到着と息抜き
「おぉ……」
「わ~、大きい」
「これは凄いですね……」
目の前に建つ建築物を見て感嘆の声を盛らすのは地球から来た勇者組。あれから少しペースを上げて走り、30分程でグレンの別荘、というか屋敷に到着した。
ちなみにこの別荘の持ち主はと言うと、
「「オロロロロロロ………」」
屋敷から少し離れた茂みの向こう側で二人仲良く【見せられないよ!】なことになっていた。リカはマーライオンになり口から水を放出していた。
「さて、リカは無視して、グレンがあんなだし。暫く休んだ方がいいだろう。とりあえず生き残ってる男共は馬車から荷物を降ろしてくれ。」
俺は茂みの方を見ないようにしながら、思い思いに伸びをしたり、景色を楽しんでいるみんなに声をかける。
「ようこそいらっしゃいました。皆様のお世話をさせていただきます。侍女のアンと申します。」
積み荷を降ろし、屋敷の玄関に向かうと一人のメイドが俺達を出迎えた。
「イツキです。暫くの間よろしくお願いします」
メイドのアンさんにそう丁寧に挨拶をする。
それを皮切りに全員が挨拶と簡単な自己紹介をする。
「それでは…皆様が宿泊される部屋にご案内致します。誠に申し訳ありませんが、人手が足りません故、お荷物はご自分でお願いします。」
そう言ってアンさんが屋敷の中へと歩きだしたので俺達は各々の荷物を持ってその背中を追った。
グレンとフレイを置いてきたけど大丈夫だよな?
アンさんも見事にあの二人をスルーして行ったし。
使用人が主人を無視して良いのだろうか?
「ふぅ……」
アンさんに案内された部屋に入り、カバンを床の空いたスペースに置き、ドサッと備え付けのベッドに倒れこむ。そして上体を起こして周りを見渡す。
部屋の内装は水色の壁紙に大きなオーシャンビューの窓があり、備え付けのシングルベッドが一床、部屋の真ん中にテーブルが一脚あり、その上には新鮮なフルーツがバスケットに詰め合わせて置いてある。奥には勉強机も置いてあり、一通り必要な物はそろっているし、埃一つないくらい綺麗に掃除されている。全員(アリスの両親(ルーチェ、ジョット)に一部屋こんな部屋があてがわれているはずだが掃除に手抜きが見られないあたりアンさんの家事スキルの高さが窺える。と不意に入り口のドアがノックされた。
「どうぞ~」
特に拒む理由も無いので入室を許可する。
「イツキくん、グレン君達が回復したのでみんなで海で遊びませんか?」
そう言いながら部屋に入って来たのはミキだった。
どうやら部屋の観察をしている間に、黒光りする昆虫並の生命力を持ち合わせているバカ二人が、回復したらしい。
「ああ、わかった。今着替えて行くよ。迎えありがとうな。」
ミキにそう微笑みかけて、泳げないがカバンから黒いトランクスタイプの水着を取り出す。
「はい!じゃあ私も着替えて来るので!」
笑顔でそう言ったミキが、部屋から出ていくのを見送り、泳げないがカーテンを閉めて俺は着替えを始めた。
「……何この状況?」
水着に着替えて、上半身に黒いパーカーを着て、ビーチに出るとグレンとフレイ、マリアが砂浜に首だけ出して埋められていた。
「あっ!イツキ!遅かったね!」
「ああ、久しぶりだなアーサー」
つい一人で呟くと、犬耳と尻尾をピコピコと動かしながら何だかかなり長い間会ってなかったような気がするアーサーが近づいて来た。
「?…ほんの一週間前まで毎日会ってたじゃん」
「いや、こっちの話だ。
……で、この状況は何があった?」
そう言って3人並んで生首と化している3人を見ると、アーサーはあぁ……と声を発してから口を開いた。
「いやね、さっきあの二人が女子の部屋に突入しようとしたんだけど、ユウヤとコウガに埋められたんだよ。マリアはいつもどうりフェルト姫から仕置きを受けて……
で、それにいつも通りグレイたちが面白がって魔法をぶつけてたんだ。」
その言葉を聞いて俺は「はぁ……」と深い溜め息を吐く
「あいつらも懲りないな……しかも二人ともちゃんと綺麗な嫁がいるだろうに……」
そう呟きながら担いでいたかなり大きめのパラソルを砂浜に突き刺し、開く。
「あ、手伝うよ。…ところで怒らないの?いつもならあの二人に制裁を加えてるとこだよね?」
「サンキュ。…別にそんな未遂にすらならなかったやつに怒るほど俺は理不尽じゃないぞ。」
ブルーシートを敷き、それに被せてかなり大きいテントを張りながらアーサーに答える。
「そうなの?(…あれ?イツキの足下から魔力?の気配…?)」
「そうだよ。」
