第二話 そんな事務的な仕事なのかい?
ディサロサは驚きを隠さずにいた。
彼女は今まで多くの魂を異世界へ転生させてきた実績のある転生神である。ある者はその世界での勇者に、またある者はその世界の文明を発達させた功労者として名を刻んでいる。
その中でも転生という仕組みに疑問を抱く者は少なくはなかった。しかし転生してみれば全てではないが誰もが良い世界だと口にする。
だが…
「俺は異世界転生しない!!」
こうもハッキリ宣言したのは初めてのケースだった。
「えっ…本気で言ってます?転生しない…?」
「するかボケ。良いから俺を元の世界に戻せ。一刻も早く、今すぐに」
彼女の目の前で座り込む40代初老の男性相模和也はその眼に怒りを宿らせていた。本人が怒るのも無理はない。本来死ぬべき人間ではなかったからだ。
「先も言った通りここに来た魂は元の世界に戻ることは出来ません」
「勘違いで殺しといてよく言うよ」
和也の苛立ちは頂点に達していた。
「それに、アンタ本当に神様か?俺にはただの変態女にしか見えないね。第一これも全部テレビのドッキリなんじゃねぇか?」
流石の女神もここまで言われたら怒る。ディサロサに和也の命を奪う意思が有ればとっくに魂ごと消滅していた事だろう。
「良いでしょう!ならば証拠をお見せします!」
ディサロサは空中に杖を出現させる。
「スキルチャート解放、第八女神スキル遡行を使用を宣言。スキルレベルは対象への影響を考慮し1に設定」
「術式発動!肉体遡行!ヤング・ディストーション!!」
次の瞬間和也に特大級の雷が落ちる。それを見事に和也を捉えてその衝撃で3メートル程後方に転がる。
「っ!!…なに…しやがる」
「何って…女神の力を示しただけですが?これも全部貴方か望んだ事なのですから」
和也は痛む体を無理やり起こしその脚に自らを襲う理不尽への怒りを込めながらディサロサとの距離を詰める。
「俺が望んだのは元の世界に帰る事だ!!痛めつけられる事じゃねぇ!」
その瞬間、和也は自分の変化に気づく。
身体が軽い。視界がスッキリしている。喫煙の影響からくる息苦しさも無い。その不可解な状態は自分の怒りを吹き飛ばす程だった。
「言ったでしょう…女神の力を見せるって」
ディサロサは和也の目の前に鏡を出現させそれを見た和也は驚愕する。
「なんてこった…若返ってやがる…!」
鏡に映るのは40代初老の男性相模和也ではなく16歳程の少年相模和也であった。
「こんな事、リアルじゃあり得ないでしょ?」
「た…確かに…」
「じゃあ女神の力を信じた所で…異世界転生しましょうか」
「それは断る」
和也の意思は固かった。
「なんで!?」
「だから言っただろ。俺は元の世界に戻りたいんだって。その要求が飲まれるまではずっとここにいてやる」
「そんな…私の完璧な転生業績に傷つけるつもりですか!?」
「知るか!大体なんだ業績って神様ってのは雇われなのか?」
和也はあいも変わらず座り込む。意地でもここを動かないというオーラを醸し出している。
そんな時鐘の音が遠くから聞こえてきた。
「ん?なんだ?」
「あー…次の魂来ちゃったか…こんな事初めてですよ…」
ドサっという音と共に眼鏡をかけたいかにもオタク風な大学生ぐらいの若者が落ちてきた。ディサロサはその若者に優しく声をかける。
「ようこそ人の子よ…」
「あ…貴女は…?」
「私は転生神ディサロサ…」
と和也がここに来た時と同じようなやり取りを行う。違う点はその若者が転生という非常識な事態をすんなり受け入れている事だ。そして若者はディサロサが提示するスキルを選ぶとフッと消えていった。
「貴方に良き日々が訪れますように…」
「おい…あの若い子に何やったんだ?」
「まだ理解出来てないようですね…アレが転生なのですよ」
「あんな簡単に出来るもんなのかよ」
「えぇ、私の手にかかればね」