続いていた。
『では、行くぞ。」
《脆月003式》【撚糸刀】
雲雀は脆月の刀身をなぞると変化した。刃が糸のように散らばっていく。雲雀は脆月を振るうとイツキに向けて糸が襲いかかる。イツキはタナトスにて斬ると糸は落ちていく。タナトスに妖力を灯し、残撃を飛ばす。雲雀は糸刀を解除して、補食モードへと移行する。その脆月が妖力を食らう。脆月が変化した。赤黒い妖力を灯した状態になった。
《018式》【妖刀錬獄・絶将】
《妖天剣術四式》【炎魔剛演】
赤黒い妖力が襲いかかる。イツキもタナトスに妖力の炎を灯し残撃を飛ばす。互いの技がぶつかり合う。炎の中から雲雀が突っ込んできた。
『気を抜くなよ。」
《脆月剣術・三月》【薄桜・怨狂】
イツキがルーにて斬りかかろうとしたが、反応が遅かったため雲雀の剣術を諸に喰らった。吹き飛ばされたイツキはタナトスとルーを消して幻想を取り出した。
ー惑わせー
【幻想狂】
幻想による幻覚空間を作ったが、雲雀の一振りで空間が砕け散った。イツキが態勢を整えようとしたとき雲雀は懐に迫っていた。
《脆月剣術・七月》【波残暑】
その剣術がイツキを襲いかかる。イツキは幻想で捌いていたが徐々に傷が増えていった。
「どうしたお前の力はこんなものか。』
「だ、誰が」
『ではこちらも始めましょうか』
そう言って雪は袖から氷鎖がじゃらじゃらと出てきた。イロハも鞘から安恒を抜き構える。雪は動くこともなく鎖は音もなくイロハに襲いかかる。顔に当たるすれすれで避ける。
『避けるのですか。ならこれはどうです?」
《鎖魔法》《氷鎖・蛇空】
鎖が空間から無数に出現する。イロハはイリスの能力『鬼眼』を網膜に起動する。鎖の速度がゆっくりと見える。刀で鎖の軌道を替えながら、雪に近づいていく。
《天音流・音の太刀》【風上】
を出すが、その剣は届かなかった雪の目の前に鎖が出現し、腕に巻き付かれる。雪は手をあげると鎖も上空に上がりイロハも同様だ。吹き飛ばされたイロハは光と雷の合成魔法で雪に攻撃するが、鎖が邪魔をし効果がなかった。
『まだですね。』
「強い……」
イロハは刀を雪に向けて投げる。投げると同時に駆け出す。雪は氷鎖にて刀を捕まえる。その影からイロハが出てきた。剣魔法にて剣を造り、両手に構えながら突っ込んできた。空間が出来上がるタイミングで形成した剣を投げて破壊する。常人ではいくつもの空間を数秒間で破壊するのは無理である。安恒を消して再度召喚して雪に斬りかかる。雪は顔にかすり傷しか負わなかった。
『やりますね。』
《二次武装》【雪花の流水羽衣】
氷鎖が雪に巻き付く。巻き付いた鎖が、氷の羽衣となり装着される。雪は上空にあがり氷の粒を形成して雨のようにイロハに降り注いだ。イロハはなにかを感じて防御膜を張る。防御膜は氷ついて弾けとんだ。イロハはするもなく雨に触れてしまい、そこに氷山が出来上がった。
『こんなものですか……』
しかし氷山は砕け散った。イロハはイリスを憑依させ、鬼人化して体の使用権をイリスに渡した。
「娘よこれからだぞ。」
『えぇわかってますよ。』
イリスに使用権を渡したことにより形成は逆転してしまう。雪に迫るイリスは鎖が当たるすれすれで避けながら、高速移動を行い、背後をとったイリスは蛇刀で斬りかかる。雪もそれに対応して鎖の防御を行う。鎖に当たらず目の前にイリスが移動していた。また防御を行うが左側に移動していた。雪は防御が追い付かず鎖を球体にして身を守った。しかしイリスはその一瞬にして球体の中に入り込んでいた。球体が壊れると傷ができた雪が出てきた。
「どうした小娘よ。」
『やりますね。なら本気で行きますよ。」
“氷鎖…臨界点突破”
”脆月…臨界点突破”
雪と雲雀のその言葉に氷鎖と脆月が輝きを見せ、全体を包み込んだ。イリスとイツキは一旦引こうとしたとき、いつまにか負けていた。