第3話
予鈴が鳴り、朝のホームルームが終了する。
クラスの人間のほとんどが、瀬海という転校生に群がっていた。
僕は人混みに揉まれるのが面倒だったので、一目散に教室から走り出た。
「……ん」
一瞬、転校生と目が合った。色はもうなくなって、白黒だ。
「……」
視線を外し、今にも群がろうとしてくる人混みを抜けていく。
そして、お茶を買って戻ってきたのは10分後。
あれだけ群がっていたであろう生徒の集団は、談笑する者、授業の予習をする者。
いつものあるべき姿へ戻っていた。
生徒の一人に話しかけると、次のようなことが起きたらしい。
委員長の一条が転校生に話しかけた際、その呼びかけを無視。
それがどうやら気に食わなかったらしく、…後の想像は容易だ。
スクールカースト最高位の力で、群がる生徒達から瀬海を排除。
転校生を1日目にしてハブにしようという魂胆らしい。
「それは、なんというか、災難だったね……」
呟きながら座席に座る。
右隣の転校生に視線を向けても一向にこちらを向くことはない。
話す気はないってことか。
「僕の名前は、高島雄介。何か分からないことがあったら聞いてね」
転校生は無視の一点張り。返事すら返さない。
うまくいくわけないか……。
そう諦めかけたその時、
「ーーーーーーなんで、さっき転んだんすか?」
ギリギリ聞き取れる声量で、彼女から返事が返ってきた。
「えっと……」
急な質問だったもので、返答に口ごもってしまったが、なんとか口に出してみた。
これが、何かの取っ掛かりになればいいんだけど。
「小学生の頃に事故で目の色彩感覚を失ったんだ。だから、見るものは全部白黒に見えるんだよ。でも、さっきキミを見たときに色が戻ったんだ。それで、驚いて、嬉しくなっちゃってさ……」
早口でまくし立てる。彼女の目が丸くなっていた。
「あ、ごめん。……それで、こんなこと言われるのは筋違いだって思うかもしれないけど、ありがとう」
「は、はぁ……」
突然の感謝の言葉に戸惑いの表情を浮かべてから、一言呟いた。
「大変なんすね……」
彼女の目つきが、少しだけ変わった。
「な、なに……?」
「いえ、何も。お気になさらず」
それだけ言うと、彼女の視線は前に移ってしまった。
「ーーーーーー目、治ると良いっすね……」
「え……?」
また、話しかけてきた。いや、今度は独り言?
彼女の顔を覗くと、口元に微笑が浮かんでいた。
「ーーーーーーうん、ありがとう」
少しだけ、彼女と話すのも悪くないと思う自分がいた。