皇同士の戦い
《さて、ではどんどんいきましょう!!
次の試合は執行人ペア対ヒート選手チームです!》
グレンの試合の後、しばらく名もなきモブ共の試合が続き、そして俺達の名前が呼ばれた。
<おや、闇皇達のチームですな〜。>
<本当だな。じゃあ今回はどうする?>
<そうだなww、二人でやろうか。〉
<了解だ。>
さて、闇皇には悪いがここで負けて貰おうか。俺達は舞台に降りていった。闘技場に降りた俺は三人の男と向かい合っていた。
一人は赤い髪の筋骨隆々とした30代の男、もう一人は黄色い髪の平均的な体型の30代の男、そして最後の一人は長身で細身の20代のイケメン。
<で、何してんだ?王皇?>
<あ、ばれた?>
審判が形式的にルールの説明をしている間に黄色い髪の男――雷皇から念話が届いた。
<そりゃわかるわ、そっちは草皇だろ?
お前は王皇として出てたんじゃないのか?>
<ああ、それ偽物>
<偽物?よりにもよって王皇を語るとは随分見上げた根性だな、そいつは>
「両者構えて!始め!」
雷皇と念話で会話をしている間にルール説明が終わったのか審判が合図を出す。
<おっと、始まったか。>
<闇皇に伝えとけ、手加減はしてやらんぞ。>
<わかった。じゃあ俺達も全力で闘おう。>
《さて!始まりました。この試合は一瞬で5人を蹴散らした執行人ペアと3人のベテラン魔法使いチームとのバトルです!》
《三人の方はチームワークに注目だね♪》
念話を切ると同時に実況が入った。さて、初めての皇との戦闘か。見せて貰おうか、皇の実力とやらを。
「ふん!!」
まずは雷皇が雷を全身に纏い、真っ直ぐ俺の方に突っ込んでくる。
「む?」
俺は雷属性の呪力を纏い、雷皇の裾を掴んで相殺して、背負い投げをする。
「がはっ!」
そして頭から落ちてきた雷皇の首を足で刈り取る
………別に雷皇だからわざわざ雷を使った訳じゃないぞ。
「ギア!!」
そして崩れ落ちた雷皇の名前を炎皇が呼ぶ。ギアって名前なのか。
「野郎!」
逆上したヒートがグレンと同じく爆脚を使い、超スピードを駆使し、炎を付加した右ストレートを放ってきた。
「がっ……!」
俺はその右ストレートを首を傾けるだけで躱し、ドラゴンフ〇ッシュブローを放ちクロスカウンターのようになり、ヒートを撃ち抜く。
「ヒート!」
《闇魔法》【ダークスラッシュ】【ダークボム】
そして足をふらつかせているヒートにアッパーを叩き込もうとしたが、闇皇が闇刃と超圧縮した闇の塊を放って来たので、刃を後ろに跳んで躱し、闇の塊をリカがライトボールで包みこむ
すると、光の球の中で闇の塊は爆発し、包んでいる光の球を大きく震わせた。
躊躇なく上級魔法を使ってくるあたり本気だな、闇皇は。
しかし地面に倒れてるオッサン二人はだらしねえな
一撃でのされるとは情けない。
《執行人!あれだけの猛攻をなんと体術だけで躱し、カウンターまで放ちました!》
《ギア選手を掴むときに感電しないようさり気なく手に雷の魔力を纏わせてたね。素晴らしい魔力コントロールだ。》
《しかも草姫はなんと初級魔法で上級魔法を無効化するという離れ業までやってのけました!この二人は一体何者なんでしょう!調べようにもこの二人に関する資料が一切ありません!運営しっかり情報集めやがれ!》
いや、運営は悪くないぞ。二日前に作った二つ名だしな。
「ぐっ……痛たた……本当に容赦無いな……」
「いってぇ……なんつう重いパンチだよ、危うくトぶところだったぜ……」
そうこうしている間に雷皇とヒートが打ったところを抑えて立ち上がる。
……一応急所を狙って立てなくなるくらいの力で打ったんだがな…。
「流石に一人では辛いか、二人共。大振りは避けて撹乱しながら闘おう。」
「「ああ!」」
首を数回ゴキゴキと鳴らしてギアは魔武器の双剣を召喚する。
「おいおい……魔武器まで使うのかよ。いくら坊主が強いと言ってもこっちは2人だぜ?」
「お嬢も居るだろうが。使い魔を呼んでも勝てるかわからんぞ。」
「そうですね、殺す気でいかないと傷一つすら与えられないかもしれません。」
流石に2人は冷静だな
ギアに引き続き、ヒートは巨大な斧を、闇皇はシミターを召喚する。
ふむ、たまにはチート能力に頼らずに戦ってみるか。あんまりチートに頼ると勘が鈍りそうだ。
《魔武器を取り出した三人に対して執行人も武器を取り出しました!……あれは魔武器ではありませんね?》
《うん、あれは東国の近衛隊に支給される刀だね。無銘だけど使いやすさには定評があるよ。》
《しかし魔武器は使わないんでしょうか?
