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未開惑星保護機構  作者: 工事帽
1.勇者捜索隊
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2.商品のないお店

 人類が宇宙に進出してから幾千年。

 それは地球という惑星が神話のように語られるほどの時間をへて、多くの星に移住を果たした頃。

 その時、人類には、地球にあった頃の人類とは大きく異なる生態系を築きつつあった。


 それは亜人と呼ばれた。


 惑星移住を進める中で多くの困難が立ちふさがった。

 それに対応するべく、人類はテラフォーミング技術により人類が住める惑星環境に作り替えていったが、それだけでは不足していた。


 空気の成分の違い、水に溶け込む要素の違い、地表に届く光のスペクトルからその地で育つ動植物の種類まで。

 人類は持ち込んだ植物を植え、水をろ過し、その都市をエネルギーフィールドで覆った。それでも、かつて人類が生まれ育った地球と、まったく同じ環境にすることは叶わなかった。正確にいえば、同じ環境にするためには時間がかかりすぎた。


 そして人類が取った手段は自分たち、人類の進化。


 進化を加速するために、遺伝子の書き換えも含めた数々の実験が行われ、多くの惑星で居住可能な幾多の亜人が生まれた。

 エルフ、ドワーフ、ハーフリング、ワーウルフ、ブラウニー、ハーピー、セイレーン、オーク、トロール、オーガ。

 あらゆる神話、伝承、物語から名前を取った多くの亜人が誕生た。旧来の人類を凌駕する能力を駆使して、人と亜人は多くの惑星にその版図を広げていった。


 宇宙に適応した進化と、数々の入植惑星の増加。それは後の世に大開拓時代と称されるに相応しいものであった。

 しかし、それには相応の代償が存在した。いや、正確には、道を誤ったのだ。


 急な拡張による流通、通信経路のインフラ整備の不備。急激な進化による意図しない変化。理性を失った亜人達。


 魔物の誕生であった。


 中央から遠く離れた惑星では、流通も通信もたった一つの経路に頼っている所も多かった。その唯一の経路で発生した魔物の氾濫は、辺境の惑星を孤立させた。


 そして、通信の途絶した惑星開拓でも発生する、理性を失った魔物の氾濫。入植していた人々は魔物に襲われ、人も機材も失われていった。

 助けを呼ぼうにも通信経路は失われ、壊れた機材の修理部品は補給の当てもない。


 数十年。そう、中央からの連絡もなく、孤立したままの数十年。


 なぜ数十年も助けが来ないのかは惑星に降りた人々には分からない。

 経路の確保に時間がかかっているのかもしれない、中央でも魔獣が発生したのかもしれない、そもそも助ける気がないのかもしれない。


 開拓者達は不安を抱えながらも、持ち込んだ植物を植え、空気の成分を自分達に合うように作り替えた。太陽光から、地熱からエネルギーを取り出し、自分たちの生きるための場所を開拓していく。

 その数十年の中で、通信機や移動手段はさらに失われていく。

 惑星内には開拓者達の都市が点在するも、交流が途絶えていった。


 そしてさらに数十年後、中央からの通信は回復したが、それを受け取るための通信機はすでに稼働していなかった。

 その結果から中央は開拓民は壊滅状態にあると判断、他の通信可能な惑星における救助の優先を決定した。


 その惑星に住む開拓者たちは見捨てられたのだ。


「これらの事件から千年を経て、遺伝子改良技術の安定が確信されるに至って、中央政府は惑星開拓の再開を決定。その先ぶれとして各地に調査団を派遣したところ、開拓隊が壊滅したとされていた、幾つかの惑星においてその子孫と思われる人々を発見。中央政府は偉大な開拓者達に敬意を表し、それらの惑星を新たな文明、未開惑星と定め、これへの干渉を禁止した」


