事情聴取
「全く、流石に呪法はやり過ぎですよ。銀閃さん。」
「わかっている。…俺たって発動させてからあっ、て思ったんだよ。………おっ、目が覚めたか?」
あれから倒れた黒ローブを医務室に運び、レナさんに治療を頼んだついでに説教を受けていた。
あ、レナさんも、とっくに銀閃が俺だと知っているが、ベッドの上に寝かせている黒ローブがいつ目を覚ましてもいいようにあえて銀閃と呼んでもらっている。
「こんにちは、私の言葉がわかりますか?」
目を覚まして上体を起こした黒ローブにレナさんが、笑顔で問いかける。
「……ここは?」
「ここは国立闘技場の医務室ですよ。」
辺りを一度見渡し、そう聞いてくる黒ローブにそう答えるレナさん。
「うん、意識もはっきりしてますし大丈夫ですね。
銀炎に草姫さん、事情聴取は良いですがあまり患者さんに負担はかけないで下さいね?」
レナさんの言葉に「わかってるよ」とぞんざいに返し、腰掛けていたパイプ椅子から立ち上がり黒ローブの前に立つ。
リカも俺と同じように立ち上がり、俺の隣に立った。
「おはよう。銀閃の執行人改め王皇だ。これから俺の名を語った件について、いくつか質問に答えて貰いたい。」
「同じく草姫改め草皇だ。」
俺達は黒ローブにギルドカードを見せてそう名乗る。
俺は名乗るが、まだ一応学生の為、リカは秘匿にするようだ。名乗りはするが妖術で顔を違う人物に変えている。
「……王皇を名乗っていた、名前はセリス。ファミリーネームは捨て子だったため、持っていない。」
俺達のギルドカードを交互に見て淡々とそう素性を話す黒ローブ改めセリス。
名前を言ったところでかぶっていたフードを取り払い、少し乱れた髪を手櫛で整える。
「……学生…?」
セリスの顔を見てそう呟いたのは、最近空気と同化する程度の能力を習得したマリアだ。
セリスの容姿は、肩口で斬り揃えられた白い髪に、まだ若干眠たげに伏せられた黒い双眸、顔立ちは整っていて、聞くと十人が十人美少女と答えるような、俺達と同じくらいの年齢の女の子だった。
「てか今さらっと暗い過去を語ったな。孤児とはどういうことだ?」
「…小さい頃に魔族と人間の忌み子として森に捨てられた。それから孤児院の院長に拾われて育てられた。拾われるまで誰かに妖術を教わっていた。覚えてない。そして今は孤児院から出て、依頼をこなしながら暮らしている。」
「……なるほど、それであんなに妖術と闇属性の扱いが上手かったのか。まあそんなことは置いといて、何で王皇を語った?」
長引かせても仕方がないのでさっさと本題に入る。
「……孤児院が借金のせいで、潰される危機に陥っていると知って、今回の大会の賞金を狙って出た。最強の証の王皇を名乗れば、優勝しても魔族と疑われないと思った。」
なんかこの口調だとワイドショーの犯人の供述を聞いてるみたいだよなぁ、などと失礼なことを思いながらセリスの言葉に耳を傾ける。
「なるほど確かにこの国は孤児院も少ないし、十分な支援も行われてないからな。それにより孤児院が潰れていくという負の循環がある。」
まあ最近は帝国との戦争(一方的な虐殺であったが)があったし、軍備で国家予算が圧迫されてるらしいしな。
「じゃあこんな大会開くなよ」と言いたいところだが、困ったことに長年続く伝統行事なのでおいそれと潰せないんだとか。
国政に融通が聞かないのはどこも同じってことかね?
まあ、俺が口を出すことじゃないが←総帝なら口出せるが……
「しょうがない、土皇に頼んでこの大会の賞金を国の運営に回して貰うか。」
賞金なら多少なりとも足しになるだろう。
もちろん半分以上は孤児院の設営、支援に充てるよう条件は付けるが。
「そうですね。その方がいいでしょう。」
ぶっちゃけもう金を手に入れても大して意味はないしね。
国家予算の数倍の個人資産を持っている。最近は食費ものもの修行部屋で間に合ってるし、てか着々と修行部屋が巨大な農場と化している件について。
「まあ、そういう事情なら今回のことは不問にしておきますか~?」
「そうですね。特に処罰を与えるつもりもありませんでしたし。」
脱線した思考を引き戻しマスターの言葉に頷く
「んじゃ、俺達は帰るから。お前の魔法、中々良かったぞ。これからも精進するんだな。」
そう言って俺はリカとルーチェを連れて転移を発動した。マスターらが残る部屋ではじっとベッドの上から見つめる視線の意味も気づかずに。