魔武器と普通の剣では能力云々の前に強度からして違うのでは?》
そうだな、妖力を一時的に全部封印して、身体能力を地球にいた頃まで落として、全能力を封印して…実力はそのままにしてと。
「おいイツキ?妖力が感じられなくなったんだが?」
俺から一切の妖力を感じられなくなったからかリカが訝しげに聞いてくる。
「大丈夫だ。……ただこれから殆どの能力を封印して戦うので受けたら死ぬレベルの攻撃だけ防いでくれ。」
「了解だ。」
よし、準備万端!
……にしてもチート能力を封印するとやけに体が重く感じるな、これは早く感覚を戻さないと。
「行くぜ!」
まず最初に動いたのはヒート。
巨大な斧に炎を灯し、爆脚で突っ込んでくる。
「残念、こっちには俺だ」
俺は右にステップを踏んでヒートが振り下ろす戦斧をギリギリ躱す。
しかし避けた先にはギアが双剣を構えていた。
《天音神楽》【流水の舞】
俺は慌てずにギアが雷の身体強化をして超スピードで振るってくる双剣を右手に持つ刀で受け流し、ギアの腕と体の間を音もなく擦り抜ける。
「……は?」
ギアが素っ頓狂な声を上げるがそれもそうだろう。
ギアからしたら切った筈の俺が何時の間にか背後をとったように感じた筈だ。今のは代々受け継がれている神楽を戦闘用に改良したものである。【流水の舞】という回避の為の技だ。この技は攻撃を放った本人すら感知できないほど絶妙な力で受け、いなし、死角から回避するという技。凄まじく神経を使う繊細な技なので正直やりたくない技の一つでもある。
「何をしたか解りませんが、敵は二人だけではありませんよ。」
闇皇がシミターを横に振り抜いてくる。
《天音神楽》【来風の太刀・辻風】
「うっ…!」
迫りくるシミターを流水で躱し、躱しざまの一瞬で闇皇の胴を数回斬り付ける。
今のは流水に数回の斬撃を追加したカウンター技だ。
ちょっと浅かったかな?