 本を片手にぶつぶつと呟く男。

 その大きな体に比べ、手に持った本は小さく、その身を包む鎧のような筋肉とも相まってミニチュアの本を持っているように見える。


 部屋の片隅に置かれた椅子に腰かけ、テーブルの上に肘を載せて本を片手にぶつぶつと。


「なにブツブツ言ってるんだよ。ただでさえお前のガタイのせいで店が狭いってのに、気味まで悪いとか冗談じゃねぇぞ」


 棚にハタキを掛けていた少女が、手を止めて声を掛ける。なぜかダボダボの服を着ている少女。その服のせいで、体の小ささが強調されて見える。

 金髪のツインテールを揺らしながらハタキを掛ける姿は可憐なのに、その妖精のような小さな口から零れる言葉は汚い。


 本を持っつ大男に文句をいうものの、そこにはハタキを持った少女と男の二人しかいない。実際のところ、店が狭い、というほどのこともないのだ。


 男は茶色の革製の服を着て、店内に一つだけある小さなテーブルの前に座っている。体の大きさだけなら威圧感を感じてもおかしくない大きさだが、地味な服のせいか、それとも穏やかな顔のせいか、随分と大人しく見える。


「しょうがないでしょう。もうすぐ更新試験があるんですから」


 そう言って、本を置き目頭を押さえる。

 どうも好きでブツブツ言っていたわけではなさそうだ。

 少女は店の掃除を諦めて、ハタキを持ったままテーブルの向かいに座る。


「だから店でやるんじゃねぇよ。本を読むんなら外でも、宿の部屋でもいいじゃねぇか」

「しょうがないじゃないですか、この本、現地人に見られるわけにはいかないんですから」


 そういう大男の持つ本に書かかれたタイトルは『未開惑星保護における条約及び行動規範』。

 中身は歴史的な流れと現在の条約。それに伴う実例として裁判の判例、証拠として採用されたものの例。過去の事件における保護官の行動と結果。事故が起きた場合の対処方など。

 つまりは保護官用の教科書である。


「宿の部屋ったって2人部屋ですし、そいつは何も知らない現地人です。見られる訳にはいかないんですよ」

「なんだってまた2人部屋にしたんだよ」

「ずっとそうですよ、護衛なんで。雇い主の意向ってやつです」

「マジかよ。労働者の権利とかどうなってんだよ」

「ないですよそんなもの、この惑星には。全員で雑魚寝じゃないだけマシなほうです」


 少女は頭を振りながら「マジかー」とつぶやく。ツインテールの金髪が、頭の動きに合わせてゆっくりと揺れる。そんなことになってたとは。帰った後に俺が処罰されるんじゃねーだろうな。などと思いながら。


「宿がダメなのは分かったけどよ。ここは店で、いつお客が入ってくるか分からない。ってのは認識してるか?」


 一応、言うだけ言ってみた。という感じで言葉を投げ出す少女に返ってきたのは無情な言葉だった。


「店っていうのは、商品を売ってる所のことをいうんですよ」


 さっきまでハタキを掛けていた陳列棚はおろか、店の中には商品と言えるものは何もない。店だとしても何の店なのかさっぱり分からないほど、清々しく何もない。

 それは、この店が物ではなくサービスを提供する店、ということでもなく、たんに売る物が何も残っていないだけだ。


 いつもはここまでではない。多少なりとも魔物の素材がおいてあったり、薬や布などの日用品があったりする。しかし今は何もない。

 魔物の素材は今日きた商人が引き取って行った所で、それ以外は品切れだ。


 これも一重に店主でもある少女の、見積もりの甘さの結果である。専業の商店なら販売機会損失だの、顧客の信頼だの、言葉をどう選ぶかはさておき、売るものがなければ売り上げもないわけで、割りと致命的ではある。先ほどハタキを掛けていた通り、本人は特に焦っている様子もない。

 それもそのはず、店主にとってはこの店は隠れ蓑であり、店の売り上げも客の有無も関係ないからだ。


「商品なら売っただろう、お前が雇われてる商人に」

「それ以外にも日用雑貨とかあるでしょうに」

「そっちは発注済み。納品待ちだ」

「発注したのもさっきじゃないですか」

「……なんでその日のうちに届かないんだろうな」


 店主が無茶を言う。

 ここは街から二日かかる距離にある。注文した商人が街まで行って、すぐに商品を仕入れて来てくれたところで、往復四日。それまで日用品は欠品である。


「中央じゃないんですから」


 そんな話をする彼らは、この星の生まれではない。

 仕事の配属先としてこの惑星に来ているだけの立場である。星の文明度については多少思うところはあるらしい。


 一仕事終えたあとの、余裕のあるときには。

 特に、勇者ごっこで惑星を荒らし回る容疑者を逮捕するという、ここ数カ月の仕事が終わった翌日などには。


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