21.真実
20年前、ガルシア国の側室が産んだのは男の双子だった。
兄はプラチナブロンドと紫の瞳の王色を纏い、弟は大きな魔力を身体から迸らせていた。
忌み子とされ処分される最悪の未来を案じた母親は、幼なじみのレイモンドに双子の弟を託した。
その頃のレイモンドは、規格外の魔力を持ちながらも王宮を毛嫌いし、国内を点々としていた。
レイモンドは、妹の嫁ぎ先であった辺境にある伯爵の元に赤ん坊を預けることにした。
子供のいなかった妹夫婦は喜び、愛情を注いだ。
そして、レイモンド自らも付き添い、魔力の指導を行った。
それから9年後、伯爵夫妻とレイモンドの保護の下、すくすくと育った赤子は、少々引っ込み思案ではあるが、利発な少年に成長していた。
しかし、王宮で勃発した連続暗殺事件により、彼の生活は一変する。
命を狙われた第三王子である兄の身代わりを命じられたのだ。
髪色と瞳の色を魔術で王色に変え、侍従に扮したレイモンドと用意された馬車に乗り込んだ。
途中、身を隠すためにプール帝国に向かう兄と入れ替わり、現れた追っ手から逃げながら山岳地帯の厳しい山道を進んだ。
切り立つ崖の上に走る道に差し掛かった時、後ろを走る馬車より矢が放たれた。
矢は馬車のタイヤに命中し、矢を巻き込んだタイヤは軋み、馬車はバランスを崩した。
果たして、少年と魔道士の乗せた馬車は、下も見えない崖下へと落下していった。
カリーナはその場面を想像して呼吸が苦しくなり、思わず胸を押さえた。
「上空から見えなくなる所まで落ちてから浮遊魔術を使ったんですよ。あの子は馬担当だった。中々旨くやった」
飄々と語るレイモンドを少し恨めしそうに見ながら、カリーナは呼吸を整えた。
「そのまま、隠れ里に向かったのですね」
レイモンドは頷いて、お茶のお代わりを勧めた。
後ろの机の上にあった木箱が開いてクッキーが飛び出し、隣の部屋から漂ってきたプレートの上に乗った。
カリーナの目の前で湯気を立てるカップの隣に、クッキーを乗せたプレートが着地した。
カリーナはもう驚かなかった。
お礼を言いながらクッキーを摘まんだ。
「正直、あの出来事であの子は相当傷ついていると思っていたし、育ての親とも離された生活には、私も不安が大きかったんですが…」
予想に反して、慣れない家事も意欲的にこなし、生き生きと過ごす様子を見て、内心驚いていたという。
「貴女の存在が大きかったと思います」
カリーナは過去に思いを馳せた。
私にとってもそうだ。
彼は、あの日々は、私の支えだった。そして、帰国した後もその思い出はずっとカリーナの心の拠り所だったのだ。
「貴女と離れてからのあの子は、余り笑わなくなってしまった。本心をずっと隠しているように見える。私に対しても同様です。それどころか避けられている」
レイモンドは寂しそうに笑う。
「その代わりと言うべきなのか、学問と鍛練に没頭し、いつの間にか隣に並ぶべき者がないほどの騎士となりましたが」
カリーナは唇を噛んで俯いた。
「お別れの時、私は笑うことも泣くこともできなかった。そうしなければならないと思っていたの」
あの時のことを思い出すと自然と涙が込み上げる。
「それで良いのです。貴女はあの子より少しばかり大人だったのでしょう」
レイモンドは優しく微笑んだ。
「私はね、今でも良く思い出すのです。手を繋いで笑いあっている貴方達の姿を。とても純粋で美しい光景だ。それと同時に強く胸が痛む。それを、大人の事情で引き裂いてしまったことを深く悔やむのです」
カリーナは涙を拭いながら言葉を絞り出す。
「だって、それは、仕方がないことだわ。貴方が気に病むことではないのに」
レイモンドはテーブルの向こうから手を伸ばし、カリーナの頭を撫でた。
「私もジュード様も、あの子の兄も、きっと貴女の兄上も、同じように悔やんでいるでしょう。そして、貴方達の幸せを心から願っている」
レイモンドは、カリーナの手を取って握りしめた。
「私達はもう何も強制しない。ですから、カリーナ様、貴女の望む幸せを掴むことに躊躇しないで下さい」