「ネス!!」
「大丈夫です!!それよりも攻撃を!」
「了解!」
闇皇は気遣わし気に声をかけるヒート達に鋭く声を飛ばし、すぐにヒートが、俺にファイアボールを数十飛ばしながら戦斧を担いで迫ってくる。
《天音神楽》【大雲の太刀・行雲】
俺は、先行して飛んでくる火の玉達をステップを踏みながら、最小限の動きで躱しつつ、ヒートに近づいていく。
「オラァ!」
《炎魔法》【エクスプロードスラッシュ】
ヒートは俺が間合いに入ったことから、戦斧を先ほどのグレンの様に爆発を利用して加速しながら振り下ろしてくる。
だがその爆発が単発だったグレンとは違い連鎖的に巻き起こり、加わる加速度はグレンのそれと比べる迄もない。
流石に今の身体能力の流水で受け流せる威力の攻撃では無いので、回避は諦めて迎撃の体勢に移る。
《天音神楽》【雷業の太刀・烈雷】
断頭台の如く落ちてくる戦斧の刃先の奥の僅から隙間から覗く柄と刃の接合部に全力の突きを打ち込む。
「おわっ!?」
すると、ヒートの魔武器の斧は突きが当たったところから綺麗に折れてしまった。
そして俺が持っていた刀も刀身全体に罅が広がり、ボロボロと崩れ落ちてしまった。
「ヒート!」
「何……?」
「まず一人。」
《天音流体術》【五連掌】【飛輪脚】
魔武器を破壊されたことに呆然としているヒートの顎に、左手で釘パ〇チよろしく掌底を5連続で叩き込み、腹部に蹴りを入れる。
「ぐ……」
腹部を強く蹴られ、脳を揺らされたヒートは、今度こそ意識を手放し崩れ落ちた。
《な…なんと!銀閃の執行人!何の変哲も無い剣一本で3人の猛攻を掻い潜り、魔武器を破壊して一人を無傷で撃破してしまいました!!》
《…無傷、ねぇ………》
《?…どうかしましたか?》
《いや、何でもないよ♪》
……学園長には気付かれたようだな。
「イツキ〜大丈夫か?」
《回復魔法》【リカバリーライト】
「リカ、サンキュー。」
何時の間にか隣に来ていたリカが俺の右腕に光の回復魔法をかけてくれる。
「あまり無理をしたら。妖力も使わずに戦うなんて、この世界では無茶もいいところだ。」
だろうな。地球の人間の身体能力でクレーターを作る一撃を止めるなんて無理、無茶、無軌道がモットーの黒ビーターもやろうとは思わないだろう。
事実やったら右腕の骨が粉砕骨折したし。
久しぶりに涙が浮かびそうな痛みを感じたよ……
「とりあえずこの試合が終わったら全部の封印を解除して治療しろよな~。
さっき心を読んだら凄まじい痛みだったぜw~。草失ってたぜ。」
呆れたようにリカが言う。
「はぁ、そうです…かっ!!」
話している途中に斬り掛かってきたギアの剣を横っ腹を蹴り飛ばして軌道を変える。見るとリカも闇皇のシミターを防いでいた。リカはオプションワークスである細身の長剣で防いでいた。
「チッ、戦闘に関する勘は鋭いな。」
焦るギアが悪態を吐いてくる。
「ヒートがあっさりやられたのは予想外だったが、それでも右腕が使えなくなったのは僥幸だな。」
「右腕くらい大した問題じゃない。私には右腕以上に頼れるパートナーが居るからな。」
俺がそう言うと同時に後ろからが闇皇が吹き飛んできてギアとぶつかった。
「ケホッ…これは予想外でした……まさかこれほどとは……」
そう言って闇皇が見つめる先には、長剣を構えたリカがいた。
《閃光流》【飛刃 白翼黒閃】
リカは長剣に黒い光属性の魔力を籠め、大上段に構える。
《閃光流》【一式 千羽黒刃】
そして長剣を振り下ろす。
すると、闇皇とギアに千本の黒い刃が襲い掛かり、二人を黒の斬撃の奔流が飲み込んだ。
黒の斬撃の奔流が収まるとそこには横たわった二人の姿があった。
「……少々やり過ぎたかね~?」
ピクリとも動かない二人をみてそう呟くリカ
……大丈夫だろ、俺の雷とブローに耐えたんだし…………あ、動いた。うん、ギリギリ生きてるな。
「そこまで!銀閃ペアの勝利!!」
審判が三人の様子を一度確認し、俺達の勝利判定を下した。
《決まったぁぁぁ!ヒート選手率いる三人グループも善戦しましたが銀閃と草姫の圧倒的な力の前に力尽きました!
担架は三人を回収して医療班は治療に入ってください!》
ネルがそう言った瞬間二人の男が大きめの担架を持って闘技場に入って来て、さっさと三人を担架に載せて医務室に入って行った。
マリアが少しぼやいていたが、気にしないことにして俺達は選手控え室に戻ることにした。
………あいつらは暇なんだろうか?
コウガはともかくマリアはそこそこ出番があると思うんだが。