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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人生で一度だけテレポーテーションが使えるおじさん

作者: ヒロモト

どうしようもねぇ奴だなぁと思う。


「何度も言わせんなよぉ。俺は税金も年金も納めたことねぇから国の世話にはならねぇ。ここでの垂れ死ぬのが運命だよぉ」


こいつは神社の軒下に住み着いたホームレスの志村けん。

まぁ志村けんってのは偽名だろうが顔はかなり似ている。

俺は何となくこいつが気になってしまって、こいつの為に飯を作ったり布団をあげたり時には酒を一緒に飲んだりしていた。

俺だって小さな居酒屋の親父ったって暇じゃねぇんだがなぁ。


でも見つけちまったからには放って置けない。

『生活保護を受けろ病院行け家借りろ。保証人ぐらいなってやる』

俺の提案は全部無視だ。


「税金は国民のために使うもんだ。俺に使ってほしくね。それよりテレポーテーションの話は考えてくれたかよぉ?何に使えばいいと思う?」


「……テレポーテーションねぇ」


こいつは「人生で一度だけテレポーテーションを使える」と言って聞かない。

志村けんを名乗る神社に住むホームレスの言うことなんて信じられるかよ。


「なぁんに使おうかなぁと思ってたらもう50よ」


「ああ。お前同い年なのかぁ」


「そうなのか?あー俺の人生糞!糞よ!」


まーた始まったよ。自分には両親がいなかった~友達も恋人もいなかっただのくらーい話だ。


「まぁ晩年になって俺って友達が1人出来たからいーじゃねーか」


と俺が言うと志村けんは目を丸くして俺を見た。


「なんだい?俺らは友達か?」


「別に友達でいいさ」


本名も知らないし薄汚いホームレスだが悪いやつじゃないし話も面白い。

別に友達で問題ない。


「友達かー。初めて出来たよ。悪くないな。おうお前。どこか行きたい所あったら言ってくれ。俺がテレポーテーションっで連れてってやる。友達だからな。そうか人に使うってのもありだなぁ」


「一生に一度しか使えないんだろ?大切に使えよ。それに海外に行きたくなっても帰って来られなかったらたまんねぇよ」


「あー。そりゃそうかぁ」


なんて話をしながら神社の賽銭箱カウンター代わりに俺たちは酒を飲んだ。



「もう手術も出来ねぇかぁ」


何か実感わかねぇや。俺。余命半年かよ。

癌ってのは怖いなぁ。もっと健康診断行けばよかった。一生懸命働いて働いて待ってた人生のオチがこれかよ。

泣きたくなるが客の前で泣くわけにはいかんわな。




ある新規の客がやって来ると客がざわつきはじめた。嫁が警察を呼ぼうかと俺に言う。俺はまあまぁとなだめてやって来た客をカウンターに座らせた。

客は志村けんだった。

髪は腰まで伸びてるし髭もほうぼう。

服はボロボロ何より臭い。そりゃざわつく。


「悪いなぁ。俺なんかが店に来ちゃって。ところでお前死ぬのか?」


「……バカ。まぁな死ぬよ」


「死にたくないか?」


「そりゃあよ」


癌の事はこいつにしか話していない。焼酎を一杯置いてやった。

志村けんはそれを一気に飲み干して席をたつ。


「もう帰るのかよ?」


「うん。最期にな。会っときたかった」


「最期?」


「テレポーテーションの使い道さ。決めたよ。じゃあな。俺の最初で最期の友よ。貰っとくぜ」


「貰っとくぜ?」


この日から志村けんはこの町から消えた。





次に志村けんに会ったのは遺体安置室でだった。

志村けんの本名は仲本長介。

こいつは本当にテレポーテーションが使えたのかもしれない。

だって志村けんが消えてから俺から癌が消えて志村けんは半年後に死んだんだから。

バカだなぁ。自分の体に移すことねぇじゃねぇか。


嫁は猛反対したが、けんの葬式は俺がする事にした。


「何でよ!?」と怒る嫁に俺はこう言った。


「そりゃあ友達だからよ」






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