2話 怪盗カナ
私は世紀の大怪盗で幻の宝石を頂くの。
その時。スポットライトの眩しい光が私を照らす。
「そこまでだな。怪盗カナ」
先輩――加賀刑事は私に銃口を向ける。
「さぁ盗んだ宝石を返してもらおうか」
「あら、刑事さん、貴方だって、盗んだじゃないですか」
加賀刑事はキョトンとする。
「何をだ?」
「惚けないでください」
私は投げキッスを送って言うの。
「それはーー私のハートです」
その直後私は胸の谷間から(ほんとは無いけど)叩き付ける。
「取り返しに、いきますから!」
ヘリコプターに掛けられたはしごに掴まった私は、大きな声でお決まりの決め台詞を言うのだ。
カッコイイ刑事は不敵に笑って答えるの。
「取れる物なら、取ってみな」
……うふふ。このシチュエーションもいいなぁ……。
「――川島」
「は、はい!」
突然名前を呼ばれてビックリする。
「どうした? 次は川島の番だぞ」
加賀刑事、じゃなかった。先輩はスターターピストルを上空に構えていた。
いけないいけない。また私妄想しちゃった。
加賀先輩はふわっと笑って、「変わったやつ」と言った。
顔が熱い。先輩に変わった人と思われるのも恥ずかしいし、その笑顔があんまりにも素敵だった事が、また私の顔を熱くする。結局この日はピストルを構える加賀先輩に見とれて、全然良い記録が出なかった。
部活が終わり、着替えた私は夕焼けを眺めながら帰り道を歩く。なぎさちゃんは、野球部のマネージャーで帰りの時間が合わなくて、最近はいつも私一人で帰るのだ。あれだけいた女の子達は、練習の厳しさか、半分以上辞めてしまった。
ちょっと寂しい。……あーあ、加賀先輩に変な人って思われちゃったかな……。
「川島」
突然名前を呼ばれた。
振り返るとそこには、自転車に乗った加賀先輩がいた。
「か、加賀先輩……! あれ、先輩って帰り道こっちでしたっけ?」
私はあたふたしながら尋ねる。
「……ああ、大体、寄り道しに駅の方に行くから」
「そ、そうでしたか……」
帰り道が同じだったという事実に、私は先ほどの憂鬱は吹き飛び、たちまち嬉しい気持ちになる。
私は、とにかく先輩の事を知りたいのだ。
先輩は自転車を降りて、自転車をひいて隣に並んでくれた。なんだかとてもエレガントな動作で、私は感動する。
「明日、やっと休みですね〜。先輩は休日何かする予定はありますか?」
部活は明日はお休みだ。数ある部活の中でも、多分1番ハードなので、休日は純粋に嬉しい。
そう質問してみると、先輩は。表情はあんまり変わらないけれどどこか、嬉しそうに言った。
「俺は明日、ライブを見に行くよ」
「えっなんのライブですか!?」
先輩の音楽の趣味が分かる。
私は心の中で今度は名探偵になった気分で尋ねた。
しかし加賀先輩は少し困った様に笑い、
「凄くマイナーだから、知らないと思う」
と、曖昧に答えた。私は食い下がる。
「いえいえ、私、音楽が好きでなんでも聴くんですよ! 良かったら私も一緒に行っていいですか?」
これは、チャンスだ。私の好きな少女漫画には、恋に遠慮なんていらない。憧れの人を勝ち取るのだ。と書いてあった。
私はその教えに従おうと思う。
「チケットは当日販売だから別に構わないけど……女の子向けではないぞ? それでも良いなら」
「ほんとですか!? じゃあ明日一緒に行きましょう!」
やった。これはどう考えてもデートだよね?
加賀先輩は私を見てくすりと笑った。口を手で隠す所が、凄く上品でかっこいい。
「前から思ってたけど、川島ってなんか、面白いね」
「そうですか? あははは!」
面白いと言う言葉は、私の脳内では、褒め言葉に変換された。今の私は、どんな言葉でも前向きに考えると思う。
「じゃ、明日の9時、この場所で」
先輩は颯爽と自転車に乗り、過ぎ去っていった。
こうして、私はデートの約束を手に入れた。
やりましたよ、先生!
だけど、私は忘れていた。
なぎさちゃんが加賀先輩の事を変わってるって言った事を。
その真実は、翌日に分かるのでした。