更にテントの次に妹達の為に浮き輪を膨らませ始める。何かレジャー先のお父さん状態になりつつあるのが若干微妙な心境だ。
「あれ?フレイ、なんか砂が熱くなってないか?」
「ホントだって熱!!」
「ちょっ!火傷するって!早く出ねえと!」
「ふんっ!……あり?砂がめっちゃ固まって動けない。」
「「ギャアアアアア!!」」
「もっと熱くなれよ!」
向こうからなんか悲鳴が聞こえてきたが俺は知らん。
断じて足の裏から砂に干渉してあいつらの周りだけ。熱くして固めたりなんかはしていない。
リカはジャージに着替えてそう言っていた。
「遅くなりました!」
しばらくバカ二人を弄りながら男性陣と談笑しているとミキの声が聞こえてきた。
「お~、お疲れさ…ん…」
声が聞こえてきた方向を見ながらそう言うと、言葉の途中で固まってしまった。
「どうでしょうか…?」
そこには、正に天使達がいた。
「……綺麗だ…」
思わずそう声を洩らしてしまう。
「ふふっ、ありがと♪イツキ」
呟いた言葉が聞こえたのかイロハがそう微笑む。
その仕草にも目を奪われてしまう。
「みんな綺麗だぞ、よく似合ってる。」
どうにかその言葉を発して再度みんなの水着姿を見る。
イリヤは白いビキニで、白い肌と銀色の髪が更に際立っている。
フェルト姫は、緑色のビキニに腰にパレオを巻いている。
シェリカは、ヒラヒラしたフリルが付いたオレンジ色の可愛らしいワンピースタイプの水着。
ミキは黄色いビキニで、普段は降ろしている黒髪をアップで纏めている。
イロハは、青い生地の中に白い雪の結晶が描かれているビキニ。
サラさんは、白地の中に金色で一羽の蝶が飛んでいる水着、大胆にも下は紐で留めるタイプのもの。
「…あれ?ルーチェは?」
ルーチェの姿が見えなかったのでイリヤに聞いてみる
「ああ、ルーチェならユナちゃん達の着替えを手伝ってたので、そろそろ来ると思いますよ。」
なるほど、なら多分ルーチェも同じような理由だろう。
……それにしてもここにいる全員が美女、美少女なんだよな。
そのうち背後から刺されてもおかしくないかもな、もちろんそいつは返り討ちにするが…。
「ばしゃばしゃ~♪」
その後、各自各々で遊ぼうということになったので、俺は泳げないのだが分身を作り、アリスの泳ぎの練習をすることにした。アリスは匂いに敏感の為本物に近い分身にしてある。今はゆっくりとユナの手を引きながら後ろに下がり、ユナは沈まないようにバタ足を続けている。
ユナは運動神経が良く、練習を初めてからおよそ30分で手を離しても良さそうなレベルまで上達していた。
その頃本物はというと、崖にて大物を立っていた。釣ってはいたが、うるさい馬鹿らが泳いでいたので大津波を起こしてやった。
「よしユナ、少し休もうか。」
初めての泳ぎで身体に負担がかかっただろうと判断し、ユナを抱き上げて水から上がる。さて、他の皆は何をしてるのかな?
「おぉ……」
寝てしまったユナをルーチェに任せ、最初に行ったのはアリス達のところだ。3人で仲良く砂遊びをしていた筈、と行ってみると、一瞬唖然としてしまった。
「あ!コレ、どうですか?」
俺の存在に気づいたアリスが、笑顔で作品を指差してそう聞いてくる。
「ああ、凄いぞ」
俺は撫でながら作品に目を向ける
すると、そこには砂の俺達の家、つまり砂で出来た王宮がそびえ立っていた。
何このハイレベルな砂遊び。
しかも空が作品の少し上に小さい雲を作って雪を降らせて幻想的な演出まで施している。
もう一度言おう、何このハイレベルな砂遊び。
そして時は進み太陽が真上に登ったところでアンさんがBBQを用意してくれたのでビーチで昼食を取ることになった。
「死ぬかと思ったよ!!」
「そんなに叫ぶ元気があるなら大丈夫だろ。グレン達を見習え。」
先ほどの大津波に巻き込まれたことにバカが猛抗議してきたが、皿に魚、肉と野菜をバランスよく盛り付けながら一蹴する。
ちなみにユウヤと同じく津波に巻き込まれたグレン達はというと、
「もがもが!」
「うわっ!この肉うめえ!」
「あ~!それ僕のお肉だよグレイ!」
……といった感じに壮絶な肉争奪戦を繰り広げていた。
「まぁまぁイツキの理不尽さは今に始まったことじゃねえだろ?」
なおも食らい付いてくるマリアを皿に肉を大量に乗せたフレイが宥める。そこでようやく釈然としないながらもマリアの怒りは鎮火したようだった。
「あれ?どこ行くんだイツキ。」
「ん、ちょっと用を足しにな。」
俺は呼び止めてきたマリアに適当に返し、ビーチの反対側にある森に歩いて行く。