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第一話 勘違いが許されるのは漫才の中だけ

プロローグ読まなくても楽しめると思います。でも読んでもらえたら嬉しいです。

相模和也が目を覚ますとそこは見たこともないような不思議な空間だった。

そこは一面白い床で覆われており遮るような物はない。さらに開放感を後押ししてくるかのように天井などは無く青い空が広がっている。

「なんだここは…」

「目が覚めたようですね。人の子よ」

背後から足音と共に声が聞こえてきた。和也は咄嗟に振り返る。そこには指を引っかかれば取れてしまいそうな水着の様な衣類の上に白いコートを着た女性がいた。しかも乳房は頭と同じ程の大きさを誇っている。だが和也はそんなことに目もくれず疑問をぶつける。

「ここは何処だ!!アンタは一体誰なんだ!」

「答えましょう…ここは転生界。地上でその生命を全うした魂が訪れる終着点であり同時に始まりの場所でもあります」

そしてその手を自らの胸に当てその女性は自身の名前を告げた。その声は優しげであらながらもどこか無機質なものであった。

「我が名はディサロサ、又の名を転生神」

「転生神…だって?…いや!それよりも今俺はどう言う状況なんだ!地上で生命を全うしたと言ったな!と言うことは…」

和也の脳内に最悪な事実が過ぎる。あの時発狂した男に刺され、そこで意識が途切れた。もしあの後病院に運ばれたのなら目覚めた時に見るのは病室の白い天井のはずだ。だがここには天井は無く清々しい程に青い空が広がっていた。

「俺は…死んだのか?」

「えぇ、その通りです。ですが貴方には新たなる道が開かれる事になります」

「新たなる道…もしかして異世界転生か?」

「あら、随分と理解が早いですね。もしかして経験者でしたか?」

「いや、未経験だけど仕事の都合でね…しかし本当にあったんだな…」

「えぇ…私もどこから地上に広がっていったのか…まぁいいでしょう。本題に入りましょう」

ディサロサは両手を広げると辺りに眼で追い切れないほどの文字列や数字を出現させる。

「貴方はこれから異世界に転生する事になります。その際、貴方の生前の行いから総合点を算出しそれを魔素…貴方の世界ではSPと言った方がわかりやすいでしょうか…それに変換します…」

(SP…スキルポイントか…!略さず言って欲しいな…)

和也は小言を挟みたくなるがここはぐっと堪える。

「そして、そのSPを元に貴方はここにあるスキルからいくつか選んでもらいます。これは転生した後、貴方を助ける大いなる力になるでしょう」

地面にまた数え切れないほどの図形が浮かぶ。

(あー…チカチカする。40歳の眼球にはきついぞこれ…)

「では工藤和義よ…好きなスキルを選びなさい」

(ん?)

ディサロサは突然知りもしない人物の名前を挙げた。和也の知り合いにそんな人間はいない。忘れているだけかもしれないがもしそうだとしても何故今この状況でその名前が出てくるか謎である。その時、最悪な想像をしてしまった。

「どうしたのですか?工藤和義、緊張しているのですか?」

相手は神だ…こんな事するとは思えない。

だが神話や伝承に於いて神は常に正常で高等な存在とは思えない。時に俗物的に、人間より人間らしい一面を見せる事がある。

「ディサロサ様…もし間違ってたら申し訳ないが…」

今恐るべきは神の怒りに触れることでは無い。

「俺は相模和也だ…誰だその工藤和義ってやつは…」


「えっ?」

ディサロサはさっきまで絵画の女神らしく閉じていた眼をパッと開く。本人も驚いている。和也は自分の疑念を確信に変える質問をする。

「もしかして…俺を工藤和義と勘違いして無いか?」

「…」

二人の間に沈黙が流れる。和也は(既に終了してしまっているが)人生で最も恐ろしい時間を体験している。

しばらくしてディサロサが口を開く。

「ち…違うの…?」

「違う、和の字しか合ってない」

「まって、ちょっとまって今確認とるから」

ディサロサは駆け足で何処かへ走って行き消えていった。



しばらくしてディサロサが俯いて帰ってきた。

「え…と…相模和也さん?でしたよね…」

「神様なのに何度も確認するんだな…そうだ、俺が相模和也だ」

「…誠に申し訳無いのですが…実は…こちらでミスがありまして…」

ディサロサは詳細を語り出した。

本来あの交差点で発狂男に刺されて死ぬはずだった工藤和義は和也の近くにいたらしい。だがその時工藤和義は同僚に誘われる形で近くの居酒屋に入っていった。その為消去法でちょうど近くでかつ背格好が似ている和也が成り代わる形で死ぬ羽目になったのだと言う。

「と言うわけですけども…納得して頂けましたか?」

「…」

「あ…あの、巣鴨さん?」

「相模だ。二度と間違えるなボケ」

和也の声には今にも溢れんばかりの怒りが篭っている。

「あの…お詫びと言ってはなんですが貴方には転生の際最高のステータスと最高のスキルを差し上げたく思いますが…」

「いらねぇよ」

「えっ…でも貴方のSPは1200ポイントで…これではせいぜい基礎的なスキル全部取れるか取れないかですよ?良いんですか?」

初めてあった時とは比べものにならないくらい低姿勢なディサロサ。かつて溢れ出ていた神秘性は何処かへ飛んでいったかのようだった。

「誰が転生するって言った?ふざけるな!!」

「ひゃっ!?」

和也はディサロサに掴みかかる。初めての体験なのか女神とは思えないような素っ頓狂な声を上げる。

「俺を元の世界に戻せ!今すぐ!!勘違いで死にましただぁ?納得できるかこの野郎!!」

「す…すいません。それは出来ないんです…。一度転生界に訪れた人間はもう二度と元の世界に戻れないんです…!」

「なんだと…!こっちには家族がいるんだよ!仕事だってあるんだよ!まだまだやり残した事もあるんだよ!」

「うぅ…」

ディサロサは今にも泣き出しそうな顔をしている。神の威厳など存在してたかすら怪しくなってきた。

「いいよ…わかったよ…」

和也はディサロサをそっと離す。


「じゃあ俺は転生しない!」

和也はその場で座り込む。その眼には強い決意の意思が宿っていた。

「俺を元の世界に戻すまでここに居座ってやる!!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!???」

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