二 嘘散る里
『博麗の巫女 代替わりの儀
並びに祝賀の宴のご案内』
目の前に突き出されたチラシには、そう書いてあった。
紅白の服を着た少女は、それを見てため息をつきながら、右手のお祓い棒を振り上げる。
「てぇいっ!」
気合と共に打ち据えられたチラシは、たちまち大きな木の葉へと変わり、女の手から離れて地面に落ちた。
「……ええっ!?」
驚きの声を上げる女に向かって、
「見てのとおり、これは妖怪のしわざ。タヌキかキツネか……とにかく、そいつらが撒いたデマだから」
うんざりしたような顔でそう言い、当代の博麗の巫女──霊夢は再びため息をつく。
「ええ~。せっかく、こんなところまで歩いてきたのに……」
「『こんなところ』って……まあ、いいけど。
だけどね、変だと思わなかったの? 何の前触れもなく、巫女が代替わりするなんて」
「うーん、そうですねえ……でもなんとなく、そういうものかなって……」
腕組みをして問う霊夢を前に、ぽりぽりと頬を掻く。その顔に、鋭い声が飛んだ。
「そう、それ!」
「ひゃいっ!?」
「そうやって、ぼんやりした考えで生きているから、こういう嘘を簡単に信じこむの。それは心に芯が通っていないせい。芯が通っていないというのは────」
びしり、と女の鼻先に、お祓い棒が突きつけられた。
「つまり、信心が足りないの!」
「は、はぁ……?」
のけぞって目を白黒させる女に、さらに言葉を浴びせる。
「信心が足りないと、神様の力添えもない。
そういう人は、詐欺や妖怪に騙されやすくなる。
そして、騙されてとはいえ、神社に来たのも何かの縁。
二度と引っかからないように、しっかり拝んでから帰りなさい!
……もちろん、お賽銭もしっかりね!!」
まくしたてる勢いに、はい、はい、と何度も頭を下げる。
そんな女の様子に、よろしい、と満足げに頷いて、霊夢は縁側に腰を下ろすと、飲みかけだったお茶を一口すすった。
が。
「……ん?」
はたと眉根を寄せると、
「ねえ、ちょっと待って!」
去ろうとした女の背中に声をかける。
「はい?」
「あなたの少し前にも、そのチラシ持った人が何人か来て、追い返したんだけど……。ここまで登ってくる途中、その人たちから、これがデマだって聞かなかったの?」
呼び止められた女は、えーと、と考えこんで、
「いえ……誰とも会いませんでしたよ。
なんだか変な……獣……?……だか、犬だかとなら、すれ違いましたけど……」
「……はぁ?」
首をひねる霊夢を尻目に、こちらも首をひねりながら、女は拝殿のほうへと引き返していった。




